賭けB

「つーわけで、賭けは俺の勝ちだな」

先輩はパシリさんからチケットを奪い取った。
皺が出来ないように大事そうに財布へ。

「待て待て! ありえないだろ。サオリちゃん何コレ? あんなにはっきり見えたのに?」

「それはこっちのセリフだよ。ホントに見えたの?」

「どっちでもいいよ、幽霊なんていないから」

「もう一回やらせろ。今のはおかしいって。他の人呼んでこい」

「ムカツクー。アタシちゃんと見えたもん。嘘なんてついてないもん」

やめて下さい。
夜に騒ぐと大家さんに怒られる。
もしくは通報される。


結局、勝負事のルールは絶対、という先輩の一言。
チケットを手に入れた先輩だけが得をするという結果となった。
二人が諦めるまで、というルールがあったはずだが僕は黙っていた。
これ以上揉めるのは勘弁願いたい。


バイトに間に合いそうな時間だったので、僕はサオリさんに頼み込み同伴と言う形で出勤。
賭けに関係のない僕が一番損をするという状況を回避した。
先輩たちはケンカをしながらどこかに行った。
飲みにでも行くのだろう。


サオリさんは楽しんでくれたようだ。
次は指名してあげる、とワザとらしい投げキスをくれた。


家に帰り部屋の乱雑さに辟易した。
汚した人間は勿論先輩たちで、片付けなければならない人間は勿論僕だ。
明日に持ち越すことの方が面倒だなと思う。
のろのろだらだらと部屋を片付け始める。
四つのコップ。
ハーゲンダッツの残骸。
ポテトチップスの殻。
タバコの灰。
まとめてゴミ箱へ。

ふと見ると、水槽の様子がおかしい。
水草がメインのアクアリウムだが、全て枯れている。
なにこれ?
なにこれっ!?

pi prrrr
「……おぉ。今何時だよ。……こんな朝早くから何だ?」

「パシリさん! 水槽の中が変なんですけど! 始める前に生き物がどうとか言ってましたよね?」

「おいおい、いきなりだな。ああ、やっぱ死んじゃってた?」

「全滅ですよぉ。結構キレイにしてたのに」

「こっくりさんやる時は10円玉に指をつけてないヤツは狙われんだよ。人間じゃないなら大丈夫かなあって思って。わり」

「そんなぁ、今までの苦労が……」

「まあそんな落ち込むなよ。エビくらいオレが買ってやるよ」

「エビ? うわああああ! レッドが! チェリーが! ヤマトも! ……ヤマトはいいや」

「そんなキャラだっけお前? エビじゃなかったのかよ」

「いや、エビもです……結構手に入れ辛いグレードのも含めて全部……」

「いくらぐらいすんの?」

「一番高いので一万円くらいです……」

「はぁ!? お前、バカか! 伊勢エビのが安いわ」

こんな不幸があったのにパシリさんは散々馬鹿にしてゲラゲラ笑い、電話を切った。
ひどい。
部屋の片付けなんて知るか。
もう勝手に汚くなればいいんだ。


Prrrr先輩だ。
「おい、聞いたぞ。クソ高いエビちゃん死んじゃったんだってな」

「もういいんです。もう……」

「俺が買ってやるよ。一万くらいなら」

「え? 先輩。太っ腹ですね。でもお金じゃないんですよ。気持ちだけいただきます」

「まあとりあえず、朝飯まだだろ? こっち来いよ」


昼前に先輩と会うのは珍しいことだ。
幹線道路上によくあるGのつくファミレスに集まった。

「何でも頼んでいいぞ。おごってやる」

「先輩……。ありがとう御座います」

「いいって、いいって。昨日は迷惑かけたからな。侘びと、お礼も兼ねて。安いもんだこれくらい」

「そんな、気にしなくてもいいですよ……お礼?」

「おお。ダフ屋にチケット売ったら、財布パンパン」

「先輩。それが目的だったんすか?」

「俺でも知ってるチケットだったから高く買い取ってくれるとは思ったけど、あんなに高いとは思わなかった。男の裸のガチンコ見て何が楽しいんだろうな」

先輩、そのセリフ、色々な人たちを敵に回しそうです。

「そうっすか。良かったじゃないですか。僕のエビたちも浮かばれます」

「そうだな。まあ集団ヒステリーの典型みたいなのが見れていい経験にもなったわ」

「でも先輩も酷いですよね。僕たちが幽霊呼び出しておいて、何でいるの? って酷すぎですよ」

「ああ、どういう構造か知らんけど、よく出来たゲームだなあれは」

「こっくりさんがですか?」

「おお。人間がああいう状況下に置かれると、見えもしないものが見えちまういい例だ。ストレス起因なのか、もしくは暗示なのか」

「え? もしかして先輩にも見えてたんですか?」

「そりゃ見えるだろ。お前見えなかったの?」

「いや、後ろに何かいるなあ、とは思ったんですけど」

「後ろ? ふーん。こんな話知ってるか――」
――学生を対象にこっくりさんの実験を行ったんだと。
例のごとく質問したらしい。
ある程度の質問が終わった。
被験者の名前とか初恋の相手とかな。
その後、被験者には知りようもない質問をしたんだ。
結果としてこっくりさんが答えたのは外ればかり。
昔のことから現在のことまで色々な質問をしたが、答えは全て外れ。
結局こっくりさんは事前情報ありきの集団ヒステリーという結論に。
もっと噛み砕くと、こっくりさん自体が有名すぎるために、無意識の筋肉の動きを意味が繋がるように被験者全員で動かしてしている、ってこと。
ああいう毛色のイベントは何かが起きて欲しいという期待を持ってするものだからな。
もちろん今回の賭けも俺も含めてみんな何がしかの期待をしていただろう。
あの質問は俺たちが分からないものにしただけ。
それっぽい質問でな。
で、お互いの証言に修正を行わせないためにアンケート型の方法採ったんだわ。
結果、見事に外しててちょっと笑えたけどな。
前にも言ったが、幽霊がいることと幽霊が見えることは違う。
見えるのは錯覚や幻覚、または幻聴の類だ。
見えたとしてもそういう存在がいるわけじゃないんだ。
いたら人間だけでなく様々な種類の何億・何兆もの幽霊がいなきゃおかしいだろ。
幽霊になるものとならないものが選り分けられる理由が分からないだろ。
統一感が全く無い現象は再現できないんだ。
科学が宗教と言う意見もある。
が、科学のいいところは全ての人間が行うと、全ての結果が同じであるというもんだ。
再現可能性のない事象は無いものと見做されるんだよ。
霊能者だか何だか分からない者しかその存在を確認できない。
そんなもの、存在がないと断定しても全く不都合がないんだよ。
まあいいや。
で、実際に俺たちにも同じような集団ヒステリーが起きたわけ。

まあ、コレ見ろよ。

長々と語った後、先輩はこっくりさんの時にアンケートとして使った紙を出した。

「まだ持ってたんすか」

「いや、おもしれえんだって、これ」

「何がですか?」

パシリ
『背の高い女』
『帽子』
『濡れている』
『片足のヒール』
『裾の汚れたワンピース』
『猫背』

サオリ
『小学生くらいの男の子』
『坊主頭』
『ホクロ』
『垂れ目』
『名札かタグのついたセーター』
『顔色が悪い』

何だ?
共通することなどないと思うが。

「気付かないのか?」

「背の高い女と小学生の男の子じゃ全然違うじゃないですか」

「そこじゃねえ。こいつらのカッコだよ」

何だ?
女は帽子。
小学生は坊主。
濡れている?
顔色?
分からない。

「すみません、ちょっと分からないです」

「想像しろ。なぜ、パシリは身長や片足のヒールやワンピース、猫背と答えたか。想像しろ。なぜ、サオリはホクロや垂れ目、顔色と答えたか」

「何ですか一体?」

「こいつらには共通項がない。なぜこうもはっきり違うのか。あいつらの様子だと、見えていなかったわけではなさそうだしな」

「引っ張らないで下さいよ」

「分かったよ。距離感だ」

「距離感?」

「そうだ。パシリは女の全体像、遠くにあるものの特徴を言っている。サオリは主に顔や上半身の特徴、つまり近いものの特徴だ」

「もしかしてそれって……」

先輩がニヤリと笑い、結論を口にする。

「こいつら別々の何かを見ていたんだよ」

「幽霊が二人!?」

「幽霊なんかいないけどな。だが、お前のもカウントするなら三人以上か」

そう言いながら先輩はタバコに火をつけた。

待てよ?
三人以上?
先輩にも見えていたって言ってたな。

「じゃあ先輩には何が見えたんですか?」


「ぎゅうぎゅう」


「は?」




「満員電車みたいだった」

自分の部屋に帰るのが嫌になったことは言うまでもない。
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