日記

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●1985年 2月5日
私は知った。
この世界には神も仏もいない。
いるのは人間のみ。なんて残酷な事実だろう。
希望も何もあったものじゃない。

昨夜、妻の容子が亡くなった。34歳という若さで、だ。
彼女と結婚して15年。2人の子供にも恵まれ、幸せな家庭だった。
それが崩れ去った。
この悲しみはどうすればいいのだろう。

娘の優理は昨夜からずっと泣いていたが、今は疲れて寝てしまった。
暁彦は呆然としていた。かなりのショックを受けてしまったようだ。
私も同じで、涙さえ流れない。私と暁彦の分も、優理が泣いてくれているようだ。

●1985年 2月7日
妻の亡骸を葬ってやらねばならないが、
優理が母親の元から離れようとしない。困ったものだ。

暁彦は部屋に篭ってしまった。食事を持っていくと、何も言わずそれだけは食べてくれる。

私はどうすればいい?

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●1985年 2月9日
優理が眠っている間に、亡骸を庭に埋めた。
このようなことは本来許されないのだろうが、妻を焼却し骨にするなんて私には出来ない。
あの美しい姿のまま…土に還って欲しい。

目を覚ました優理が泣き叫んでいたが、母親は天国に行ったのだと説明する。
いつまでも優理のことを見守っているよ、と言うと分かってくれたようだ。
聞き分けの良い子だ…が、まだ幼い。きっとまた泣き出してしまうだろう。

暁彦は相変わらずだ。何とかしなければ。
しかし私も気力がない…。

●1985年 2月12日
優理の部屋から話し声がしたので入ってみると、
鏡に向かって会話をしていた。
相手は母親、としているようだ。
残酷だが、母親はもうここには居ない、と言うと、やはり泣き出してしまった。

暁彦は部屋から出てくるようになった。…が、すっかり無口になってしまった。

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●1985年 2月18日
夜中、優理が突然泣き出すことが多い。
一緒の部屋に寝るようにしているが、父親の私ではやはり母親の代わりは無理だ。
寝不足の日が続く…。

●1985年 2月20日
疲れが抜けない。沈んだ気持ちから抜け出せない。
これで自分が倒れたら、子供達が…。しっかりしなければ。

●1985年 2月25日
ひたすらに本を読んでいる。
気分を紛らわせなければ、私まで駄目になってしまいそうだ。

優理が人形と遊んでいた。確か妻から貰ったヌイグルミだ。
そんな姿を見ると、私の心は押しつぶされそうになる。

●1985年 3月2日
興味深い本を見つけた。少し没頭してみよう。

無口で愛想の無くなった暁彦を見ると、イライラしてしまう。
自分の責任だろうに、私は駄目な父親だ。

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●1985年 3月8日
この世界には神も仏もいない。
いるのは人間のみ…ならば。
人間は、神になれるのではないだろうか。その業を行えるのではないだろうか。

私はこれからの生涯を掛けるべき、目的を見つけた。
子供達のためにも、きっとやり遂げてみせる。

――――――

●1985年 12月5日
あれから8ヶ月。
必要とされるものは、大半揃った。
財産のほとんどをつぎ込んでしまったが、構わない。

計画は、優理に手伝ってもらおう。
まだ幼いながら、母親に似て、優理は美しい。
彼女こそ相応しいだろう…。

●1985年 12月25日
世間はクリスマスだ。
去年の幸せな時間を思い出してしまう。
優理は特にそうだろう。今は部屋にいるが、きっと泣いているに違いない…。

2人の子供よ。今にきっと、最高のプレゼントをあげるからな。
それまで我慢してくれ…。

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●1985年 12月28日
準備が整った。
しかし、まずは実験をしなければ。優理で失敗するわけにはいかない。
実験の相手は決まっている。暁彦だ。
実の兄妹である訳だし、これ以上の実験体は存在しないだろう。

●1986年 1月5日
…失敗だ!
やはり無理なのだろうか?それとも何かが足りなかったのか?
しかしここで止めるわけにはいかない…。

●1986年 1月28日
突き止めた。これだ。
媒体に問題があったのだ。
しかしこれは、どうすればいい?
今の時代でこれを大量に手に入れるには…?
単純な話だ。そこら辺に居る。
優理なら問題なく連れて来てくれるだろう。

●1986年 2月4日
妻が亡くなってから1年。
待っていろよ、容子。

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●1986年 3月5日
優理はよくやってくれている。
身なりを整えたその姿は、我が娘ながら心を奪われる。

それに比べて、暁彦の態度が悪くなってきた。
少し頭がおかしくなっているのかもしれないが、まぁ、問題はない。

●1986年 7月16日
頃合だ。明日だ。明日決行する!

●1986年 7月17日
優理は気付いているだろうか。
自分が、誰もが望んで止まないものを手に入れたということを。

しかし、しばらくは様子を見ることにする。
もし本当に成功なら、この応用で妻を蘇らせるのだ。
暁彦も治してやらなければならない。

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●1987年 7月21日
1年振りか。
優理は美しい姿のまま、1年前と何の変化も見られない。
容子が亡くなってから2年以上経ってしまったが、ついに彼女に会える日がきた。

●1987年 7月22日
なぜだ?
なぜ?なぜだ?なぜなんだ?

あれは容子じゃない。あんなもの、容子じゃない!

●1987年 7月29日
祖父が死んでからずっと空き家になっていた家に、あれを隔離した。
あれをどうやって連れて行くか悩んでいたが、どうやってか、優理が連れて行ってくれた。
しかし、あれは一体なんだったのだろう…。

●1987念 7月30日
優理が嬉しいことを言ってくれた。
容子は、その魂は、まだここに居るというのだ。

どうやら私のやり方が間違っていたようだ。
優理は全てを知っているのだろう。
あとは優理に任せるべきか?

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●1987年 8月2日
ここに居るというのに、私は容子に会えない。
優理はその存在を感じているようだが、私にはさっぱり分からない。
会いたい…美しかった彼女に、会いたい。

●1987年 8月3日
優理に何とかできないかと頼んでみたが、今はまだ何ともならないと言う。
時間が必要だと言い、それも何年掛かるか分からないと言われた。
頭にきて、思わず優理を叩いてしまった。優理は悲しそうな顔をしていた。

しかし分かって欲しい。
私は今、41だ。容子は34で亡くなった。
今後何年掛かるか知らないが、私はどんどん老いていく。
年齢差は開く一方…これには耐えられない。
死人は年を取らないし、優理もまた年を取らない。
暁彦の成長もかなり遅くなっているが、暁彦はいずれ、姿かたちが崩れてしまうだろう。

私もまた優理のようになることを考えたが、暁彦と容子の失敗を見てみると、
その勇気はない。暁彦のようにいずれ崩れる運命になるのは最悪だ。

一番良いのは…私も死んでしまうことだろうか?

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●1987年 8月6日
先日考えたことが、まさに正しい道に思えてきた。
私が死んでも、いずれ優理が目覚めさせてくれる。
しかも、死ねばきっと容子に会えるだろう。

死ぬことにした、と優理に話すと、泣き出してしまった。
寂しいから嫌だというが、暁彦がいるだろう。
変わってしまったが、あれでも兄だ。それに私も、ずっとここに居る。
そう言って抱きしめ、頭を撫でてあげると、やっと泣き止んでくれた。
そして優理は諦めたような顔をすると、ヌイグルミを抱えて部屋に戻っていった。

甘えたいのが痛いほど分かる。しかし私はもう限界だった。
いつか、また家族4人で会えたときには、きっと…。

死に方は決めている。
また優理が泣いてしまうだろうから、死体は見せる訳にはいかない。
私は毒を飲み、家の焼却炉でこの身を焼こう。

それでは一時の別れだ。
愛する2人の子供、暁彦、優理。

また会う日まで。

――――――――――
〆寺坂 三矢

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