小人A

まあ呼び出したのは僕だからそんな贅沢は言えない。
僕だって我が身がかわいい。
だが、しかし、それよりも!

「先輩。僕のこと心配だったんじゃないんですか?」

「お? お、おお。シンパイシンパイシンパイ、シンパイ……シンパイって何回も言うと意味分からなくなるな。で? 誰にやられたんだよ」

「ナンバー5さんですよ。あの人優しい人だと思ってたのに」

あんなしょぼいヤツにやられてんなよ、と言いながら背中をバシバシ叩く。
先輩、痛い。
僕、怪我人。



痛みに耐えた夜を越えた翌日。
病院に行き治療を受ける。
腕と肋骨が骨折、多数の打撲・擦り傷。
階段から落ちました、これが鉄板フレーズ。
もちろん先生は信じていなさそうだったが、通報が面倒なのは向こうも一緒なのだろう。
あまり無茶をしないように、と軽いお説教だけですんだ。
治療費すら自腹なのがとてもキツイ。
受付のお姉さんが一番心配をしてくれた。
病院の受付のお姉さんはどうしてあんなに可愛い人が多いのだろうか。
看護婦さんよりもその率が高い気がする。
むしろ看護婦さんは年嵩の方が目立つと思うが。



電話にて店長に連絡。
不慮の事故でバイトに出られなくなりました、と。
店長は先輩から事情を聞いたらしく、笑いながら穏便に済ませてくれた。
完治は一ヵ月後らしいが、二週間もすればバイトに出られるだろう。

その日のうちに業務用の携帯電話に連絡が入った
ナンバー5さんの常連さんであるリカさんからだ。
階段から落ちた話をしたが一笑にふされた。
ナンバー5さんが事態を吹聴しているらしい。
もうナンバー5なんか指名しない、と語るリカさん。
やめろよ俺なんかのためにリカは店で楽しんでくれればいいんだよ、と語れない僕。
あんまりナンバー5さんを責めないであげてね、とヘタれて電話を切った。
ダサいなあ僕、と思い布団の中でバタバタ身悶える。
痛い。



二週間後、バイトに復帰。
お客様や上司・同僚たちは大体の事情を理解していたようだ。

お前休みすぎだよ。
リョウお勤めゴクロー。
もっとゆっくりしてても良かったのに。
普段鍛えてないお前が悪い。
客が俺に流れたからむしろ助かったわ。

皆、暖かい言葉で復帰を迎えてくれた。

事情は誰も話さない。
そのことに触れもしない。
分かっているからこその悪態。
心地良い。
ナンバー5さんはニヤニヤこちらを見るだけだ。

その日のうちにリカさんが来た。
ナンバー5さんがこっちを見る。
いわゆる無言の圧力。
もっと具体的にはガンつけ。
僕がアルバイトをしていた店では永久指名などという良く分からないルールはなかった。
ルール上は全く問題ない。
だが人間の心はそういうものでもない。
とりわけ男は振った相手や振られた相手に邪険にされるのをことさら嫌う。
それが例え興味のない人でもだ。

「今日、復帰初なんでしょ? ボトル入れてあげるよ」

彼女の厚意はありがたいが、そっとしておいて欲しい気持ちもあった。

ねえねえリョウって幽霊見えるんだって?
そういう風に切り出したのは、リカさんだった。
彼女たちは大体三人で来るか、リカさん一人で来ることが多い。
今日リカさんが一人で来た本題は快気祝いではなく、相談事だったらしい。

「私、最近変なモノ見ること多くなっちゃったんだ。それでリョウはその手の話を解決してくれるって店長から聞いたの。リョウってお寺の息子とかなの?」

「いやいや。そんなんじゃないよ。御悩み相談だって大したこと出来ないし」

「でも店長はリョウのことアイツなら何とかしてくれるって言ってたよ」

「……まあ、話なら聞くよ」

なるほどね。店長、アンタの仕業か。

リカさんの話は、最近聞いた話、そのままだった。
先輩から聞いた話だ。
小人。
つまり、あの時先輩と一緒にいたのはリカさんだったってことか。
世間は狭いなあと思ったが、先輩の話と一つだけ違う部分があった。

「一匹だけベッドの下から出てきてるの」



当然のように僕はリカさんの家に行った。
やましい気持ちなどこれぽっちもない。
問題を解決してあげたい一心だ。
やましい気持ちなど……。

「それで? ここにその小人がいるの?」

リカさんのベッドを隅々まで見たが、小人どころかチリ一つ落ちていなかった。

「ふとした拍子に出るの。今はいないみたいだけど」

「じゃあちょっと待とうか」

仲の良い男女が部屋に二人。
悩みを相談したことでリカさんは安心しているようだ。
距離が自然に近くなる。
二人がけのソファに二人、距離が近くなるのも当然だ。
テレビを見ながら、下らない雑談、ほんの少しの猥談。
リカさんは僕の腿に手を置く。
ほろ酔い加減のリカさん。
男女が部屋に二人。
見つめあう男女が二人。

「シャワー、浴びてくるね」

リカさんは思い出したようにポツリと呟いた。

リカさんが出た後に僕もシャワーを勧められた。
確かに一日の汚れは落とすべきだよな。
うん。

シャワーを浴び、タオルがどこにあるか聞きにいこうと思った時に扉が開いた。

「リョウ! 出た!!」

……うっそぉ。
何て空気の読めない小人さんなの。

リカさんはベッドの横を指差し、あれ! あれ!! 二匹になってる! と叫ぶ。
大騒ぎだ。
色々なものを手当たり次第に投げつける。
ソファやテーブル、床に向かって小物を投げる。
くるくると方向転換し、何かを追いかけているように見えるリカさん。
きゃあきゃあ言いながら何かを追いかけるリカさん。
投げた小物が部屋に散らばる。

何?
何をやっているんだ。
小人?
タタリガミ?
二匹どころか何もいない。
これはどういうことだ?
徐々に乱雑になる部屋の中で僕は思った。



「マサシくーん」

リカさんの部屋から帰った次の日。
目的地のマンションの前でクルマから降りると声を掛けられた。
声の主はYという女性だった。

「あ、Yちゃん、久し振り。買い物?」

「そうだよ。今からタクのところ」

Yちゃんの両手にある荷物を強引に奪う。

「ありがと。マサシくんもタクに用事があるの?」

「う、うん。いや用事ってほどでもないんだけど。ちょっと事情聴取を――」

「また何かしたの? アイツ」

Yちゃんの目がギラリと光る。
うお、こええ。

「いやいや、先輩に相談があるだけ。ゼミのプレゼン用パワポの作り方教えてもらおうと思って」

「なんだ。アイツが何かしたら教えてね。や・く・そ・く!」

口調は優しいが、怖い。
あの先輩と長く付き合えるだけある。



「Y。来る時は連絡くらいしろよ」

「浮気チェックも兼ねてんのよ。やましいことでもあるの?」

「……ねえよ。でもいなかったらどうすんだよ?」

「そういうときのための合鍵でしょ」

ウインクしながら言う姿は一見可愛いらしい。
しかし、その真意。
居留守は無駄という意味を含んでいるのだろう。

この状況下で、浮気相手の部屋にいる小人を話したらどうなるだろうか。
小さな好奇心は一瞬にして恐怖心にかき消された。
先輩の目が、話せば殺す、そう物語っていた。
先輩には既に事のあらましは伝えてある。
細かい話を聞きたいからウチに来い、そういうことだ。
先輩はこの現象を病気かどうか見極めたいらしい。
唯一の誤算はYちゃん。
これではまともに話すことは出来ない。

「マサシくん、バイトどう? もう慣れた?」

ピザをくわえながらYちゃんが尋ねる。

「慣れたって言うか、昨日復帰したばかりだよ」

「あ、そっか。今まで休んでたんだ」

「そうそう、あ」

絶好球。
今ならスムーズにいける。

「そうだ。先輩、Yちゃん。ちょっと相談あるんですけど」

一瞬先輩がこちらを見る。
大丈夫です。
アイコンタクトはばれない様に。

「昨日のことなんだけど――」

小人Bへ続く
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