押入れの姉@

900 「押入れの姉」 sage 2010/09/09(木) 16:02:06 ID:KzzABe100

小学生のころ、不思議な体験をしました。

自宅で昼寝をしていると姉に起こされ「押入れの中に誰かいるから見てきてほしい」と言うのです。
両親が不在だったので唯一の男である僕に助けを求めたのでしょうが、正直怖かったです。
ですが年の離れた姉に頼られて幼い自尊心を刺激されたのでしょう、僕は後ろに姉をかばうようにして居間に向かいました。

押入れのふすまはピッタリと閉まっていて、なにもおかしな様子はありません。
「中にいるよ」
後ろから抑揚のない声が聞こえます。
……それが本当に姉の声だったのかどうか、今では思い出せません。

幼稚だった僕は警察や大人を呼ぶという選択すら浮かばず、震える手でおそるおそるふすまを開けていきました。

スゥー……

押入れの片側を全開にすると、女性が倒れているのが見えました。
胎児のように体を丸めて、安らかな寝息をたてているその女性は、しかし紛れもなく姉でした。

僕は弾かれたように後ろを向きます。
すでに誰もいません。
押入れの中に目を戻すと、やはり姉が眠っています。

僕はわけもわからずその場にへたり込んでしまいました。
たった二人の姉弟なので顔を見間違えるはずもないのです。

とにかく姉を起こしていまの出来事を話さねばと伸ばした手が、途中でぴたりと止まりました。
……恥ずかしい話、当時の僕は姉に対して複雑な感情を抱いていたのです。



901 「押入れの姉」 sage 2010/09/09(木) 16:04:39 ID:KzzABe100

どちらかというと厳格な父母に比べ、優しくて気さくな性格。
すでに中学3年だったものの、おそらく同年代の女子と比べても大人びた体躯。
外出先や両親の前では行儀よく振舞っていた姉が、自分と二人きりになった途端に薄着になって抱きついたり
してくるので、そのたびに動揺しきりでした。

そんな姉が、目の前で純白のブラウスと……下はショーツだけという平素にも増して無防備な格好で横たわっているのです。
しかも普段はポニーテールに結ってある黒髪がほどかれ、どこか艶やかな印象さえ感じました。

伸ばした手が、本能のままにあらぬ部位を触れてしまう前に、邪念から逃れるように、僕はふすまを閉めました。

姉は無事なのだから、そのまま寝かせておいてあげればよい。
無理やり自分を納得させてソファに腰を下ろすと、強烈な睡魔に襲われました。
起きていてもなにかできるわけではないのですが、押入れの姉を守らなくちゃいけない、というような使命感に
駆られ、重いまぶたを必死で持ち上げ、何度も首をこっくりさせながら眠気に抗っていました。

そんな攻防がどれほど続いたのか、定かではありません。

ガクン!

突然の衝撃でハッと目を覚ましました。
どうやら体が倒れ掛かっていたようで、あわてて身を起こし、周囲の状況に呆然とします。

真っ赤なのです。

床といわず天上といわず、あらゆる家具や調度品にいたるまで、なにもかも真紅に染まっていました。

夕焼け……きっとそうだったのだと思います。
それはただの西日であったのだと、今でも自分に強く言い聞かせています。




902 「押入れの姉」 sage 2010/09/09(木) 16:06:37 ID:KzzABe100
どこか異次元めいた黄昏の光景の中で、押入れのふすまがゴソッと音を立てて揺れました。
僕は誰かに呼ばれた気がして、夢遊病者の態で押入れに向かい、何の迷いもなくふすまを開けます。

先ほどと寸分たがわぬ姿勢で姉が寝ていました。
ですが透き通るように白かった肌が、禍々しい妖光に照らされて赤く輝き、まるで、

まるで……。

以前にも……どこかで……こんなモノを見たような、気がしました。

言いようのない既視感にとらわれつつ、僕の体はするりと押入れに侵入し、姉のやわらかな腰に
馬乗りになり、小さな体で覆うように抱きすくめました。

なめらかな肌の感触に原初の欲望を掻き立てられ、夢中で体をまさぐり、姉の端正な顔に自分の頬を摺り寄せました。

永遠にこうしていたい。
物言わぬ姉の体温を感じながら涙さえ溢れてきました。

一刻も早く姉と二人きりになりたいと思い、内側からふすまを閉めようとします。
狂気じみた赤光がだんだんと細くなり、完全に閉じようとしたそのとき、耳元で姉がささやきました。

『にげなさ……』

バンッ!

聞き覚えのない声が言葉を結ぶ前に、僕の体がものすごい力で押入れから引き戻されたのです。
急転する視界が定まると、眼前には学校の制服を着た姉がいました。

「なにを見たの」

蛍光灯の無機質な明かりのついた室内で、両肩をがっしりと掴まれていました。
真正面から見据えるその表情はとても険しく、いつもの朗らかな姉からはまるで想像できないものでした。


903 「押入れの姉」 sage 2010/09/09(木) 16:08:02 ID:KzzABe100
「なにを、されたの」

尋常ではない気迫に声も出せず、痴呆患者のように、無人となった押入れと姉の顔のあいだで視線を泳がせるしかありませんでした。

「驚かせてごめんね……でも大事なことだから」

やがて僕が震えていることに気づいたのでしょう、姉はいくぶん穏やかな声で問いかけてきました。

僕はたどたどしく、事の顛末を話し始めました。
支離滅裂な内容にも関わらず、深刻な表情を崩さぬまま聞き入っていた姉が、途中でふと顔を赤らめるところがありました。

「押入れの中にいたのは、わたし、だったの……?」

鋭かった眼光が急にやわらぎ、すこし小首をかしげるような仕草をしました。
なぜ押入れに「誰か」がいたことには触れず、そこにいたのが「自分」だったことに驚き、しかも頬を紅潮させたのか、僕には
知る由もありませんでした。

「どんな……格好をしていたの?」

そう聞かれて、今度は僕がうつむく番でした。
シワひとつない紺のブレザーを着込んだいまの姉と、脳裏に強く刻まれたあられもない姿の姉が、どうしても重なってしまったのです。

「だ、大事なことだから……ね?」

ひざを突いたまま、上目遣いでこちらをのぞきこむ姉の耳朶が、まだ赤らんでいるのが見えました。
もともと姉にウソをつくという習慣がなかった僕は、正直に話すしかありません。

「そう……着物では、なかったの」

独り言のようにつぶやく姉はなぜかホッとした様子でした。


904 「押入れの姉」 sage 2010/09/09(木) 16:09:24 ID:KzzABe100
その後も、ソファで眠りそうになって、気づいたら夕暮れになっていたこと。
姉と一緒に居たい衝動に駆られ、押入れに入ったことを、恥ずかしい気持ちを抑えて語りました。

「本当に、それだけ?」

姉の尋問はさらに続きました。

「なにか、唄のようなものは聴かなかった?」

唄に覚えはなかったので、首を小さく横に振りました。
でも最後、自分になにか言葉をかけてきたのは覚えています。

「……なんて、言ってた?」

たしかあのとき姉は……いえ、姉に見えていた正体不明のなにかは、

『逃げなさい』

そう、言おうとしていました。

「にげ……ろ?」

その言葉があまりに意表をついていたのか、姉は目を丸く見開き、引き締めていた口元をわずかに開けて呆然としていました。

ですが表情を弛緩させたのもつかのま、次の瞬間には眉間にしわを寄せて、奥歯をギュッとかみ締め、なおさら剣呑な雰囲気に戻ったようです。

僕の肩を掴む手に万力のような力を込め、視線は床に落としたまま、「いつまでもいつまでも…」とか「あの女…」などと、
なにやら呪詛めいた言葉をぶつぶつと吐き続けていました。

両肩のあまりの痛みにうめくと、姉はハッとして僕から手を離し、肩をさすりながら「ごめんね、ごめんね」と
何度も謝っていました。


905 「押入れの姉」 sage 2010/09/09(木) 16:11:15 ID:KzzABe100
いつもの優しい姉を見れて内心安堵する僕に、姉はポツリと

「あのね……服を、脱いでくれないかな?」

突然の要請に、ただでさえ心ここにあらずだった僕は、完全に硬直しました。
わけがわからない。
どうして、と訊いても「必要なことだから」と強く返されるだけでした。

おそらく反抗しても無理やり脱がされるであろうことを予期し、僕は渋々と寝巻きを
脱いでいきました。
まだ姉と一緒に入浴する習慣を残していた僕でも、異性がまじまじと見つめる中で
脱衣するのは羞恥といえました。

やがて白いブリーフだけの姿になって「これだけは絶対脱がない」という意思表示をすると、
姉は多少バツが悪そうにしたあと、僕に顔を近づけてきました。

どぎまぎする僕など意に介さず、姉は指先から手、二の腕へと、弟の体をつぶさに観察してきました。
穴が開くほど近くで、ときにはスンスンと鼻さえ鳴らしながら、なにかを懸命に探しているようでした。
それは骨董品を目利きする鑑定士というより、獲物をさがす猛禽のように思えました。

僕はあまりの恥ずかしさに涙を浮かべて耐えていました。
胸元や首筋を調べられるとき、きめ細かい肌や薄桃色の唇が迫るたび、押入れの中での一件が
思い起こされ、理解不能な感情に陥りました。

だから、姉が腑に落ちないという顔で僕から離れたときも、開放されたという思いだったのか、
それとも倒錯の時間が終わってしまったことを悔やんでいたのか、よく覚えていません。

「おかしいわ……見当たらない」

姉は思案顔のまま押入れの前まで行き、僕に背を向けた状態で「カゲシロもなく出てこれるはずが……」
と、また独り言を繰っていました。
まだ物事が落着していないことを肌で感じた僕は、服も着れないでじっと姉の反応を待ちます。

押入れの姉Aへ続く
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