邂逅(前)

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暁彦が撒いた餌…噂は、彼の意図する通りに広まった。
ある程度の広がりを見せた後、噂の元である人間…遠野が自宅で自殺するが、
彼の死を洋館の話と結びつけるものはいなかった。

北上もまた、大学の友人から洋館の話を聞いた。
話を聞いた彼が考えたことは、ただ1つ。
行ってみよう、神尾さんと2人で…はまだ無理そうだから、あの4人で。

北上は早速、神尾に連絡をする。
話を聞いた神尾は思う。
古乃羽と雨月君は喜ぶかもな。2人とも奥手っぽいから…いい刺激になるかもしれない。

神尾から話を聞いた鮎川は少し悩んだが、了承。
北上から聞いた雨月も、2つ返事で了解した。

こうして4人は洋館へ向かうこととなった。
人はこうして、我知らず危険に飛び込んでしまうものなのだろう。
時に噂に翻弄され、その裏にある意図を知らずに。

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夕暮れ時。
4人で集まり、目的地へ向かう道すがら、俺は少し悩んでいた。
前の廃校のときのように、家族に…姉に一言、言ってきた方が良かっただろうか。
そうすればまた、お守りをくれたかもしれない。
以前なら言っていただろう…が、今はちょっと事情が違う。

自分でも信じられないが、俺にも彼女ができた。
今、俺の横を歩いている女の子、古乃羽。名前で呼んでほしい、なんて可愛いことを言ってくれる子だ。
まだ恋人らしいことは何もしていないが、俺ももう少し強くなって、この子を守ってあげたい。
昔は姉を守らないと、と思っていたが、病気から回復した姉は…今の姉は、以前とは変わって、強くなった。
何が?と言われると分からないが、とても頼れる、強い存在になった。

きっと、病気に打ち勝って自信が付いたとか、そういうことだろう。
その影響か、俺もちょっと自立のことを考えるようになった。

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なんてことを考えながら歩いていると、前方に噂の洋館が見えてきた。
横の古乃羽も気付いて見ていたが、ん?と、少し首を傾げていた。

やがて洋館の玄関へ続く門の前に着く。
…と、なぜか前を行く2人が通り過ぎようとする。
俺「おーい北上、ここじゃないのか?」
北上「ん…?」
神尾「え?」
2人はキョトンとして振り返る。
俺「ほら、ここだろ?」
俺が洋館の方を指差すと、2人は気付いたようだ。
北上「あぁ、ほんとだ。いやー、気付かなかった」
まぁ、神尾さんとの会話に熱中していたのだろう。がんばれ、北上。

古乃羽「美加…。分からなかった?」
何か気になるのか、古乃羽が神尾さんに聞く。
神尾「んー。ちょっと気付かなかっただけかな。着いたねぇ。中々の建物じゃない」
そっか、と古乃羽は納得したようだ。

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門を通り、玄関へ。そこから中に入る。
まだ夕刻ということもあり、薄暗いものの、灯りが必要なほどではない。
この時間にしたのは、珍しい建物なので中をよく見てみたい、という理由からだ。
別に夜だと怖いという訳ではない…ということにしてくれ。

入ってすぐ思ったことは、2階。2階には、なんだか行きたくない気分だ。
古乃羽も同じように思ったのか、2階の方を怪訝な様子で見ている。
我ながら怪しいカップルだ。取り敢えず北上に提案し、1階を見て廻ることにする。

珍しいものはないかと辺りを見ながら進んでいると、数こそ少ないが、いくつかの装飾品が目に入る。
その中でも気に入ったのは、錆びてはいるが中世時代を感じさせる甲冑だ。まさに洋館に相応しい。
ホラー映画とかだとこれが動き出すのだろうが、この甲冑は何故か素手で、武器を持っていなかった。

絵が掛かっていた跡のある廊下を抜け、やがて俺たちは広い部屋に出た。

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神尾「へぇ、素敵なリビングじゃない」
部屋の中に歩みを進め、神尾さんが言う。
北上「天窓があるんだな、ここ」
明るいリビング。きっとここで家族団らん、なんて時代もあったのだろう。

…と思った瞬間、背後に気配を感じる。
後ろを振り向いた瞬間、入ってきた扉が閉まる。
それと同時に他の部屋に通じる扉も音を立てて閉まった。
そして何事かと思う俺たちの前に、それが現れた。

男「誰かと思えば、鮎川さんじゃないか」
男だ。長髪の男が、部屋の中に突然現れた。そして…古乃羽の名前を呼んでいる?
神尾「誰?…古乃羽、知っているの?」
神尾さんが古乃羽に尋ねる。
古乃羽「……!!」
古乃羽は、ハッとして一瞬目を伏せかけたが、顔を上げ、男を見つめている。
知っているが、あまり仲の良い相手ではないようだ。
男は、手に錆びた槍を持っている。おそらくあの甲冑のものだろう。
そしてこの感じは…こいつは、人間だろうか?

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男「自己紹介しようか。俺は暁彦。寺坂暁彦だ」
北上「北上だ」
すぐに北上が答える。それに続いて俺と神尾さんも答えた。

男はニヤニヤ笑いながら古乃羽に話しかけてくる。
暁彦「鮎川さん、成長したねぇ。あの時は何の足しにもならない、ただのカスだったのに」
古乃羽は何も言わず、男を見つめている。
暁彦「フン、俺がどう見える?崩れて見えるか?」
少し不快そうにして、男は続けて言う。
暁彦「まぁ、いい。お前ら、早速で悪いんだが…、4人中2人は要らない。とっとと死んでくれ」
男はそう言うと、北上を見て持っている槍を構えた。
北上「え?死んでくれって…?」
古乃羽「…!北上君、伏せて!」
古乃羽が叫ぶのと同時に、男がいきなり槍を投げてきた。
俺は反射的に北上の頭を抑え、床に伏せる。
投げた槍は轟音と共にその上を通り過ぎ、後ろの壁に突き刺さる。

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暁彦「げ…壁に穴開けちまった…。また怒られそうだ」
何事か言っているが、ハッキリしたことがある。
こいつは危険だ。この異様な雰囲気。そして何の躊躇もなく、槍を投げてきた。
俺「逃げよう!北上、立て!」
こんな奴の相手はしたくない。俺は北上を起こす。
神尾さんは突然のことに少し立ち尽くしていたが、すぐ我に返ると、古乃羽の手を取って部屋の扉へ向かった。

俺は入ってきた扉に手を掛け、開け…開かない。
なぜか予想はできたが、開かない。カギがあるようには見えないが、力を込めて押したり引いたりしてみても、やはり開かない。
暁彦「ハハハ、おいおい、壊すなよ?お前らも怒られるぞ?」
男は笑いながら近付いてくる。
ダメか。逃げ道がないなら…!
俺は男の方に振り返る。と同時に北上も振り返る。どうやら同じ考えみたいだ。

取り敢えず第一に、奴に槍を渡してはいけない。
北上の動きは素早かった。
北上「うぉぉぉぉぉーーー!」
怒号と共に北上は男にタックルをする。俺も殴りかかる。
…が、相手は完全にこちらより上手だった。

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男は北上に膝蹴りをし、片手で床に殴り伏せる。
そしてもう一方の手で俺の腕を掴むと…なんと片腕で俺を部屋の奥まで投げ飛ばした。
そして何事もなかったように、悠々と、刺さった槍の元まで歩いていく。

古乃羽「雨月君…!」
古乃羽が倒れている俺の元まで駆けてきた。守りたいのに…情けない。
男は壁から槍を引き抜くと、再び北上に狙いを定める。
俺「北上!…おい、やめろ!」
するとなんと、神尾さんが北上の前に両手を広げて立ち塞がった。
神尾「やめなさいよ!」
暁彦「ん…?」
神尾さん…なんて強い人だろう。これには男も少し驚いたようだ。
暁彦「勇気あるねぇ、あんた。でもな、あんたも要らないんだよ」
男がニヤリと笑いを浮かべる。
そして槍を握り返し、狙いを定め…

動きが止まった。

暁彦「…お前、何でそれを持ってるんだ?」
男が神尾さんに問いかける。
神尾「え…?」
暁彦「琥珀だよ、何でお前が持ってる?」
それに答えたのは別の声だった。
声「私があげたから、よ」

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男の後ろに、いつの間にか少女が立っていた。
ヌイグルミを片手で抱え、もう一方の手には小さな水晶のような石を持っている。
神尾「あ…」
少女を見た神尾さんが、何か反応する。

男は軽くため息を付くと、槍を降ろし、振り返って少女に言う。
暁彦「お気に入り、って訳か?優理」
少女…ゆうり、というのか。彼女は答える。
優理「お友達よ。…壁、壊したの?そんなものを持って…」
男は一瞬イラッとした顔を見せたが、フン、と鼻で笑い、槍を投げ捨てる。
暁彦「ま、ちょっと遊んでみたくてね…」

少女は男の横を通り過ぎ、神尾さんの元へ行く。
優理「お姉ちゃん、やっぱり…来ちゃったのね」
神尾「優理ちゃん…ここで何をしているの?この人は誰?」
優理「…私の、兄様」
神尾「兄…」

男はウンザリしたような顔で少女に言う。
暁彦「優理よぉ、じゃあ、そいつだけはいい。後はいつも通りやるぜ?」
優理「うん…。お姉ちゃん、こっちに来て」
神尾「いや…いやよ」
神尾さんは首を振って答える。

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神尾「優理ちゃん、みんなね、私の大切なお友達なの」
優理「…」
神尾「誰一人、死なせたりなんてできないの」
神尾さんに言われ、少女は困っているような顔をしている。

…しかし。
優理「…だめ。私には…大切な目的があるの。それは譲れない…」
神尾「優理ちゃん、お願い…」
優理「お姉ちゃん、少しだけ、ごめんね」
と言うと、少女の目が妖しく輝く。なんて綺麗な…吸い込まれる…
俺はハッとして、慌てて視線を逸らして言う。
俺「神尾さん、目を…!」
何か分からないけど、危険を感じた。しかし遅かった。

途端に神尾さんは目が虚ろになり、気の抜けたような表情になる。
そして少女と共に北上から離れ、部屋の隅へと歩いていく。
優理「ここに居ようね。すぐ終わるから…」

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じっとその様子を見ていた男の顔に、笑みが浮かぶ。
そして男は北上の腕を掴むと、俺たちの方に放り投げてきた。
暁彦「じゃ、まとめてさっさと片付けるぜ」

舌なめずりをしながら、男が俺たち3人の前に立つ。
少女を見てみると、何の意味があるのか、持っている石を前に掲げている。

古乃羽。古乃羽だけでも…助けたい。
俺「古乃羽、北上を起こして」
古乃羽は言われた通り、投げ飛ばされてきた北上を介抱する。
北上になんとかして、古乃羽を連れて帰ってほしい。
そして俺は…何ができる訳じゃないが、2人の前に立ち塞がって男を睨み付けた。

暁彦「よし、お前から、か?いいぞ。お前の生きる力ってのを見せてくれ」
男はニヤニヤ笑っている。もはや成す術もない。
男は俺に手を伸ばし、首を掴んできた。
そして力を込めて…

突如として男は俺を離すと、素早く部屋の扉に向き直る。
少女もまた同様に、何か警戒するような顔で扉を見ている。

すると扉がゆっくりと開き…
俺の姉貴が、部屋に入ってきた。
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