まい

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ここは田舎の一軒家。悪霊が住む家。俺のことだ。
いつからここに居るのか、何でここに居るのか、俺は分からない。
訪れる人間に恐怖と呪いを与える。それだけ。とても楽しい。
危険な場所と分かっている筈なのに、ここに来る人間は後を絶たない。
ん?誰か来たな。こんな昼間に。昼なら安全とでも思ったか?
バカなヤツだ。

女が1人。死にたいみたいだな。安心しろ、ちゃんと殺してやるから。
部屋に入ってきた。逃がさない…即座に襲い掛かる。
手を伸ばし、その身を…掴ん…ん、なんだ?手が止まるのはなぜだ?

あぁ、来たのか。来られたのか。よかった。ほんとによかった?何のことだ?
女が何か言っている。約束?誰との?俺は知らない。
いつも通り、殺すだけ。既に気が狂っているだけか?何だろう、何だか…気分が悪い。

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手を伸ばして掴む。削り取る。引き千切る。笑いが止まらない。

いつも通りそうしたいのに、なぜ届かない?まだ俺を止める気か?消えろ。
あぁ、気分が悪い。何か言っている…俺に話しかけるな。ダメだ。逃げてくれ。
俺の名?思い出せ?何を言っているんだ。表札にあるだろ?寺坂だ。
何を調べたって?ここのこと?俺のこと?それが何だって言うんだ。早く…。

俺を知っているのか?俺の名を…?
ダメだ、言うな。俺…名前は?名前は…牧…村?
何をバカな。俺は俺だ。俺だろ?誰だよ。俺の名じゃ…ない…?

……!!
あぁ!違う!違うんだ。俺なんだ。俺の名前なんだ。分かった。お前じゃない。俺なんだ。
あぁぁぁぁ思い出した。でもダメなんだ。ダメだダメだ。俺には出来ないんだ。
ダメだったんだ。なんてことだ。意味が無い。思い出したって、こんなこと、意味が無い。

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俺は過信していた。自分を。
霊感が強かった。除霊も出来た。俺は優れた霊能力者だと言われた。
その道じゃ少し有名になった。

でも違った。優れていたのは使っていた道具だ。洗礼された道具だ。
俺自身は弱かった。ここに来て分かった。こいつに直接触れられて分かった。
俺には何も出来なかった。情けない。俺は震えた。怖かった。
結果、この通り、殺された。

そして、あぁ最悪だ。俺は取り込まれた。全てを奪われた。
優れた、しかし本当は無能な霊能力者は行方不明になった。タチの悪い悪霊になった。
意識は残ったが、徐々にそれも奪われて…こんな有り様だ。

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頼む、逃げてくれ。死なせたくない。もうあの時とは違う。
こいつは更に力を増した。本気で動き出した。これ以上止められない。
手が届くぞ。動けないのか?もう?あぁぁぁ…届く…掴ん…だ。
くそっ…やらせる…ものか…!固まれ…!!

…何か聞こえる。直接全身に響いてくる。
何だろう、これは…?聞いたことが…ある気がする。
こいつに向けて響いている。苦しんでいるのが分かる!どこからだ?
人の言葉じゃない…呪言か?
手からだ。掴んでいる手。俺が固めている手から響いてくる。先に何がある?
その…なんてことを。刻んで来たのか。その身に、呪いの言葉を。

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しかし何故だ。どうやってそれを。あぁ、そうか、病気か。前に言っていたな。
不治と言われた病…生死の境まで行って、それでも戻ってきたのか。
そのとき持ち帰ってきた訳か…死者の業を。

あんた、強いな。そんな業を背負って生きていられるのだから。
そうだよな。大事なのは、意志の力だよな。病気にも勝てた訳だ。
あぁ、苦しんでいる。消えていく。ここに住んでいた奴。昔から居た奴。
ただ人を殺すだけが目的の、悪霊。取り込んでいた俺が離れて、呪言を受けて、消えていく。

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…終わったな。あぁ、光が見える…俺も消えるのか。
その前に、君に何かしてあげたいな。
それ、持っていってやるよ。苦しいだろ?その業は。なんでわざわざ持ってきたんだ?
ん?俺を?ハハ…照れるな。でも俺、何もしてないぜ?

いや、君の力さ。病気に勝てたのは。頑張ったんだな。嬉しいよ。本当に嬉しい。
また会いたかったんだ。出来れば、俺が生きているうちに会いたかったけどな。
あぁ、光が広がっていく…もう消えそうだ。ありがとう…助かったよ。
あぁ、こちらこそ。…もっと話がしたかった。

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…えぇと、最後に、やっぱりこう言わないとな。
また、会おう、な。いつか会えると思うんだ。
あぁ、そうだな。
その業は、いいのか?そうか、背負っていくのか。
どこかで誰かを救う、か。君なら出来るよ。
俺とは違う…。

そうだ、名前は?…まい、か。舞うの舞。良い名前だな。
覚えておく。忘れないよ。

ありがとう。それじゃ、また会える時まで。元気でな。
本当に…ありがとう。

さようなら…
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