運び物@

僕が学生の時の話。
当時僕は女性を相手にするアルバイトをしていた。
春を売るような違法なバイトではない。
あまり褒められたものではないことも確かだけれど。

ある夏。
「急遽店の改修のため、スタッフは休み、キャストは系列他店ヘルプ追って指示」
そっけないメールを店長から貰った。
完全なスタッフ要員とヘルプや雑用などの間接的に売上に貢献しているのを総称してスタッフ。
売上に直接貢献していていてさらに売上トップ5人がキャスト。
間接工、直接工みたいな感じ。
もっと簡単に言うと、スタッフはバイト、キャストはプロみたいなわけ方。
僕はスタッフ。
ペーペーだ。
お休み確定。

メールを貰った時正直、急すぎるだろ、と思った。
が、なにぶん水商売と言うくらいだから、色々しがらみやらなにやらあるのだろう。
聞いたらいけないようなこともあるのだろう。

休み三日目の夜、バイトを斡旋してくれた先輩からメールが届いた。
「お前店工事でヒマだろ? バイトやるから●●に集合。一時間以内に来いよ」
先輩よぉ!!
今何時だと思ってるんすか!?
常識考えてくださいよ!!
……とかは 絶 対 言えないので光の速さで準備。
結構、いや相当粗暴なお方なので、僕は恐々としながらも現地に向かう。

二分遅刻した大罪で腿に挨拶という名のキックをいただく。

「今からドライブ。お前このクルマ使え。俺はこっちで行くから」
バイクを指差しながら彼は僕に伝えた。

クルマはフルスモークの黒いレガシー。
同乗しない意味が分からない。
しかし、免許を取っったばかりの僕は、深く考えもせずに了解した。

そのクルマの後部座席はガッツリと倒され、大きな荷物があった。
青いビニールシートがかけられて中は見えない。
僕はそのクルマで、彼は当時流行っていたマジェスティというビックスクーター。
そんな不思議な組み合わせでドライブ&ツーリングに行くことになった。

ハンドルは鬼のように硬い。
なんかくさい。
車高は低すぎてぎゃりぎゃりうるさい。
エンジンいかれてんじゃないか位のエンスト率。
クーラーはギンギンに冷えていて温度調節できない。

散々なクルマだったが、ある程度慣れてくるとそれなりに楽しいドライブだ。
タバコ吸ったり、コーヒー飲みながらの運転がカッコイイと思っていたお年頃。
まさにペーパードライバー丸出し。

結構な距離なのに下の道ばかりで少々時間が掛かった。
信号で止まるたびにヘーフヘーフとエンジンが悲鳴を上げるのには参った。

目的地は山だった。
先導する先輩について行っただけなので正確な場所や名前は分からない。
勿論カーナビなんていうご大層なものはついていない。
ただ途中から国道20号をメインに進んでいたので大体想像できる。
が、申し訳ないが伏せることにする。

大きな道から農家の方々が使う専用の道路のような簡単に踏み固められて舗装されているだけの道路に入る。
僕はとにかく、二輪の先輩は大丈夫なのか心配していたのを覚えている。

20分くらいその道路で走っていたとき。
急に先輩のバイクが止まり、携帯電話でどこかに連絡を始めた。
「〜〜〜、〜〜〜」
何かを話しているのが分かるくらいで、聞き取れない。
あの先輩が電話だというのに口元に手を当て、腰を低くして話している。
多分、目上の方との会話だろうという印象を受けた。

彼はバイクをその場に置き、クルマに乗り込み、ナビをし始めた。

相当な徐行移動だったので100mくらいの距離を進んだくらいなのだろう。
「この辺だと……」
先輩は言いながら、暗い夜道の中何かを探す。
「おお、あった」
先輩が指差す。
そこには黄色い水、いやペンキみたいな物が入ったペットボトルが木に吊るされていた。

先輩はクルマを降りトランクを開け、荷物にかぶせてあるビニールシートを剥がす。
「おい、手伝え」
先輩が引きずり出したのは、木で出来た箱だった。
何の装飾もされていない蓋がぴっちりと釘付けされている。
長さは2mないくらい、幅はその三分の一くらい。
長細い大きい箱。
さらに僕に探検隊やレスキュー隊が頭につけるヘッドライトを渡す。
お互いがそれを頭につけた。

「おい、そっちもて」
先輩に言われたとおりその箱を二人がかりで持つ。
ペットボトルのあるところから道に外れ歩く。

ペットボトルは50mくらいの等間隔でポツポツと見えた。
僕たちはそれに沿ってしばらく歩いた。

スズムシとかカエルとか、夜の合唱団が盛大に鳴いていた。
カエルがいるということは田んぼでもあるのだろうか。
ただ不思議と懐かしい気持ちになった。
あれがエトスというモノなのだろうか?
日本人の習性。
不思議な気持ちだ。

ノスタルジーに浸るより手の痺れがきつくなってきた。
箱はかなりの重量で、しかも取っ手もついていない木製。
つるつると滑る。
もの凄く持ちづらい。
疲れた。暑い。
エトス?
なにそれおいしいの?

どれほど歩いたのか気にするよりも、早くつかないかなぁ、と思っていた。
もう腕が限界に近づいたころ、三人の男たちがいた。

見た目はごく普通の人のように見える。
Tシャツにジーパンまたはスラックス姿。
木製の重たい箱を地面に置いて彼らに合流。

先輩が一言二言彼らに挨拶をし、僕の方に目を向ける。
その中で一番年長者の方にガツリと音が聞こえそうなくらい強く頭を叩かれた。
そしてなぜか謝りながら僕の方に向かって言った。
「悪い。今からちょっとやることあるから、クルマで待ってろ」

僕は彼らにお辞儀をし、クルマの方に向かった。

後方のスペースを存分に使っていた荷物は先ほど降ろした。
やけに後ろが寂しい気がする。
先輩がどれくらいで帰ってくるかとか、何やっているんだろうとかそういう疑問はあった。
が、正直ヒマでしょうがなかった。

壊れたクーラーのおかげでキンキンに冷えた車。
手足が痺れるほど寒い。
今は夜だが、真夏だ。
蚊が入るから窓を開けることは出来ない。
サウナと冷蔵庫、どちらに入る?
そう問われたらアナタはどちらに入るだろうか。
僕は冷蔵庫に入るのを選んだだけだ。
閉じ切った車内、ケータイアプリのドラクエをやっていた。


コンコン

その物音にはかなりビックリした。
先輩が帰ってきたのだと思い、ドアを開けて表に出た。

外には誰もいない。
森の中の暗闇は普通の夜道と違い、月明かりや星が見えづらいためほぼ全くと言っていいほど視界がない。
僕はホラーとか心霊現象とかそういった物は否定派なのだが、さすがにこれほどの暗さは単純に怖い。
向こうから何かが襲ってくるような怖さが暗闇にはある。
動物的な本能なんだろうか、アレは。

誰も居ないのに物音がする。
良くあることだろう。
うん。
まあいいやと思い、僕はクルマに乗り、冒険の世界に戻った。


コンコン

しばらくするとまたノックする音が鳴った。
今度もちょっとビビリつつ表に出た。
二回目だとさすがに何かが偶然当たったとも言いがたいのでクルマの周りをぐるっと確認。

他に物音を発していそうな物は見当たらん。
周りの木が当たるにしては距離がある。
もう丑三つ時近く。
草木も眠ってるだろ。静かすぎて耳鳴りがするなあ。
まさかイノシシとかクマ。
それだったら怖すぎ。
いや、ここで一番会いたくないのはむしろ地主だな。
言い訳できない。
「なんでこんな所にクルマ止めてるの?」「わかりません!」→不審者→通報
笑えねえって。
あ、今、免許不携帯。先輩急に言うんだもんなあ。
など、もんもんと考えながらクルマに戻った。

運び物Aへ続く
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