先輩

930 :名無し [] :2010/10/10(日) 22:22:09 ID:dr6UuZrb0 (1/4) [PC]
初めて投下するからいろいろお見苦しい所あると思うけど、暇つぶしにでもなれば嬉しい。
高校当時の先輩とのお話。
先に言っておくと、師匠シリーズに多大な影響を受けているけど、基本的には実体験を下敷きにしています。

先輩がいた。
いや、学生なら誰だって上級生はいるし、広義には人生の先輩だってたくさんいるだろう。
とにかく、先を行く人がいた。
もちろん単に学年が上なだけでなく、人生の先輩ではあったけどまたそれだけではない。
彼は、俺のオカルト道の先を行く男だったのだ。
ご存知だろうあのシリーズに影響を受けていた俺は、勝手に師弟のように思っていたが、その関係は、先輩の失踪をもって終わる。
その頃は、全盛期とも言えるオカルト関係の最充実期間だった。
その最初の話をしようと思う。


出会いは、高校に入学してすぐだった。
だが当時の俺は、オカルトの類を全く信じていなかった。
中学の頃は行き過ぎなくらいハマっていたが、それは誰もが一度は罹患するというあの病気のせいであり、完治した俺は再発を恐れるあまり逆を行こう逆を行こうとしていたからだ。
そう、冷静になって考えてみればオカルティックでマイナーな知識を持っていたところで別に格好良くないのだ。
知識は未だ脳内のどこか隅っこに鎮座していたが、もうそれをひけらかすことは無いだろうと思っていた。
中学の頃のことは無かった事として、今度は上手くやろうと心に決めて高校に入学したわけだ。
一月も経たない頃だったと思う。
桜の花が全部散って、そろそろ葉桜になってきた頃だから、恐らく四月の終わりくらいだったはずだ。
その日、俺はいつもより早く家を出た。
別に理由があったわけではない。ただ早く目が覚めただけで、たまには人のいない時間に登校してみるのも面白いかと思っただけで。
案の定誰ともすれ違わなかったし、校門坂を登った先には、朝練の連中すらいない無人のグラウンドがあった。
少し気分良く玄関に入り、靴箱から靴を取り、自分の教室である一年三組を目指して廊下を歩こうとした時、非常口の外、非常階段の下に光る何かが見えた。
金属光沢を放つ円錐状の物体、注視すれば時折見える釣り糸のような物。
それはどこか上の方からぶら下がっていた。


「フーチだ」
押しやったはずの超自然系知識が瞬時に引き出される。
要するに振り子なのだが、これはいわゆるダウジングアイテムで、気とかオーラとか、そういうものを探る時に使う物だ。
俺の作った物は手に持って使うタイプの短い物だったが、それはもっと長く、地面すれすれまであった。
朝の白い日光を浴びて、円錐の先が地面を指している。
よく考えれば、それをフーチと決めつけるには早すぎたような気がするが、不思議と妙な確信があった。
教室を通り越して、廊下の端にある非常口に向う。
心臓が少しだけ早まった。気がする。
非常口まであと数メートルというところで、フーチが揺れた。
俺が作った物は、どんな曰く付きの場所でもピクリともしなかったのに。
揺れの正体を確認すべく非常口から外に出る。
風は、無い。
釣り糸の先は非常階段の踊り場だった。
一階上がった所からぶら下がっている。
心臓の音が元に戻った。
漠然と、その先がどこか人のいないスペースへ続いていて、見えない何かがそれを揺らすことをイメージしていたから、あまりにも普通なその現実に少し落胆した。
「おい、上がってこいよ」
踊り場から声がかけられた。男の声。
言われなくてもそうするつもりだった。
赤く塗られた塗装が、所々剥げた階段をカンカンと踏み鳴らし上がって行く。
二階には一人の男がいて、階段から下を眺めていた。とても退屈そうに。
「お前、あれが何かわかったんだろ」
あれ、とはフーチのことだろう。
用途まで知っているが、なんだか恥ずかしくて「少しは」と答えた。
「じゃあ、あれは見えたか。さっきの」
今度のあれ、は良くわからなかった。
さっき?俺がこっちに向ってくる途中になにかしたのだろうか。
黙っているとその男はようやくこちらに顔を向けた。
「見えなかったのか。揺れただろ、フーチが」


俺は少しイラついた。
そんなもの、この男が上から揺らしたに決まっている。
フーチの先は踊り場の床にセロハンテープで貼り付けてある。糸を触るなりなんなりすればいくらでも揺らせるはずだ。
頭がおかしいか、かつての自分のように何かに酔っているに違いない。
「あなたが揺らしたんじゃないんですか。それとも本当に」
幽霊でも見えるんですか。それを言う前に男に遮られる。
「おい、見てみろ。下だ。ほら」
男と並んで下を見る。
フーチがぐるぐると円を描いている。
「え」
俺はもちろん男も糸には触れていない。しかもフーチは時折ピタっと止まるのだ。斜めにピンと糸を張って。
「やっぱり、見えないか。見えるんじゃないのか」
何も見えない。不可解な動きをする金属片があるだけだ。
もっとよく見ろ、と男が指を指す。
「見えません。何も」
ちっ、と舌打ちをした後、男は思いついたように
「目を瞑ってみろ」
と指示を出した。
素直に従う。
さっきまで見ていた光景が一瞬まぶたに映る。


まぶたの裏に残影、すっと消えるその輪郭。
その中には、いるはずのない猫がいた。フーチを触る、猫のシルエット。
白黒というよりもっと、エンボス加工されたような視界の中で、猫の色までわかる。
はっと目を開ける。
「見えたんじゃないのか」
「・・・・・・猫ですか」
男が肩を掴んだ。
俺は驚いて男の顔を見る。
その目には、得体の知れない喜びが溢れていた。
「お前、新入生だろ。俺は三年。なあ、友達になろう」

それが、先輩との出会いだった。
今では会うことも出来ない先輩との、濃い紫色に輝く思い出の期間。
俺はこの日から、いろいろなモノを譲り受け、いろいろなモノを失う日々を送るが、その時はただ、純粋にあこがれて追いかけていた。
「いつだって気付くのは手遅れになってからだ」
先輩が悔しそうに言っていたのを、俺は手遅れになってから理解できるようになったのだった。
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