悪夢@

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やっと着いた…。

人里離れたこんな場所、普通なら誰も寄り付かないだろう。
集合場所であるその一軒家に入ると、そこには既にメンバーが揃っていた。
私を合わせて5人。男性3人に女性が私ともう1人。目的はただ1つ。
自らの命を絶つ、ただそれだけのこと。

私は全てを失った。文字通り、全て。
30過ぎにして家も財産も無く、信用していた人、全てに裏切られ、心も空っぽだ。
騙すのが悪い、騙されるのが悪い、そんな問答にも飽き飽きしてしまった。

そんな私が偶然見つけた、俗に言う裏サイト。そこには私と同じく、絶望した人々が集っていた。
今日はそのサイトで不定期に行われるイベント。「旅立ち」とか呼ばれている。
サイトの住人の内、思い立った人がイベントを主催し、その参加者を募る。
私はそこに名前を挙げた。と言っても本名ではなく、ハンドルネーム(HN)だが。

そして私以外にも3人が参加を希望し、主催の1人と合わせて5人がここに集まった訳だ。

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主催のHNはアイ。もしやと思っていたが、やはり女性だった。
育ちの良さそうな若い子で、美人の部類だけど、何か思い詰めたような顔をしている。
私には分からないが、美人故の苦しみもあるのだろう。
何があったのか何となく想像が出来てしまうが…深く詮索する気はない。

男性陣は、それぞれHNがフジオ、イイヤマ、オキタ。
ちなみに私のHNはトーコ。
サイトの住人全員に言えることは、HNとはいえ普通の人名が多い、ということ。
場所が場所だけに、気取った名前を付ける人は少ない。

フジオさんは50歳くらいだろうか。確か会社が倒産して云々と言っていた。
イイヤマさんも年齢はフジオさんと同じか、少し下か。多額の借金を抱えているらしく、これ以上逃げる術が無いらしい。
オキタさんは40歳くらい。長年"家事手伝い"をしていたが、両親が他界して生きる気力を失ったとか。

男3人はやはりアイさんが気になるようで、チラチラと視線を送っているのが分かる。
こちらには最初に一瞥しただけで終わり。失礼なことだが腹も立たない。
こういった扱いをされるのには、もう慣れている。

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畳の部屋に全員が集まり、主催のアイさんが口を開く。
アイ「今日は…あの、集まってくれて、ありがとう、ございます」
いえいえ、どうも、とボソボソした声で答える男性陣。
アイ「えっと…。これ、使います。この薬と…練炭を、準備しました。これで…」
そう言うと、彼女は錠剤の入った小瓶を取り出す。
部屋の隅には練炭らしき鉢が数個、置いてある。
私「それは…睡眠薬?」
アイ「はい、これ使わないと…ちゃんと寝てないと、練炭でも苦しいと聞いたので」
私もそれは調べて知っていた。
フジオ「睡眠薬、効くかな。飲んだことないんだけど…」
アイ「その点は、大丈夫な筈です。この薬、何度かイベントで使われたものと一緒なので…。失敗は無いそうです」
確かサイト内に、睡眠薬はコレ、といったことが書いてあったことを思い出した。
準備は万端、という訳だ。

私たち参加者は、アイさんからそれぞれ数個の睡眠薬と、
これも準備されていた水の入ったペットボトルを受け取る。

鉢を部屋の中に点々と置き、ガムテープ等で戸締りをしっかりし、
それでは…というところで、今まで無言だったオキタさんが口を開いた。

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オキタ「あのさ、ちょっといいかな」
イイヤマ「…なんだ?」
怖気ついたのか?とでも言いたそうな口調で、イイヤマさんが答える。
オキタ「いや、ここさ。この家、俺、知ってるぜ。アイさん」
私「?」
アイ「あぁ、知っている方、居ましたか」
オキタ「へへ…。ここ、アレ、だよな…」
何か含んだような言い方をするオキタさん。
イイヤマ「アレって何だよ。何か言いたいならさっさとしろよ」
イイヤマさんはどうやら、沸点が低いようだ。
アイ「ここ、ある人達の間では有名な場所だったのです。悪霊が出る家、って」

へぇ…初耳だ。でも確かに薄気味が悪い場所ではある。
フジオ「ここ…何か出るんですか?」
オキタ「さぁ。最近は何も聞かないけどな。もう何もいないんじゃない?」
イイヤマ「じゃあ、どうでもいいじゃねぇか。くだらない…」
私「もう居ないって、成仏したってこと?」
何故かイイヤマさんに反発したくなって、私は話を広げようと思い、聞いてみた。

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オキタ「いや、俺、そんなに詳しい訳じゃないから…」
私「あぁ…そう…」
何だ。知っているような口ぶりで言っておいて。
アイ「私、少し知っています…悪い霊は、除霊されたそうです」
フジオ「ほぉ…。除霊とか、あるんだねぇ」
イイヤマ「霊媒師か何かに?怪しいもんだが…本当かねぇ」
アイ「何人かは失敗して…命を落とした方も居たそうですよ」
私「ふーん…」
アイ「私が知っているのは、それだけです。それじゃ、始めましょう…」

そう言って話を切ると、アイさんは躊躇無く薬を飲む。
私たちも慌ててそれに続く。
アイ「10分位で効果が出る薬です。練炭、火を点けておきます」

私たちはそれぞれ、適当な場所で横になる。
最後の眠り。これで…私は全ての苦しみから解放される。

やがて睡魔が訪れ、私を連れ去っていった。
深い、深い、眠りの世界へと…
……


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燃えるような感情に揺り動かされ、私は目を覚ました。
部屋の中は…何故か空気は澄んでいて、息苦しさは感じない。
感じるのは、身を焦がすような憤怒。心の奥底から湧き上がるような怒りで、目が眩む…!

全てを破壊してしまいたい衝動に駆られ、口から自然と唸り声が漏れる。
…と、私の周りからも唸り声が聞こえる。
部屋を見渡すと、男が3人、私と同じように唸り声をあげて身悶えている。
1人居ない…?いや、そんなことはどうでもいい。

怒りで震える体を抱えるようにして、私は身を起こす。
男達も、ゆっくりと起き上がろうとしている。
男達…この男達……こいつら…!
私に見向きもしなかった奴等。なんと腹立たしいことか。
こっちだってこんな男共に興味は無い。
なのに、私を見下して…!

こいつらは…そうだ、私を騙し、裏切った奴等じゃないのか?
私を破滅させておいて、更にここでも私を侮辱して…!
姿かたちは違えども、私には分かる…こいつらは皆同じだ。
憎い、男共…!

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自分の中に声が聞こえる。声、なんてものじゃない。怒号だ。
憎め、殺せ、と私の中で…私が叫んでいる。

あぁ、やってやる…思い知らせてやる…今すぐに。
武器…武器が、ある…?
どこからか声が聞こえる。
どこに?他の部屋に置いてある?
私じゃない女の声が、教えてくれる。それを使って…やればいい。

体の震えがピタリと止む。
私の中で何かが激しく燃え上り、異常な程の力が沸き起こる。
ここを出て他の部屋に行くため、私は急いで出口の扉に向かった。
それと同時に、男達も扉を目指してくる。目的は同じようだ。
私は扉に一番近い場所にいたので、真っ先にこれを開け、廊下に…
というところで、背中に衝撃を受け、倒れこむ。
蹴られた!誰に?誰が私を足蹴にした!?

振り向くとすぐに分かった。オキタだ。この…ニートが!
他の男2人は?というと、部屋の中で倒れこみ揉み合い、殴り合っている。

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オキタは私にニヤリと笑うと、倒れた私を飛び越えていこうとする。
駄目だ…!先に行かせてなるものか!
私は倒れたまま、オキタの足に必死でしがみ付く。
そして、歯を立て、ふくらはぎに思い切り噛み付いた。
オキタ「ぐぅ…・・あぁっ!」
オキタは体制を崩し、倒れる…と同時に、もう片方の足で私の頭を思い切り蹴り付けてくる。

頭を蹴られた私は足から離れるが、深く歯を食い込ませていたため、ふくらはぎを少し喰いちぎることができた。
オキタ「がぁ…ぁあ!ちくしょうっ!!」
オキタはその痛みでバタバタもがいている。ふふん、自業自得だ。
不味い肉片をペッと吐き出し、悪態をつく。
そして頭が少しクラクラするものの、何とか立ち上がり、
廊下の奥、扉の開いている部屋に向かった。

悪夢Aへ続く
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