邂逅(解)

1/8
時刻は19時を過ぎたところだった。
古乃羽は、今日はずっと神尾さんと一緒に居る、と言う。それがいいだろう。
神尾さんはヌイグルミを抱いて、すっかり憔悴していた。
北上は2人を送ってから病院に行ってみると言う。腕を捻挫したようだ。
俺は、というと…

姉が、ここで他にすることがあるというので、それに付き添うことにした。
別に平気だと言うが、さすがにここで、一人で行かせる訳にもいかない。

玄関ホールで3人を見送ってから、姉に聞く。
俺「どこに行くの?」
舞「そうね…2階の、一番奥の部屋…かしら」
そこに何がある?と聞くと、行けば分かると言う。
他にも幾つか質問をする。
何でここに来たのか、何であの2人は姉を恐れていたのか、少女と話していた内容はどういうことか…

しかし答えてくれたのは1つだった。
ここには、あるものを取りに来た、と。
他のことは追々ね、と言われた。

2/8
目的の部屋に着く。
薄暗い部屋だが、目が慣れればたいしたことは無かった。
が、そこにあった解剖台には驚いた。
なにこれ…と言うと、解剖台でしょ、とそのまま答えられた。

姉は薄暗い中、部屋の本棚を調べている。
俺は他を見渡し、そこに掛けられた絵を見つけた。
綺麗な女性の絵で、[1971.3.23 容子]とある。
あの少女に似ている。なるほど、この人がきっと、母親なんだな…。
俺はなんとなく両手を合わせ、絵に祈った。
あの世で娘と会えますように、と。

姉が目的のものを見つけたようだ。それは、一冊の本だった。
姉からそれを受け取り、見てみて驚いた。
A4サイズの本で、表紙は黒。題名はどこにも何も書いていない。
中をパラパラめくって見てみると、どのページも真っ白。
つまり…まったく何も書いていない本だった。

3/8
俺「何、これ…?」
舞「見ての通り、何も書いてない本よ」
俺「なんでこんなものが?」

姉は答えず、俺から本を取り上げる。
そして絵に気付いたらしく、その前まで行く。
舞「綺麗な人ね」
俺「ん、あぁ。あの子の母親だろうな」
舞「そうね…寺坂容子。やっぱり、あれは違った…」
俺「あれ?」
舞「……」

姉は振り向き、さっきの質問に答えてくれた。
舞「この本、ある人にはちゃんと内容が見えた本なの」
俺「え?」
舞「昔、ここの主、寺坂三矢という人が…切実な願望を持って、この本を手に取ったの。本はそれに答えて、その方法を示したわ」
俺「本が、答えた?何を?」
舞「不老不死と、蘇生の方法。一般に言う、黒魔術のようなものね」
俺は驚く。
俺「そんな…方法、あるの?」
姉はきっぱりと答えた。

舞「もちろん、無いわ」

4/8
俺「…ほぇ?」
何が何だか。変な声を出してしまう。
舞「騙されたのよ、彼は。この本に…」
俺「本が、騙す?」
舞「正確には、本を作った人、かな。人の望みを叶えるような内容を示して…その人を騙す」
俺「…何のために?」
舞「ただの悪意…かも知れないし、他に目的があるのかも知れないわね」
何の意味があるのだろう。そんなことをして…。

俺「あの2人の様子とか、さっきの神尾さんのとか…あれは?異常というか、人智を超えているように思えたけど…」
舞「望みを叶えるような内容、よ。それに近いことはできないと、騙せないでしょ?」
俺「うーん…?」
舞「寺坂三矢の望みは、この絵の人、妻の容子さんの復活」
俺「ふむふむ…」
舞「でも、復活と称して出てきたのは、ただの悪霊だったの」

5/8
姉はパラパラと本をめくっている。
俺「あぁ…あの会話で言っていたやつ」
舞「うん。でもそれだけじゃ終わらなくて、父親の遺志を継いで、今度はその娘の優理ちゃんが、両親を蘇生しようとした」
俺「あの子が…」
舞「不老不死になって、ね」
俺「ん…でも、不老不死なんてないんじゃ?」
舞「そう、無いわ。ただ、優理ちゃんには蘇生させるって目的があったから…」
目的があったから…あぁ、そうか。その先は俺にも分かった。

俺「不老不死の"形"で、生かされていた…と。その本の力で」
姉は頷いた。

俺「それじゃあ…もしあの子が両親を復活させようとしたら…」
舞「出てくるのは、両親なんかじゃなく、悪霊でしょうね」
俺「……」
舞「そして優理ちゃんの、偽りの不老不死はそこで終わり」
姉は本をパタン、と閉じ、そう言った。

6/8
なんてことだ。じゃあ、あの子は一体何のために…。
危険な目にあわされたものの、なんだかやり切れない、切ない気持ちになる。

その気持ちを払い、俺は質問を続ける。
俺「それじゃあ、神尾さんのあれは…?」
舞「…」
姉は絵の前から離れると部屋の入口へ向かった。

舞「あの2人が集めていたのは、まだ生きたい、死にたくないって強い気持ち。それがあの石に凝縮されていたわ」
あの水晶みたいな石か。あれで助けることが出来たのか。
ん?じゃあ、あれがあれば…?
俺「じゃあ、あれがあれば、両親だって蘇生できたんじゃ?」
舞「完全に死んだ人と、瀕死の人ではまったく違うわ」
…あぁ、そうか。それはそうだ。
舞「生きたい、生きたい、って気持ち。それを優理ちゃんが力に変えて…彼女を助けたの」

7/8
俺「じゃあ、その後、あの子が崩れてしまったのは…?」
姉は部屋の外に出ると、階段に向かって歩いていく。俺もそれに続く。

舞「私が…」
姉は何か言い辛そうにしている。
俺「ん…何?」
舞「…私が、ここに両親は居ないって言ったときの様子からして、優理ちゃんは知っていたのだと思う」
俺「何を…?」
舞「本に示されていたのでしょうね。完全に死んでしまった人は、蘇らせることなんて出来ない、ってこと」
俺「本がわざわざ…?」
舞「掟って、それさえ守っていれば平気だ、って思えてしまうものよ。それに、優理ちゃんの望みでもあっただろうし…」

それは当然、望むだろうな。両親と一緒に居たい。ここに居て欲しい。
その気持ちを利用されてしまったのか。
両親がまだここに居るから平気。きっと甦らせることができる…と。
でも実はそれが、居ないと分かったら…
俺「じゃあ、本当は居ないと知った、あの時点で…」
姉は歩みを止め、俺に振り向いて言う。

舞「私が死なせたようなものかも、ね」
少し悲しそうな顔をする。
俺「そんなこと…ないよ」
そう思う。少なくとも、姉は食い止めたのだ。最悪のパターンになるのを。
姉は目を細めて、ありがと、と小さく言うと、また歩き出した。

8/8
俺「あの子…両親に会えたかな」
俺は誰に問う訳でもなく、つぶやいた。
姉は何も言わない。答えられる人なんて誰も居ないだろう。

やがて洋館の外にでる。
最後に1つ、その本をどうするのか、聞いてみた。
然るべき場所で、焼き払う。
姉はそう答えた。
俺はそれを聞いて安心した。そんなもの、あってはいけないものだ。
悪意の塊。悲しみしか生み出さないもの…。

姉は他にもこういったものを処分しているのだろうか。
いつからかは、病気が治ってから、だろう。それは確かだ。
でも、どうしてかは、ただの正義感なのか、それとも他に理由があるのか、
俺には分からなかった。

-

-




--------
大きな光がある。
その周りにはたくさんの小さな光が集まり、それはいずれその一部となる。

今、またいくつかの光がそこを訪れる。
その中の1つ、とても小さな光が、方向を見失ったかのようにふらふらし、その輝きを曇らせる。

そこに、どこからか来た1つの小さな光が重なる。光は輝きを取り戻す。
そしてまた1つ重なり、更にまた1つ加わる。
それは1つになり、とても強く輝き…やがて、大きな光の中に飛び込んでいった。

神尾さんの夢の話だ。
あれから数日後、再び4人集まったときに、聞かせてくれた。

それが何を意味しているのかは、誰も何も言わなかった。
怖いサイト.com
ベストヒットナビ
感想・雑談はコチラ
もっと探す@AB
[戻る]
- mono space -