悪夢A

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部屋に入ると、そこは居間のようだった。テーブルやソファーがある。
一見なんとも無いような部屋。
だがそこには、数々の武器が置いてあった。
テーブルの上には、ナイフや日本刀、鉈、手斧、槍、スパイクロッド。
床の上には、やや大型のハンマーなどが置いてあるのが見える。
残念ながら、どこにも銃火器は無い。

さて、どれを使う…?
私は悩む。女の私でも使えるものは…これか?
テーブルに駆け寄り、私は一本の槍を手に取った。これなら突くだけだ。大して力も要らないだろう。
そして振り向くと、丁度オキタが部屋に入ってきたところだった。
足を引きずっている…チャンスだ!

私はオキタに向かって槍を突き出す。
が、オキタはギリギリでそれを避ける。
何だか頭がクラクラして、間合いが上手く掴めない。
あの睡眠薬と、先ほど頭を思いっきり蹴られたのが効いているようだ。

それでも私は歯を食いしばり、一心不乱に槍で突きまくる。
オキタは何とか避けるが、狭い室内で全てを避け切るには限界がある。
やがてソファーに足を引っ掛け、倒れたところを、私は腹を狙って突き刺した。

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オキタ「いっ…がぁ…っ!!」
オキタが苦痛の声を漏らす。やった…!
槍の先に確かな手応えを感じ、私は何とも言えぬ喜びを噛み締める。
しかしそれで油断してしまった。
オキタは自分に刺さった槍を掴むと、すぐに引き抜き、振り回し、あっという間に私から武器を奪ってしまった。

オキタ「こ…の…アマ…あぁぁぁ!」
オキタは腹から血を流しながら立ち上がり、私に襲い掛かってくる。
他の武器を何か…、と思いテーブルに向かうものの、オキタの突き出した槍が私の脚を貫く。

私「あぃいいっあぁっっ…!!」
私は声をあげて倒れこむ。右脚が焼けるように熱い…!
オキタは槍を引き抜き、笑い声を上げている。
くそ…くそっ…くそっ…!!
私は倒れたまま、這うようにしてソファーの陰へと移動する。
オキタはそんな私の様子を見て、相変わらず笑っている。
こいつ…絶対、殺してやる…!
ソファーの陰に来たのは逃れるためではない。そこに置いてあった武器を手にするためだ。
普段ならこんなモノ使えないだろうけど、今なら…。
私がそれを手にするのと、オキタが再び襲い掛かって来るのは、ほぼ同時であった。
私は渾身の力を込めて、手にしたもの…大型のハンマーを、襲い来るオキタに向かって振り回した。

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鈍い音が部屋に響く。
今まで聞いたこともない音。
それは、オキタの顎骨が砕ける音だった。
突き出された槍より一瞬早く、私のハンマーは偶然にもオキタの顎を砕いていた。

オキタは槍を落とし、呆然と立ち尽くしている。その顎からは、滝のように血が流れている。
やがて砕けた顎を両手で覆い、両膝を付く。
オキタ「あぁ…うぅ…あ…」

私に跪くような格好で、涙と鼻水、それと大量の流血にまみれて呻き声を上げるオキタ。
私はそれを見て気力が湧き上がるのを感じ、痛む脚も無視して立ち上がる。
殺せる…これで、こいつを…殺せる…!

私は両手でハンマーを持ち、高々と振りかぶる。
そしてオキタの頭上めがけて、思いっきり振り下ろした。

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オキタを始末した私は、ハンマーを捨て、再び槍を持ち、残りの獲物の所へ向かった。
確か、フジオとイイヤマは2人で争っていたようだが…どうなったか?

痛む脚を引きずるように、最初の部屋の前まで戻る。返り血で真っ赤に染まった服が少し不快だ。
部屋に入る前に耳を澄ませるが、室内からは何の声もしない。まさか2人共?
それではつまらない。まだ…殺し足りない。
憎いやつらをこの手で始末しない限りは、この憤怒は消えそうにない。

ゆっくりと部屋に入ると、部屋の隅に人が倒れているのが見えた。
あれは…フジオだ。まぁ、あの2人なら負けるのはこっちだろうとは予想していた。
生死は確認するまでもない。仰向けに倒れているフジオの胸からは血が溢れ出ている。

素手であんな風にはならないはずだ。
あの部屋以外にも、武器を置いてある場所があった…?
…と思った瞬間、死角からナイフを持ったイイヤマが襲い掛かってきた。

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何とか避けたつもりだったが、イイヤマのナイフは私の左腕を切り裂き、その痛みに槍を落としてしまう。
そしてイイヤマは素早く槍を拾い、廊下の方に投げてしまう。
イイヤマ「ヘヘ…。次は、お前の番だな…」
次。フジオの次か。
でもそれは私にも言える。お前はオキタの次、だ。

ナイフを持った男と、素手の女…しかもこちらは腕と脚に傷を負っている。
しかし何の恐怖も感じない。逃げようとも思わない。
ただ、この状態から如何に相手の命を奪うか。その方法だけを考える。

イイヤマ「このクズが…俺をバカにしやがって…コケにしやがって…」
ぶつぶつと言いながら、イイヤマはじりじりとこちらに迫ってくる。
イイヤマ「死ねっ…!!」
ナイフを突き出して襲い掛かってくる。でも私は退かない。避けもしない。
逆にこちらも相手に突撃する。ただ一点を狙って。

ナイフが私の腹部に刺さるのを感じる。
それを無視して、私はイイヤマの喉笛に噛み付いた。

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ナイフのことなんか、どうでもいい。
私はイイヤマの頭を両手で掴み、口だけに全神経を集中させる。
このまま…噛み殺してやる…!

ナイフは更に深く、私に突き刺さる。
しかし何とも思わない。燃え上がる憎しみが痛みを凌駕している。
イイヤマの顎に手を掛け、上に引き上げる。
そうして喉を突き出させ、私は更に深く歯を喰い込ませる。

イイヤマ「…ぅあぁぅ…ぶ・・ふっ」
やがてイイヤマの体から力が抜け、ナイフが床に落ちる。
ゴロゴロと喉が鳴っているのが感じられる。
膝から崩れ落ちるイイヤマ。私も共に倒れるが、それでも口は離さない。
喉から血が吹き出してきて、口中が満たされる。溢れた血が口元から滴り落ちる。

まだだ。まだ…まだ…。
深く、深く噛み続ける。
イイヤマはピクピクと四肢を動かしていたが、しばらくすると完全に動かなくなった。
私はそこでようやく、口を離した。

やった…勝ったんだ。私が、勝ったんだ…
そう思った途端、体に力が入らなくなり、急速に意識が薄れていく。

そして気を失う…寸前、視界の隅に、私を見つめるアイさんが見えた。

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トーコ…
……トーコさん…
誰かが私の名前を呼んでいる。
もう目を覚ますことは無いと思ったけど、私は目を覚ました。

私を呼んでいたのは…
アイ「あぁ。やっと気が付いたのね」
私「アイ、さん…」
全身の感覚が麻痺しているみたいで、頭がクラクラする。
何だか酷く…悪い夢を見ていた気がする…。

アイ「大丈夫?私の声、聞こえてる?」
私「聞こえる…うん…」
喋るのも気だるい。何をしていたんだっけ…。
ノロノロと周囲を見渡して見ると、男が数人、横になっている。
あぁ、そうか…私たち、ここで自殺しようと…でも薬がうまく効かなかったのかな…。

私「アイさん…」
アイ「なぁに?」
私「アイさんも…起きて…?他の人は平気…?」
アイ「えぇ、平気よ」
私「そう…よかった…」

アイ「でも1人だけ、向こうの部屋に置いてきたわ」
私「…?」
アイ「だって頭が砕けていて、運ぶ気にならなかったから」
私「砕け…て…」
アイ「そう。随分と派手にやったのね、トーコさん」

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パチンッと、アイさんが横になっている私の頭上で指を鳴らす。
その音で、私は覚醒する。
腕、腹、脚に激痛が甦る。
口中に血の味が広がる。
イイヤマの血だ。私は思わず吐き出してしまう。
アイさんはそんな私を冷ややかな目で見ている。

アイ「トーコさん、今日はありがとうね。とても楽しかったわ」
何を…何が…?私は苦しくて、もう言葉を発することもできない。出るのは呻き声だけだ。
アイ「正直驚いたな。まさか女のトーコさんが残るなんて思わなかったから」
私は残った…あなたは、何をしたの…?
アイ「この場所、呪いの実験には最適なのよね」
場所…実験…
アイ「ここを提供してくれたあの男に感謝してるわ。…もう、消されちゃったけど…ね」
じゃあ、ここに呼ばれた私たちは…
アイ「勿論、あなた達にも感謝しているわよ?私の大切な…」
モルモット…だ。

アイ「ここの後始末と掃除は、適当に誰かを連れてきてやってもらうわ」
意識が薄れていく。全てが私から遠ざかっていく。
アイ「だから、心配しないで…」
その子は私の髪をそっと撫でながら言う。
アイ「そのまま眠りなさい…」

絶望的な優しさを感じ、私は再び眠りについた。

そして二度と、目覚めることは無かった。
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