賭けA

僕とサオリさんで自己紹介と自己アピールを済ませる。
見える人が二人もいるという状況は初めての経験だ。

「それでこれからどうするんですか?」

「ああ、何か二人の話聞くと、必ずユーレイが出る場所ってのは案外少ないんだと。だから、こっちがユーレイ呼び出すってのが一番確実なんだとよ。つーわけで今からお前の家まで行くぞ」

「は? 僕の家!?」

「だって俺とパシリの家だとどっちかが細工出来るだろ? 女の家に野郎三人行くわけにもいかないし。で、お前の家に決定」

最悪だ。
だから僕を呼んだのか。

「だったら僕、家で待ってたほうが良かったじゃないですか?」

「お前の面白いリアクション見たいからに決まってんだろ? なぁ?」

「……お前。分かってんなぁ」

くそ。
こんな時だけ息ピッタリだ。


結局逆らえるはずもなく一行は一路僕のマンションへ。

「何この水槽。お前魚飼ってんのかよ。何これ? エビ? 食いごたえのねぇサイズだな」

「食べないですよ。魚はいません。孵化したばかりとか脱皮後にエビ食べちゃうんですよ」

「……生き物いるのか。まあそんぐらいなら大丈夫かな」

「何かまずいんですか?」

「大丈夫、大丈夫」

「で? これからどうすんだ?」

「えっと、パシリさん、何か呼び出す方法知ってる?」

「サオリちゃんはこっくりさん以外で何か知ってんのあんの?」

「や、知らないけど」

「じゃあこっくりさんでいんじゃない?」

こっくりさんのやり方は今更書くまでもないだろう。
筆や墨汁など持っていないので、筆ペンとロウソクを買いにコンビニまで走る。
帰る途中に言ってくれると非常に助かるのだが。
また家から出るのは嫌なので、ついでにA4サイズのコピー用用紙を三枚貰う。


家に帰ると先輩とパシリさんが喧嘩をしていた。

「アイス食ったぐらいでガタガタ言ってんじゃねーよ」

見ると、僕の家の食料や飲み物がテーブルの上に散乱していた。
ああ、僕のハーゲンダッツ・抹茶クリスピーサンドが……。

「二人ともやめなよぉ。ほらマサシ君帰ってきたよ」

そういうサオリさんの言葉を聞く二人。
僕の方を血走った目で見るパシリさん。
一方、しらけた目で僕を見る先輩が僕に言う。

「おい、マサシやめだ。こんなの賭けにならねえ。何が幽霊だバカバカしい」

「なんだそりゃ? 負けを認めんのか?」

「ああ、もうそれでいいよ。ちょっとでも期待した俺がバカだったわ」

「これなーんだ」

そう言うとパシリさんが超人気格闘技(?)戦のチケットをヒラヒラと見せびらかす。

「こっちが負けたときのこと言わなかったじゃん。オレが負けたらコレやるよ」

パシリさんがそう言うと先輩は大人しくなり、てきぱきとテーブルの上を片付け始めた。
何なんだ。
あんた、格闘技ファンだったのかよ。


賭けの内容は、以下のようなものだ。
こっくりさんで霊を呼び出す。
→霊が来たと二人が認める。
→その霊の情報を自分の見える範囲内で出来るだけ細かく書く。
→先輩と僕が答え合わせ。

ルール。
二人が諦めるまで。

笑えねえよ……勘弁してくれ。

配置は中央にテーブル。
僕の右隣にパシリさん、正面がサオリさん、左隣に先輩。

最初のターン。
こっくりさんこっくりさん。

「何か白々しいな。この歳でこっくりさんとか」

「懐かしいですよね」

「アタシ昔、好きな男子の名前ばらされたよ。コレで」

「おい、真面目にやれよ」

「その顔でクラス委員長みたいなこと言うなよ」

もちろん数回で何かが出るわけがない。
何度も仕切り直してこっくりさんと唱え続ける。


「ちょっとトイレ行って来るわ」

パシリさんがそう言って部屋の電気を点けて一時休憩をとった。
ロウソクは細いものなので、燃え尽きそうだった。
新しいものに交換し、パシリさんを待つ。

「そうそう簡単に幽霊なんて呼べないよぉ」

「それはそうっすね」

「もういんじゃねーの? 飽きてきたわ」

「まあまあ、もうちょっとやりましょうよ」

「そーだよ。もうちょっとしよーよ」


こっくりさんこっくりさん
「……まだだな」

こっくりさんこっくりさん
「……まだ」

こっくりさんこっくりさん
「……」

ロウソクで仄かに赤く照らされた部屋の中。
ロウソクの揺らぎで部屋の中がゆらゆらと揺れているように見える。

こっくりさんこっくりさん

エアコンを切っているので、段々蒸し暑くなってくる。
蒸し暑い部屋の中、男女が四人でこっくりさん。
中々にシュールな光景。
ロウソクは燃え尽きそうだ。
次のターンに行く前に交換しなければ。
ロウソクの揺らぎが強くなる。
揺らぎ?
風はない。
冷たい汗が背中を伝う。
嫌な予感。

「……来たぞ」

「来た」

パシリさんとサオリさんが小声で囁く。
その声に反応するように、ロウソクが燃え尽きる。
最後に煙を一吐きしたロウソクは、じりと音を立てて消える。
辺りは暗闇になる。
誰もしゃべらない。

ひた ひた ひた ひた

裸足で何かが歩く音がする。
冷たく、湿りを感じさせる音。

ひた ひた ひた ひた

音を立てないように気をつけて歩いている、そんな音。
視界が奪われた時の耳の感度は高くなる。
今はそれがアダとなる。

ひた ひた ひたっ

足音が極近くで止まる。
もちろん僕たち四人はこの場にいるはずだ。
四つの指が未だテーブルの上にあることがそれの証明になる。
僕の真後ろに誰かがいる。
誰かの視線を感じる。
うわん、と耳鳴りがする。
汗が背中に線を描く。
ぞくり。
しばらくの間誰も動かない。
衣づれや呼吸さえも聞こえない。

こっくりさんこっくりさんいるのでしたらへんじをしてください

サオリさんの呼びかけ。
10円玉がゆっくりと動くことを指先だけで感じる。
暗闇が文字を見ることの邪魔をする。
何と書いているのか、それは分からない。

こっくりさんはいまどこにいますか

ぐうっぐうっ、と二回大きく動く。

こっくりさんはおとこですか

ぐうっ、と一回動く。

こっくりさんはおんなですか

ぐうっ、と一回動く。
分からない。
真っ暗で文字を判別できない。
それでは性別がどちらか分からない。

こっくりさんのなまえはなんですか

ぐうっぐうっぐうっ、三回、三文字か。

こっくりさんはせがたかいですか

ぐうっ、と一回。

10円玉が力強く動くたびに得体の知らないものに対する恐怖が僕を包む。
僕の後ろから腕を伸ばして、テーブルの上に指を置いている。
想像すると恐ろしい。

「こっくりさんは死んでいますか」

先輩が急に口を開く。
ぐうっと、一回動くと同時に、その動きが激しくなる。
ぐるぐると10円玉が動き続ける。
止まらない、止められない。

「こっくりさんは死んでいますか」

先輩が質問を繰り返す。
動きはしつこく同じ場所をなぞりながらも右へ左へと滅茶苦茶に動く。
先輩の低い声が部屋に重く響く。

「こっくりさんは死んでいますか」

何の意図があるのかが分からない。
ますます動きが強くなる。
動きが激しくなる。
腕が痛い。
指先を離してしまえば楽になるかも――

「こっくりさんは死んでいるんですよね」

今度は細かく速く右に左に動く。
はい、のところを何度もなぞっているのだろうか。

「死んでいるなら、何でここにいるんですか」

ピタリ。10円玉が止まる。

「死んでいるのに、何でいることができるんですか」

10円玉は動かない。



ひた ひた ひた ひた ひた ひた ひた――

足音が遠ざかっていく。
耳鳴りが徐々になくなってくる。
しばらく誰も動かなかった。


サオリさんが終わりの儀式をした後に電気を点ける。

「いやぁ怖かったな、今の」

「ホント、すっごいはっきり見えたよ」

「何言ってんすか。真っ暗で何も見えないっすよ」

「いや、かなりはっきり見えたぞ」

「うん」

「そんじゃあ、コレにその特徴書いてよ」

二人は今しがた見た不思議な現象の主の特徴を書き始めた。

パシリさんの書いた内容。
背の高い女。
帽子。
濡れている。
片足のヒール。
裾の汚れたワンピース。
猫背。

サオリさん。
小学生くらいの男の子。
坊主頭。
ホクロ。
垂れ目。
名札かタグのついたセーター。
顔色が悪い。

一致するところが一つもない。
これは……。

賭けBへ続く
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