叔父の話

675 :本当にあった怖い名無し:2010/12/20(月) 02:47:57 ID:RyULkKcO0

昔、まだ全然昭和で俺が小学校入りたてのガキだった頃、親父の年の離れた弟である
叔父がうちに居候していた。叔父は良い大学を出ていたにも関わらず、就職もせず、
実家をおん出て飲食店を経営してた兄のとこ、つまり俺んちに転がり込んできた。
叔父は毎日昼前に起きては釣りに行ったり、パチンコ行ったりとのんべんと暮らしてた。
口は悪いが明るくて面白くて悪い遊びもいっぱい教えてくれて俺にとっては最高の兄貴
みたいな存在だった。


俺が住んでたとこは映画館が一つしかないような片田舎の小さな町で、町の人ら
は自堕落に暮らすうちの伯父に対し口さがない噂を叩いていたようだが、伯父は意に
介さずと行った態で、ガキの俺を子分のように引き連れては釣りだ、映画だ、パチンコ
だ、祭りに花火だと毎日毎晩遊び回っていた。
ある日母が婦人会の会合とやらで日がな外出、父に頼まれた伯父が母の代わりに店番
をする日があった。これまでも時々伯父が店に立つ日があったのだが、この日は
ちょっと事情が違った。
夜10時頃店が閉まると、親父は伯父を呼んで説教を始めた。ガキの俺が耳をダンボに
して聞いてるとどうもレジの勘定が合わない、しかも結構な額で、と言う事情だった。
段々と声を荒げてくる親父、伯父に対する普段の鬱憤がここぞとばかりに吹き出し
説教は非難に変わった。下を向いて聞いてた伯父もそこまで言われてはと言い返し
だし、最終的には激しい口論になった。無力な子供の俺はただオロオロするばかり。
今にも二人は取っ組み合いの喧嘩になるんじゃないかと目に涙を貯め事情を見守って
いるところへ母が帰宅。母が文字通り身を挺しての懇願でその場は収まった。
「俺は盗っとらんからな」と吐き捨てると伯父は2階にある自分が寝泊まりしている
部屋へ引っ込んだ。



676 :その2:2010/12/20(月) 02:49:22 ID:RyULkKcO0

翌日の土曜日、俺が学校から帰ってくると伯父が今で一人テレビを見ていた。
俺を見つけると「よう、カズ坊。釣りに行くぞ」と誘ってきた。
その日の天気は薄曇りの晴れ、前日の夜まで降り続いた雨で川は絶対に釣りに向いて
ないだろうとは思ったが、赤く泣きはらした伯父の目を見ると子供心に伯父を気遣い
釣りにつきあうことにした。
行く先はいつもの滝。40分程歩き、山道の細い脇道を降りると、いつも釣りに
くる滝へ出た。案の定川は前日までの雨で水位を増しており、滝壺からは泥の色の
濁流が渦を巻いて流れ出していた。天気は家を出た頃よりも曇り気味。滝の周りには
木が茂り弱い日光も遠ざけいっそう薄暗い。
暗い森の中に伯父と二人、普段は冗談好きな伯父が今日は言葉少ない事も気になり、
俺は伯父を気遣うように場を盛り上げようとはしゃいでる振りをしてた。
いつもの岩に腰掛け、伯父と二人で釣り糸をたれる。水位2メートル以上はあろうかと
言う濁流に餌を投げたところで浮きは流されるばかりで釣れる訳もない。俺は段々
退屈になり前夜の寝不足もあってうつらうつらしてきた。
ふと隣を見ると伯父がいない。「あれ?叔父さん?」と辺りを見回す。
振り返ると、背後の伯父と目があった。伯父は両手のひらを旨の前に出し、俺を前に
押しやろうとする格好で立っていた。目の前は濁流。理解し難い事情に固まる俺。
手を前にやったまま無表情で身じろぎしない伯父。
暫く見つめ合う俺と伯父、俺は兎に角気合いで負けたら駄目だと直感で感じとり
目に力を入れて伯父を見返していた。暫くすると強い風が吹いた。風は木々の葉に
貯まった水滴を落し俺らの周りに雨のように降った。額に水がかかりはっとする俺。
「叔父さん、父ちゃんが待ってるかもしれんけん俺先に帰るから」
わざと父ちゃんの部分に力を込めた。子供心に虎の威をかったつもりの知恵だった。
伯父ははっとして、「お、おう。先かえっとき。大丈夫か?」とうつろな表情で言った。


677 :その3:2010/12/20(月) 02:51:06 ID:RyULkKcO0

俺は振り返らず歩き出すと、暫く進んで走り出した。全力で。振り返ったらあの無表情
な伯父がすぐ背後にいる気がして。夢中で走った。
家に帰ると伯父が帰ってくるのが怖くて、布団に潜り込んだ。店から帰ってきた母から
「どうしたの?具合でも悪いとね?」と聞かれたが俺はただ疲れた、眠いとだけ言い
その日はそのまま寝てしまった。伯父はとうとうその夜帰ってこなかった。

日曜が過ぎ、伯父は翌日の月曜日に滝から大分流された下流の中州で見つかった。
遺書が無かったために、伯父は釣りに行って足を滑らせ濁流に流された、と言う
事になったらしい。親父がその日、何もないがらんとした伯父の部屋から包丁を
見つけた。
親父は伯父の出棺の時、お棺にすがりついて号泣していた。

どうしても欲しかったGアーマーのガンプラを近所の模型屋で見つけ、伯父の目を
盗んで店のレジから1000円抜いたのは俺だった。伯父は多分事実を知っていた。
親父も気付いてたかもしれない。でも誰ももうそのことを話そうとはしなかった。
俺は今何をやってもうまくいかない。未だにあの無表情な伯父の顔を夢で見て飛び起きる。
叔父さんごめんなさい。許して下さい。
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