カエスA

501 :本当にあった怖い名無し:2011/02/05(土) 02:57:08 ID:Y+67HZg+0
「カエス」と確かに声は言った。しかし、その声は聞き覚えのないものだった。
短い言葉だったが、聞いた事のない、とにかく異質な声だった。
TのものでもMものでもY子のものでもR子のものでもない。
そもそも男か女かもわからない。
なんだか抑揚のない、発音もしっかりしてないまるで機械が喋ったような声だった。
カエス・・・返す?帰す?それとも他の意味?そもそもどういう意味なんだ?
(嫌な事にこの声はなぜかいまもハッキリ覚えていて思い出すとまだ震えが来る)
A美が「何?」という顔で俺の顔を見ていて、
それでようやく我に返り、Tに連絡しなおそうと着信履歴から番号を出そうとした。
が、Tの着信が履歴に残ってない。
おかしいと思ったが、何度確認してもやはり履歴に残ってなかった。
「おかしい。履歴にない。表示は確かにTだったのに」と言うと、
A美は「え?どういうこと?T君じゃなかったの?なんだったの?」
と怯えた声で聞いてきた。でも説明ができない。
とにかくもう一度連絡し直そうと、発信履歴の方からTに電話した。
すると今度はちゃんと呼び出し音がした。
それには少し安心したが、ただ呼び出し音が鳴るだけで誰も出ない。
何度も繰り返し電話したが、ひたすら呼び出し音が鳴るだけ。
A美もY子やR子に電話してくれたが、これもまた同じだった。
2人の不安はもう限界になって、110番をしようと決めたまさにその時だった。
503 :本当にあった怖い名無し:2011/02/05(土) 02:58:29 ID:Y+67HZg+0
アパートの部屋の前にTのワゴン車がものすごい勢いで止まったのがわかった。
ああ、帰ってきたかと一瞬ほっとしたが、様子がおかしかった。
車をアパートの駐車場に入れる事もなく、エンジンもライトも点けたまま、
ドアが開いてバタバタと慌しく降りて来る音がしたのだ。
ん?と思ってると、「ドンドン!」と部屋のドアをもの凄い力で叩く音と、
「おい!開けろ!開けてくれ!」というTの悲鳴みたいな叫び声がした。
なんだ?と思いながら急いでドアを開けると、
MとTが「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!」とか声にならない叫び声を上げて
靴も脱がずに部屋に飛び込んできた。
「おい・・・」と俺が言うのも聞かず、Mは部屋の奥に行って、
「あ〜!あ〜!あ〜!あ〜!」と頭を抱えてうつ伏せになり泣き叫んでた。
さっきも言ったように、Mも空手の黒帯で体もでかくてゴツい。
なのにそんな体を丸めて、悲鳴のような声をひたすらあげる。
Tの方はトイレに行ってげえげえとゲロを吐き、さらに
「ちくしょう!なんだよ!ふざけんなよ!」と意味不明なことを大声で言っている。
何がなんだかわからず、俺がドア付近に呆然と立っていると、
R子が全身が脱力したようにフラフラしながら部屋に入って来た。
A美はTとMの尋常じゃない様子に手を口に当て、ただ泣き顔になってたが、
そんなR子を見ると我にかえったのか、「R子!」とR子に飛びついた、
そして、「ねえ!どうしたの?何があったの?」と半ばパニックになりながら、
R子にしがみついて聞いた。
が、R子の顔を見て俺も、A美もハッとした。



504 :本当にあった怖い名無し:2011/02/05(土) 03:00:21 ID:Y+67HZg+0
目がうつろで見るべきでない方向を見てた。
表情にもまったく抑揚がなくて、放心状態だった。
R子はゆっくりと台所の真ん中あたりまで行くと、壁にすがり、
そのままズルズルと床にへたり込んだ。
A美も俺も恐怖で体が固まり、動けなかった。
が、そこでY子がいないことに(ようやく)気が付き、青くなった
「おい!Y子は?どこいる?」と大声で言ったが、
誰も答えられるような状態じゃなかった。
まさか、置いて来たのか?とゾッとして、やっと体を動かし、慌てて車まで行った。
すると、Y子が助手席に座っているのが見えた。
置いてきたわけじゃないんだなととりあえずホッとした。
助手席のドアを開けて「おい、Y子!」と大声で言ったが、
車の中にものすごい臭いが充満していて思わず顔をそむけた。
明らかに大便の臭いだった。そしてそれは座ってるY子の下半身から臭ってくるのがわかった。
暗くてよく見えなかったが、どうやらY子が漏らしているようだ。


505 :本当にあった怖い名無し:2011/02/05(土) 03:01:25 ID:Y+67HZg+0
俺は思わず、「うわ・・・!」と声をあげたが、そんな場合でもないと思い
「おい!Y子!」とY子の体を揺すったが、Y子は目をつむったまま全くの無反応。
口がだらしなく開いていて、よだれが大量に流れている。
これはもうただ事じゃないと、体が震えた。
救急に連絡しようと、部屋に戻ると、さっきより静かになっていた。
R子は台所の床にへたり込んだままで放心状態。
Tはトイレにいてさきほどとは違い静かになっていたが、
しゃがみこんだままやはり放心状態でトイレの壁にすがり、うつろな目で天井を見ていた。
さらには小声でブツブツと不気味に何かをつぶやいている。
Mも静かにはなっていたが、相変わらず体を丸くしてうつ伏せになったままで
「ひぃ、ひぃ」と泣きながら小さく悲鳴をあげていた。
A美もパニックになってるようで口に手を当てて声を押し殺すように泣いていた。
誰かに話しかけられるような状態じゃなかった。
出掛ける前までみんなあんなに楽しそうに盛り上がってたのに、いまは地獄絵図のようだ。
とにかくこれはもう尋常じゃないと思い、外に出て(怖くて中には居れなかった)
やっとの思いで救急に連絡した。



506 :本当にあった怖い名無し:2011/02/05(土) 03:02:45 ID:Y+67HZg+0
救急車が来るまでの間、自分はどうしたらいいかわからず、
ひたすら外をうろうろしていた。
正直何をしていたかここだけはあまり覚えていない。
しばらくして救急の人が来たけど、その状態を見てさすがに顔がこわばってた。
何があったか聞かれ一応説明したのだが、俺もパニックになっていて支離滅裂だったな・・・
それでもなんとかわかってもらい、全員病院に移送できることになったが、
事件性があるかもしれないから警察に連絡した方がいいと言われ、警察にも連絡した。
警察が来るころにはA美もなんとか事情を話せる状態にはなってた。
(救急隊員の人には病院に行くかと聞かれたが、大丈夫だと断わったらしい)
とりあえず警察にも説明したが、事情が事情なので警察の方もどうしていいかわからないといった様子だった。
ただ、警察はT達が車の中でドラッグでもやってたんじゃないかと疑っていたようだ。
結局それらしいものは何もみつからなかったし、
それ以外にも事件性を疑わせるようなものもなかったらしく、
警察の方はとりあえずそれで何もなく終わった。
でも問題は4人のその後だった。

全員そのまま入院した。
家族などから容態を聞いたのだが、
医者の話では恐怖感で精神錯乱になったのではないかと思うが、
それにしてもよくわからないと頼りない説明だったという。
親などからは自分とA美に説明を求められたが、
自分もA美もただあったことをそのまま話すしかなく、
もちろんそれで親が納得できるわけではなかったが、
自分達に聞いてももう仕方ないと思ったのか、しばらくするともう何も言って来なくなった。
でも、4人が入院してからの事態は深刻だった。

ああ、さすがに思い出して鬱になって来たな・・・
いままでの記憶ももちろん嫌だが、ここからが自分にとって一番鬱なんだよな・・・

508 :本当にあった怖い名無し:2011/02/05(土) 03:04:27 ID:Y+67HZg+0
まずTが死んだ。自殺だった。
入院してわずか2日後にいきなり部屋から飛び出し、
階段を駆け上がって最上階の窓から飛び降り自殺したらしい。
入院してからはおとなしくしてたので一般の病棟で様子を
見てたらしいのだが、本当にいきなり叫び声をあげながら部屋を飛び出して、
止める間もなかったという。
そしてMも死んだ。これはいまでもよく死因がわからないらしい。
やはり一般病棟でおとなしく入院してたのだが、
入院して丁度一週間後にこちらもやはり突然何か奇声のような声を上げてベッドの上で暴れ出したかと思うと、
急にぐったりとなり、そのまま亡くなったそうだ。
R子は精神状態がひどく、その手の病院に移送されて入院したということまでは聞いたが、
その後の事は全く知らない。
そして、Y子だが、こちらは一番まともで、結局一週間入院しただけで退院できた。
ただ、その後も精神が安定することがなく、精神科に通院はしているという。
そして、大学も辞めてしまった。
大便をもらしていたことはまったく記憶にないらしい。
何らかのショックで失禁したのかもしれないが、その「何らか」が何なのかが結局わからない。
一度だけ、A美とその時はいなかった他の仲間とでY子に会いにいったことがある。
(他の連中には警察や親とか以上に何があったのかあれこれしつこく聞かれてうんざりした・・・)

510 :本当にあった怖い名無し:2011/02/05(土) 03:05:28 ID:Y+67HZg+0
夏休みも終わり、11月になってからで、
行っていいかどうか迷ったが、Y子が構わないとのことで会いに行った。
Y子は比較的元気そうで、よく笑って話してくれた。
あの時の話はもちろん出さなかったが、大して気にしてるようにも見えなかった。
ただ、結局何があったのかだけは話さないらしい。
両親が慎重に聞き出そうともしたが、泣いてパニックになったので
もう聞こうとはしなかった、と。
あの時何があったかを知っていて(比較的)まともなのはY子だけなのだが・・・
そのY子にはそれ以来会ってないのだが、とにかく生きていることだけは確かなようだ。
A美とはまだ連絡を取り合っていて、結婚して子供もいる。
でもあの時のことはいまだ思い出したくないらしく、
以前電話で少しその話題になりそうになったときも
「その話はやめて!」と強く断わられた。
俺もその後は普通に就職して普通に結婚した。子供はまだ。
いまは普通に生活しているが、あの時の事はもう誰にも話していない。
不思議なもので直後はけっこういろんな人に話したりしてたのだが、
時間が経つとなぜか話すのが苦痛となり、話さなくなった。



511 :本当にあった怖い名無し:2011/02/05(土) 03:07:51 ID:Y+67HZg+0
ただ、実はあの時かかってきた電話の内容は誰にも話してない。
A美にも話すタイミングをなくしてしまった。
ここで書くのが初めてとなる。
あの機械のような不気味な声。
「カエス」というのはやっぱり「お前らのところに帰して(返して)やる」
ということだったのか?
でも確かに帰っては来たけどさ・・・

最後に、最初にも言ったように、この出来事は自分にとっては教訓となっている。
つまり、例えバカにされようが、屈辱であろうが、
やはり危ない事や悪い事は断固として断わることが大切だという事。
子供への説教みたいだが、もしあのときつまらないプライドにしがみついて
一緒に行ってたら自分もどうなってたかわからない。
「断わる力」という本が話題になったが、あれはホント。
勇気を出して断わる決断がその後を左右することになる。

ただ、そんな俺も事故で左足が膝下からなくなったんだけど。
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