搾取

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ボーン、と柱時計が鳴る。
私はそれで目を覚ました。

ベッドから出て、頭の中で今日の予定を確認する。
今日は買い物に行くんだ。
新しい服を買わないと。それと、欲しいものがいくつかある。

私は出掛ける支度を済ませて、家を出る。
朝食は…まぁ、特に食欲はない。空腹を感じたら何か適当に食べよう。

休日の繁華街は、どこからこんなに集まってくるのか、大勢の人で賑わっており、
私は自分の気に入る服を求めて、お店を転々とする。
流行のタイプとか色とか、どこのお店でも同じようなことを言われるが、どうも興味が沸かない。
どうやら、今年の流行とやらは自分には合わないようだ。

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いくつかのお店をまわり、やっと満足のいく服を買えた私は、
荷物をコインロッカーにでも預けようと思い、近くの駅に向かった。
そしてその途中で、声を掛けられた。

男「ねぇねぇ、どこ行くの?」
1人の男が私に話しかけてくる。それなりにモテそうな顔をしている、若い男だ。
私「えっと…荷物を預けようと、駅に…」
男「へぇ…」
男は何気ない視線で、私の顔や身体を見てくる。
男「どこか遊びに行かない?俺さ、車なんだ。荷物預けなくて平気だよ」
どうやらお目にかなったらしい。

車は…移動が楽だな。荷物を預けないで済むのもいい。
私は少し考える素振りを見せてから、了承した。

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よしよし…いきなり上玉をゲットすることができた。
助手席に乗せた女を見て、笑みがこぼれる。
大学生くらいだろう。中々の美人じゃないか。
虫も殺さないようなお嬢様っぽい雰囲気を持っているが、こういうタイプは意外と簡単にいくものだ。
俺も自分の顔が良いことは知っているし、な。

さて、この子はどんな所が好きかな?と思っていると、ちょっと行きたい場所がある、と言う。
俺の知らない場所だったので、ナビに頼ることにした。

運転中、ついつい横を見てしまう。本当に綺麗な、可愛い顔をしている…。
ひょっとして、一目惚れしてしまったかも知れない。
見れば見るほど魅力的に思えてきて、胸が詰まり、軽い眩暈すら覚える。

はやる気持ちを抑えて、ハンドルを切る。
そして、とりとめのない話をしていて、ふと気付く。
俺としたことが、何故かまだ名前を聞いていない。少し焦っていたか?

俺「あのさ、まだ名前聞いてなかったね。俺、キヨヒコ。キヨ、って呼ばれてる」
女「私、アイです」
ニコリと笑って名前を教えてくれた。
可愛らしい笑顔だ。

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やがて目的地が近付く。
それほど遠くはなかったが、何と言うか…人気が少ない場所だ。
まぁ、いい。アイちゃんが行きたいというなら、どこでも良いさ。

車は山道に入っていく。もう、すれ違う車すら無い。
ここまで来ると、彼女は1人では帰れないだろう。
それと、俺から逃げることもできないな、なんてことも考えてしまう。
今ここで何かしてしまおう…なんて思いは今のところないが、これだけ人気の無いところに来ると、良からぬことを考えてしまう。

しばらく山道を進んだところで、彼女が「止まって」と言った。
何だろうと思いつつも、言われた通りに車を脇に寄せて止める。
アイ「そこの道なの。ここからは車じゃ入れないわ」
彼女の指差す方向を見ると、そこには車では到底入れないであろう道が続いていた。
俺「えーっと…じゃあ、降りようか」
アイ「うん」

荷物は車に残したまま、俺たちはその道を歩き出した。
アイ「ごめんね、こんなところに付き合わせてしまって…」
俺「ん。あぁ…別に気にしないよ。ハイキング気分…さ…」

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一体どこに向かうつもりか分からないが、彼女はどんどん山道を進む。
俺はそれについていく。
なんだか頭の中がモヤモヤしてきて…考えがまとまらなくなってきた。
ただ、彼女の後姿に見とれて、それについていくだけだ。
君が行きたい所なら…どこでも、行くさ…

そして目的地に着く。
廃墟…とまでは言わないが、古びた一軒家だ。
彼女が中に入っていくので、俺もそれに続く。

中に入ると、悪臭が鼻をつく。
俺「これ…何の臭い?何か、腐ったような…」
アイ「気のせいよ」
気のせい…あぁ、本当だ。気のせいだった。何も臭わなくなった。
アイ「奥の部屋なの」
彼女は奥の部屋へ向かう…当然、俺はついていく。

そして奥の部屋に入る。そこには…
俺「う…げぇ…っ?」
頭を砕かれた、見るも無残な死体が転がっていた。

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俺「アイちゃん…、こ、これ…」
不意に吐き気が込み上げてくる。俺は口を押さえて部屋を出ようとする。
…が。

アイ「人形よ」
人形?バカな。こんなリアルな人形が…俺は再びそれを見る。
…あぁ。本当だ。人形だ。なぁんだぁ。
アイ「それ、外に運んで」
人形を外に運ぶ、だな。よし。
アイ「それと向こうの部屋にも3体あるから、それもよろしく。あ、引きずらないでね」
向こうにも3体。それも運ぶ。引きずらない。
アイ「あと、ここと向こうの部屋、床が汚れているから、その掃除もお願い」
床の汚れ。掃除をお願いされた。
アイ「掃除の道具は揃っているから。…分かった?」
俺「…分かった。運んで、掃除する」
そう返事をすると、彼女は嬉しそうな笑顔を見せてくれる。

アイ「ありがとう。助かるわ」
あぁ、なんて可愛らしい笑顔。
俺は幸せ者だ。望むことなら、なんでもしてあげたい…。

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俺はせっせと人形を運ぶ。
持ち上げてみると意外と重く、中々骨が折れる作業だ。
そして人形を全て運び出し終わると、俺は部屋の掃除を始めた。

彼女は外で、俺が運び終えた人形に何かをしているようだった。
少し気になったが、言われたことをキチンとやらなければ嫌われてしまうかも知れない。
それは考えるだけでも恐ろしいことだ。

なかなか落ちない汚れもあったが、俺は必死で床を磨いた。
特に畳の部屋は汚れが酷くて苦労したが、何とか綺麗にできた。
なんて清々しい気分だろう。
俺は彼女の役に立ち、更にこんなに良い気分にもなれたのだ。彼女に感謝しなければいけない。

掃除が終わったので、外に出て彼女にその報告をする。
俺「掃除、終わったよ。あとは何をすれば良い?」
アイ「ありがとう。丁度こっちも終わったわ」
こっちも終わった…何をしていたのだろう。

アイ「でもね…ちょっと困ったことがあるの」
困ったこと…大変だ。彼女が困っている。
俺「何?」
アイ「思っていたより、死体血が少ないのよね」
俺「…?」
アイ「あなた、くれない?」

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何のことだろう。よく分からない…。焦ってしまう。
俺「えぇ、と…どうすれば、いい…かな」
アイ「簡単よ。死んでくれればいいの」
死ねばいい、か。
……
何だ。簡単なことじゃないか。よかった…。

俺「分かった。任せてくれよ」
アイ「本当?嬉しい…」
そう言って、また笑顔を見せてくれる。
あぁ、この笑顔…このためなら、俺はなんでもできる。

アイ「じゃあ…ね、特別に…」
彼女が俺に近寄ってくる。俺の胸は自然と高鳴る。
そして目の前までくると、俺の首にそっと両手を添えてきた。
アイ「私が、殺してあげるね?」
胸の鼓動が高まる。しなやかなその指が俺の首筋に…ゾクゾクする…俺はかつて無い程、興奮している…!

彼女が徐々に首を絞めてくる。その手はとても暖かく…何とも言えず心地よい。
段々と締め付ける力が強まってくるにつれ、俺は夢見心地になる。
最高の気分だ…あぁ、俺はなんて、なんて…幸せなんだ…

やがて俺の鼓動が完全に止まるまで、彼女は首を絞め続けてくれた。

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男の体から血を抜き終わり、全ての処理を済ませると、
辺りはすっかり暗くなっていた。

ほんの少しだが、やはり服が汚れてしまった。
私は男の車まで戻り、新しく買った服に着替える。
予定通りだ。
思い通りに事が運ぶと、気分が良い。

今のところは全て順調だ。
ただ…。ただ1つ、あの女のこと以外は。

私がせっかく育て上げた一軒家の悪霊。
そして、あの貴重な、珍しい症例で観察し甲斐のあったあの男…暁彦。
それらが全て消されてしまったのは、本当に惜しいことだ。
一軒家の方は仕方なかったとしても、暁彦には警告をしておくべきだったと悔やまれる。
あの愚かな男が耳を貸すとは思えなかったけど、その妹なら分かってくれたかも知れない…。

…まぁ、いいか。
この世界には、他にも興味深いものがたくさんある。
自分の邪魔になりそうな人間が居ることは、よく分かっている。
しかし、それを思い通りに、手のひらで転がして遊ぶのは…
とても、とても楽しいだろう。
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