連鎖

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すっかりハマッテしまった。
いつでも考えてしまう。まるで乙女だな、と思う。
俺は読んでいたオカルト系雑誌を脇にどけ、携帯を取り出し、考える。
メールをするか、電話をするか…。ここは慎重に事を運びたい。

ハマッタのはオカルトの世界に、という訳ではない。
まぁそれにも大分のめり込んでいるのだが…。
すっかり惚れてしまったのだ。彼女に。
オカルト系雑誌なんかを読むようになったのも、彼女の趣味がそれだからだ。

相手の趣味に合わせて、その勉強?をするなんて、なんて健気なのだろう。
…とかなんとか自分に酔っていると、持っている携帯がいきなり鳴った。

慌てて確認し、驚く。…彼女からだ!
なんという奇跡。思いが通じたのか?
おぉ、神様、仏様、阿弥陀如来様。
えーっとあと、インドラ様に薬師如来様。刺抜き地蔵様も入れておこうか。

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とりあえず思いついた有難そうなものに感謝して、俺は電話に出た。
俺「はい、北上です」
携帯なのに思わず名乗ってしまった。
声「あー、北上。神尾だけど。今、ちょっといい?」
ちょっとじゃなくて、いくらでもいい。なんて軽口を言いそうになったが、
止めておいた。あぁ、俺、本気なんだな、と思う。
そしてなぜか正座していることに気付く。

俺「おう、平気平気。丁度暇してたとこだ」
神尾「ちょっと、お願いがあるんだけど…」

お願い…。お願いだって?
彼女が、俺にお願いしたいことがあるって?
これは夢なのか?俺は仁王様と恵比寿様に感謝した。
俺「な、何?」
神尾「あのさ、―――…」

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その日の夜。
俺は雨月と一緒に神尾さんの家に来ていた。
家には既に鮎川さんが来ており、以前行った肝試しメンバーが集まったことになる。

神尾さんの部屋は1Kのよくあるタイプ。
綺麗に片付いており、4人集まっても狭さを感じない。
そして物凄くいい香りがするのは、気のせいではないだろう。
さすが俺の天使の部屋だ。うん。俺、キモイな。

しかしこんな急展開があるなんて。さすが恵比寿様だ。
それと、俺は雨月にも感謝した。やはり持つべきものは友だ。
というのも、神尾さんのお願いはこうだった。
「古乃羽が雨月くんに興味があるみたいだから、連れてきて」

こんなやつでよかったら、どこにでも連れて行く。
しかし、鮎川さんが雨月を、ねぇ…。上手くいけばいいが、俺は一抹の不安を感じる。
なにしろ、雨月は…姉好きだ。
それに対して鮎川さんは、どちらかというと妹属性だろう。
これは中々難しそうにも思える。

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しかし、確か雨月の姉好きは、姉を守りたい一心から来ているようなことを、以前聞いた覚えがある。
詳しくは教えてくれなかったが、病気をしていたからだとかなんとか。
よって、鮎川さんのように見るからに守りたくなるような女の子なら、
望みはあるだろう、なんてのが俺の考えだ。

集まった表向きの目的は、みんなで鍋でも囲んで…オカルト話でもしよう、というものだった。
9月終わりのこの季節、鍋はまだ早い気もしたが、
人が集まって食べるものと言えば、鍋でしょう、と神尾さんが言っていた。無論、異議なし。
オカルト話ってのもどうなんだろう、と一瞬、ほんの一瞬だけ思ったが、鮎川さんの得意分野ってことで、これも異議なし。
間違いなく、俺は尻に敷かれるタイプだろうな。まぁ、それでもいいか。

4人が集まったところで、早速鍋を囲む。神尾さんと鮎川さんで作ったらしいが、
鮎川さん曰く、「美加は食器並べていただけでしょ」と言う。
鮎川さんは他の3人に配膳をしてくれる。これは雨月にとってもポイントが高いだろう。
一方、神尾さんは男2人と同様、食べるだけの係り。いいのさ。俺はそんな神尾さんに惹かれるんだ。

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食事も終わり、だいぶ打ち解けてきたところで、神尾さんが、ちょっとオカルトな話があるという。
神尾「バイト先の先輩に聞いた話なんだけどね。ほら、先日××区で通り魔事件あったでしょ?」
確か、仕事帰りのサラリーマンがナイフで刺されて死亡した事件だ。
通り魔の犯行、ということで、犯人が捕まったという話はまだ聞いていない。

神尾「その事件の前から、同じ区とか、近辺の区で同様の事件が起きているのは知っているよね?どれも犯人は捕まっていないの。
これらの事件には共通してることがあって、どの事件も、現場に犯行に使ったナイフが残されているの。
で、そのナイフには犯人のものと思われる指紋がくっきり残っていて、
どれも違う指紋だから、犯人はそれぞれ違う人物だ、って言われているわ」
そうなのだ。
そういった事件だと、犯人が同一の人物である、と報道されると、不謹慎だが少しホッとする。
全て犯人が異なっているとしたら、それだけ危険人物が多いからだ。
でも今回はまさにそれで、まったく物騒な話だ。

神尾「でもね、その指紋の話なんだけど、おかしなことがあったんだって」

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神尾「この前の事件と合わせて、あの地域だと4件も通り魔事件が起きていて、
それぞれの被害者を、古いほうから順にA、B、C、Dさんとするね。
で、この前のDさんの事件現場に残されていたナイフの指紋を照合したら、
一致する人が見つかったらしいの」
俺「あ、じゃあ犯人は特定できたんだ」
神尾「うん、でもそれがね、Cさんの指紋だったらしいの」
俺「ん…?」

神尾「でね、それに気付いた人が、なんとなく他のナイフも調べてみたんだって。
そうしたら、Cさんを刺したナイフにはBさんの、Bさんを刺したナイフにはAさんの指紋があったの」

オカルトだ。なるほど、これはオカルトな話だ。
鮎川「それ、逆じゃないの?逆なら話は分かるのだけど…」
確かに逆ならありえる。AさんをBさんが刺し、そのBさんをCさんが刺し…ならば。
神尾「私も確認したのだけど、違うんだって。
指紋だけ見ると、DさんをCさんが刺し、CさんがBさんを、BさんをAさんが刺したことになるのよ」

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雨月「なんか、不気味な話だね…」
俺「本当なのかな…それ。ニュースでも言ってないし、そもそも指紋のことなんて、その先輩が何で知っているんだろ」
神尾「うーん、それは私も思ったのだけど、先輩の知り合いで警察の関係者がいて、その人から聞いた、って言っていたよ」
眉唾ものだが…まぁ、そこら辺を突っ込むのは無粋ってもんだ。

鮎川「それだとさ。じゃあ、Aさんを刺したナイフの指紋の主は誰なのかな?」
鮎川さんが疑問を投げかける。
雨月「なんか、話の感じだと…Dさん、とか?」
神尾「それも聞いてみた。Dさんなの?って。でも違うって。それは誰だか、まだ分からないみたい」

雨月「なんか、奇妙な連鎖が起きているとしたら、始まりはどこなのか、って大事だよね」
鮎川「そう、連鎖、よね。殺された人の怨みが、次の人を殺しているような感じ…」
俺「じゃあ、次はDさんの指紋がついたナイフが、誰かを…?」
Dさんの怨みが篭ったナイフが次の犠牲者を求めて彷徨う絵が頭に浮かび、ゾッとした。

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雨月「あのさ、ナイフって、全部同じ型だったりするのかな」
雨月が神尾さんに質問する。
神尾「違うみたい」
雨月「被害者の、刺された箇所とかは…知っている?」
神尾「えーっと…、Dさんはお腹に数ヶ所と、頸部だっけ。あとは知らないや。調べれば分かると思うけど」
俺「気になることでもあるのか?」
雨月「いや…ただ何となく。何か他の共通項はあるのかな、ってさ」
神尾「警察も調べているだろうけど、被害者同士の接点とか、ほとんど無いみたいね」
雨月「そっかぁ…」

俺「なんにせよ、物騒な事件だよな。神尾さんも鮎川さんも、気をつけてな」
神尾「親にも言われたわ。夜道の一人歩きはしばらくしないように、って」
鮎川「私も実家から電話掛かってきたな…」

その後は、それぞれの実家の話やらで時間が過ぎ、その会はお開きになった。

鮎川さんは神尾さんの家に泊まるらしく、俺たち男2人はそれぞれ家路についた。
もちろん、またどこか遊びに行こう、という約束を取り付けてからの帰宅だ。

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家に帰った俺は、先ほど話題になった事件のことを少し考えてみた。
指紋のことは確かに驚きだが、100%ありえないことではない。
何らかの形で、生前に触ったナイフが使われた、というだけのことだ。
まぁ、0.1%くらいはありえる…かな?

俺「ナイフか…」
Dの指紋が付いたナイフ。今はどこかに落ちているのか、それとも誰かの手の内にあるのか。

もしも…と思う。
霊感のまったく無い(と思う)俺と違って、雨月だったら、
そんな怪しいナイフに遭遇した場合、何か助かる術があるのかもしれない。
鮎川さんもそうだ。彼女も廃校で何かを見た人だ。彼女も霊感持ちなのだろうか。
神尾さんは?違うだろうな。違っていて欲しい。俺と一緒であって欲しいと思う。

この4人の中で、俺と神尾さんは何も見れないし、感じることもできない。
そう思うと不安になる。ドラマや映画だと…真っ先に災難に遭うキャラだ。
主人公は雨月と鮎川さんの二人。

俺「ハァ…」
だったら、自分の身は自分で守らなければならない。
彼女…神尾さんも守ってやらなければ。

新たな決意に燃えた俺は、取り敢えず筋トレから始めたのだった。
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