出会いA

7/12
それからしばらく、ラット君のお家のお話や、お国(どこかの王子様らしい)の話となった。
微笑ましい、とはまさにこのことだろうな。

しかしそんな時間を邪魔する2人組がやってきた。

女「きゃーー、なにそれーーーかわいいーーー」
ラウンジに来たカップル。その女性の方がヌイグルミを見つけ、大きな声を出して近づいてきた。
別にそれだけなら構わないのだが、その子はテーブルの上に座ってお菓子を食べていた(設定の)ラット君を勝手に持ち上げ、抱きかかえた。

私「あ、こら、ちょっと…」
女「ねぇ〜これ、これ欲しいー買って〜」
相手の男に向かって謎のおねだりをしている。売り物じゃないっての。
男「んー、熊かぁ、いいね〜」
男は優理ちゃんを見つけ、交渉してくる。

男「これ、君のかな?ちょっとさ、売ってくれない?2000円出すよ」
優理「…私の大事なお友達なの」
男「じゃ、3000円でどう?子供には大金だろ?あんまりケチるなって、な」
優理「……」
先ほどまでニコニコしていた優理ちゃんの顔が曇る。
頭にきた。ガツンと言ってやろうと思い席を立…と、そのとき。

8/12
女「いたっ!」
ヌイグルミを抱えていた女の子が声を上げて、ラット君を床に落としてしまった。
見ると、女の子の手から少し血が滲んでいる。
女「いったぁ〜…ちょっとー、針出てたわよ!?」
優理ちゃんは急いで椅子を降り、落ちたラット君を抱きかかえて、また椅子に戻ってくる。
女「検針もしてないの?いらない!そんな不良品」
男「おいおい、これで金取ろうって、信じられねぇな」
ムカッ

私「誰も売るなんて言ってないでしょ?勝手に取り上げて、そんな言い方しないでよ!」
女「何よ、うるさいわね。いいよ、もう、いこ?」
男「ん、あぁ。まったく、詐欺かよ」
一体どういう頭の構造なのか…怒りを通り越して、嘆かわしい。
去っていったおバカ2人は放っておいて、優理ちゃんを慰めないと。

私「優理ちゃん、気にしないでね。あんなの…」
優理「うん、大丈夫…。お姉ちゃん、ありがとう」
優理ちゃんは落とされたラット君の埃を払い、身だしなみを整えていた。
出ていた、という針が気になったが、優理ちゃんは平気みたいだ。

やがて綺麗になったラット君を見つめ、優理ちゃんはしばらく何事か考えているようだったが、突然こう言ってきた。
優理「お姉ちゃん、あのね…」
私「なぁに?」
優理「優理のお家に、遊びに来てくれない?」

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私「え…」
いきなりのお誘い。優理ちゃんは私をじっと見つめてくる。
優理「お家に、来て…ね?」
見つめてくる…なんて綺麗な目だろう。吸い込まれそうだ…。
私「…うん」
断る理由なんてあるだろうか。こんな可愛い子の誘いを断るなんて。
優理ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。なんて愛くるしい笑顔だろう。

私は席を立ち、手を引かれて歩き出す。手…優理ちゃんの手は冷たく、とても大きく感じる。
なんだろうこの感じ…。周りの景色が霞んでいき、ぼやけてくる。

子供に手を引かれる女子大生。少しおかしな構図だけど、誰もこちらを見ない。
自分の存在が希薄で、まるでここには居ないかのよう…。

ふわふわ、と…このまま着いていけば、いいのかな…

どこまでも…一緒に…

……



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声「美加!」
私「…ん」

声「どこにいくの?美加!」
私「…ん?」
ハッと気付く、と…そこはラウンジを出たところだった。
声の主は…古乃羽だ。

私「あれ、古乃羽…おはよう」
古乃羽「おはよう、って…今何していたの?一人?」
私「ん?一人じゃないよ?ねぇ、優理ちゃん…あれ?」
優理ちゃんが居ない。

古乃羽「ゆうりちゃん、って誰?」
私「今まで中で一緒に…」
辺りを見渡しても居ない。と、ラウンジの中を見てみる。
さっきまで座っていたテーブルに、ジュースのグラスが2つ。確かに居たんだ。
お手洗いにでも行ったのかな…?

古乃羽「もう…大丈夫?寝ぼけてない?また講義サボったでしょ」
私「あー…バレタ?」
古乃羽「…もう。私、4限あるから行くね。美加もちゃんと出ないとダメだよ?」
そうか、もう4限が始まる時間か。
私「あい、古乃羽の仰るとおり、ちゃんと勉学に励みます」
古乃羽「一緒に進級できないと、イヤだからね…?」
私「うん。分かった、ごめん。ちゃんと出るよ」

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がんばってね、と言って古乃羽は次の教室に向かっていった。
えーっと、私はどこだったっけな…?頭が少しボーっとする。

優理「お姉ちゃん」
私「わっ…、優理ちゃん。どこ行ってたの?」
突然優理ちゃんが現れた。
優理「今の女の人、お姉ちゃんのお友達?」
私「うん、古乃羽って言うの。とーっても良い子よ」
優理「ふーん…」
優理ちゃんは古乃羽の後姿を目で追っている。

優理「変わった人だね」
私「ん?そう、分かる?私の昔からの、大好きなお友達よ」
優理「見えるんだ…」
私「見える…?」
優理「……」

優理ちゃんは何か考えているようだ。
優理「お姉ちゃん、これ、あげる」
そう言うと、私の手に何かを渡してくれた。それは小さい、綺麗な石の付いたキーホルダーだった。
優理「それね、翡翠(ヒスイ)って言うの」
私「へぇ…翡翠かぁ。綺麗ね。これ、私にくれるの?」
優理「うん。お友達のしるし」
私「ありがとう、大事にするね」
っと、ただ貰うだけじゃ何なので、私も何かあげることにする。

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確か、あれが…カバンを探って…あった。
私「じゃあ、優理ちゃんにはこれ、あげるね」
優理「?」
彼女の手にそれを渡す。
中学のときに買った、ペンギンの付いた小さなキーホルダー。
お気に入りでずっと使っていたやつだ。大切に持っていたので、目立った汚れも無い。
優理「わぁ…可愛い!」
私「ふふーん、そうでしょう。ペンギンさん、可愛がってあげてね」
優理「ありがとう!ペンギンさん、よろしくね」
優理ちゃんはそう言うと、ニッコリ微笑んだ。

優理「優理、もう帰るね。お姉ちゃん、お勉強するんでしょ?」
私「あ、うん。ごめんね、もっと遊んでいたいんだけど」
優理「ううん。楽しかった。ジュースとお菓子、ごちそうさまでした」
ペコリと頭を下げる。
私「いえいえ。じゃあね、優理ちゃん、またね。ラット君もまた会いましょう」
私は優理ちゃんとラット君に手を振る。
優理「うん。また会いにくるね。バイバイ、お姉ちゃん」

そう言って手を振ると、優理ちゃんは大学の正門の方に駆けていった。
あれ?結局、何をしに来たんだろう…
ただ構内に入って来ちゃっただけだったのかな?

ふと腕時計を見ると、4限開始の時間だった。
私は優理ちゃんに貰ったキーホルダーをカバンに入れ、急いで教室に向かった。

一度、正門の方を振り返ってみたが、優理ちゃんの姿はすでに無かった。
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