謀略(前)

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どうしても気になることがある。
一度気になり始めるとどうにも放っておけない性格なのは、自分で分かっている。

こんなときはいつも美加に話を聞いてもらっていたのだけど、
この件に関して彼女はもう…できるだけ、巻き込みたくない。
今は立ち直ってくれたけど、長年の付き合いで、あんなに傷付いて落ち込んでいた美加を見るのは初めてだった。

かといってまた1人で行動を起こすと何があるか分からないし、今もまだちょっと怖い。
そして私には、今は美加だけじゃなく、もう1人、何でも話せる人が居る。

と言うわけで…大学でのお昼休み、私は雨月君に話を切り出してみた。
内容は、以前私が大学で会った、あの暁彦という人のことだ。
あの後で聞いた雨月君からの話だと、人と呼んで良いのか悩むところだけど。

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雨月「あぁ、以前にも言っていたね。大学で暁彦に会った、って」
私はそのときのことを、掻い摘んで話す。
もちろん、雨月君の姿を見て、美加に電話して…のくだりは秘密。

私「それでね。やっぱり、分からないことがあるの」
雨月「何が?」
私「あの人が大学に来ていたから、私は見てしまったの」
雨月「だねぇ」
私「でも私、遠くの人が見える訳じゃないから、大学に来てなければ、見ることは無かったはずなのよね」
雨月「あ、そうか…」

私「何でここに来ていたのかが分からないの。わざわざこんな所にまで、私に警告までして…」

雨月「うーん…」
私「それがどうしても気になって…。私、調べてみたい」
雨月「調べるって、どうやって?」
私「あの、校舎裏の部室。もう一度あそこに行ってみようと思うの」

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雨月君の話…正確には舞さんの話では、あの兄妹はもう存在はしていない。
ならば、あの奇妙な部屋に行っても平気…なハズだ。
でも、何があるか分からない。用心するに越したことは無い。

私「雨月君、一緒に来てくれる…?」
1人で行く気はない。断られたら諦めようと決めて、聞いてみる。
でも…
雨月「あぁ、もちろん。1人で行かせる訳にいかないよ」
返事は分かっていた。うーん、私、ちょっとズルイかな?

雨月「ただ、ちょっと…」
私「?」
雨月「北上も呼ぶ。2人だけで中に入るのは危険そうだ」
私「やっぱり、危ないかな…」
雨月「分からないけどさ。あと、神尾さんはどうする?」
私「美加は…今、講義中かな。それに…」
雨月「何も無さそうなら、呼ばない方が良いか…」
私「うん…」
彼も同じ考えのようだった。

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やがて雨月君に呼ばれて、北上君がやってきた。
あれ、神尾さんは?という顔をしたけど、これからしようとしていることを説明すると、すぐに察してくれたようだ。
北上「うーん、俺で何か役に立てるといいけどなぁ…」
ちょっとトラウマ?にでもなっているのか、自信なさげな様子をみせる。
雨月「別に、何も期待していないから平気だ」
北上「お、おぅ、そうか…。よし、その期待に応えるぜ」
雨月「…」

3人で校舎裏の部室に向かう。
ここに来るのは2回目だ。あの時は1人だったけど、今日は3人。心強いな。

問題の部屋の前に着く。
以前感じた、あの嫌な雰囲気は…まったく無くなっている。
雨月「ここかぁ…。ほんとだ。何の部室だろうな、ここ」
部室が並んでいる中で、一番西にある部屋。何のサークルなのか、何も書いていない。

北上「こんなとこあったんだな。知らなかったなぁ」
私「うん。前はね、この中にあの人が居たの」

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雨月「じゃあ、北上」
北上「おし、行くか。先頭切って、突っ込んでやるぜ」
雨月「いや…お前は、ここで待機な」
北上「…待機?」

私「3人で入って何かあったら大変だから…誰か、外で連絡できる人に居て欲しいの」
北上「そ、そうか…なるほど」
私「ごめんね、こんなことお願いしちゃって…」
北上「いやいやいやいやいや。全然構わない」

雨月「じゃあ…10分くらいでいいかな?俺たちが入って、10分経っても出てこなかったら…」
北上「こなかったら…神尾さんに連絡するか?」
私「うーん…」
美加は…と思ったけど、ずっと蚊帳の外にするのも悪い気がする。
私「うん、そうして。今、講義中だけど…」
北上「分かった」

霊感の無い人を呼んでも…と普通なら思うところだけど、美加なら何とかしてくれるかも、何て期待してしまう。
それに美加は…舞さんの携帯番号を知っている。万が一の時には…。

そう願って、私と雨月君は部屋に入っていった。

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部屋に入り、扉を閉める。
本当は開けておきたかったのだけど、この前と同じ状態にしたかったので閉めることにした。
部屋の中は窓からの明かりで、ある程度の明るさはある。

それほど広くない、この部屋。
前はここに、暁彦と言う男が居たのだ。
しかし今は誰も居ない。中に入っても、特に何も感じない。
それは雨月君も同じだったようだ。

雨月「…何も無い、な」
私「うん…。特に変わったものも無いね」
テーブル。椅子。棚。どこにでもあるような、普通の部室だ。
一応、棚を調べてみるが、何も置いて無いのですぐに終わってしまう。何だか拍子抜けだ。

雨月「手掛かりなし、かぁ」
私「うーん、何もなさそうね…」
そういって改めて部屋を見渡す…と。
私「あれ…あんなところに…扉?」

入り口とは別に、部屋の壁に扉がある。それだけなら普通のことなのだが、
その扉は部屋の西の壁に付いている。この部屋は部室が並ぶ中の一番西の部屋なのに、だ。

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雨月「…気が付かなかったな。古乃羽は?」
私「私も…。暗がりだから…?」

部屋の奥の、西側の扉。
さっきまで無かったような…いや、見逃していただけ?
雨月「何か感じる?」
私「ううん、何も。何だろう、これ。何でここに…」
ただの飾りだろうか。それとも…。
私たちは2人で扉の前に行ってみる。
扉には小窓が付いていて、向こう側が見えるようになっていた。
そこで更に異常に気付く。

雨月「部屋がある…?」
小窓から見える向こう側。そこに部屋があるのだ。
私「この壁の向こうって、…外だよね?」
雨月「あぁ、そのはずだけど…」

扉を開けずに小窓から中の部屋を見てみるが、ガラスが少し汚れていて、よく見えない。
雨月「…入ってみるか」
入る。うん、入るしかない。大丈夫、何も…危険は感じない。
私「うん。入ろう」

そう言って私たちは、その扉に手を掛けた。

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待機。ただ、待機している。
あぁ、どうにも落ち着かない。

中で何が起こっているかも分からず、ただ何もせず待っている、というのはどうにも落ち着かない。
腕時計を見ると、雨月達が入ってから、まもなく10分になろうとしていた。

結構掛かっているな。何か見つかったかな?それともまさか…
いやいや、無い無い。あの二人なら平気だ。うん、きっと平気。多分。
平気で居てくれないと、困る。

しかし、どうにも落ち着かない気分であれこれ考えていると、あっと言う間に10分経ってしまった。
これは…マズイな。俺は決めていた通り、携帯を取り出して神尾さんに電話をする。

…が。

通じない?
向こうの電源が入っていないようだ。

…しまった!
講義中と言っていたが、携帯を切っておく必要のあるような講義だったか?

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直接呼びに行きたいところだが、どこに居るのか分からない。
場所を聞いておくべきだった。
探しに行く?学内の講義室を全部?いや、待て待て。落ち着いて考えよう。

そうだ、雨月に連絡すればいいじゃないか。
俺は雨月の携帯に電話をする。

…出ない。
呼び出し音はするものの、出ない。鮎川さんの方にも掛けてみるが、こちらも出ない。
くそ…電話に出られないような状態、って訳か?

これはやばいぞ。
どうすればいい?雨月の姉さんの携帯番号なんて、知らないぞ?
俺も部屋に入るか?いや、駄目だ。誰かに伝えてからじゃないと。

どうすればいいのか分からず、気持ちが焦ってくる。
すると、突然声を掛けられた。

声「あれ、北上君?」

振り向くと、そこには白谷さんが居た。
神尾さんと鮎川さんの友人、白谷佳澄さん。何という天の助け!

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俺「あぁ、白谷さん!丁度いいとこに来てくれた」
白谷「えっと…こんにちは、北上君。こんなところに用事?」
俺「そう、用事なんだ。あのさ、神尾さんに伝言をお願いしたのだけど、いいかな?彼女、携帯切っているみたいで」
白谷「この後、会うつもりだからいいけど…急ぎみたいね。何?」
俺「えーっと…」
さて、何て伝えてもらうか。詳しく説明していられないし…。

俺「この場所のことと、雨月達が中に入って10分経ったから、俺も入る、ってことだけ伝えてくれるかな」
白谷「この場所…と、雨月君たち…って、古乃羽のこと?入るって、どこに?」
俺「あぁ、そう、雨月と鮎川さん。で、えーっと…」
うーむ。白谷さんはキョトンとしている。

俺「とにかく、それだけ伝えてくれるかな。悪いけど…」
神尾さんはこの部屋のことを知っている。きっとこれだけで分かってくれるはずだ。
それに、どこに入るかについては、白谷さんには教えない方が良いと思った。
何か間違って彼女も入ってきてしまったら、危ないかもしれない。

白谷「うん、分かった。すぐ伝えるね」
俺「ありがとう!助かるよ」
そういうと、白谷さんは校舎の方に駆けていった。
よし。これで、何とかなるぞ。

白谷さんを見送った俺は部屋の扉を開け、中に入っていった。

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何ともつまらない講義も、やっと終わってくれた。
何度欠伸をかみ殺したことか。単位のためじゃなきゃ、絶対耐えられない。
思いっきり背伸びをする。あぁ、今日はこれ以上のお勉強は無理。もう無理ですヨ。

誰かと遊びに行こうかな、なんて考えて携帯を取り出すと、電源が切れている。
あれ…いつ切ったっけ?と一人で首を傾げていると、佳澄がやってきた。
古乃羽は居ないみたいだ。雨月君と一緒かな?

私「や、佳澄。やっと講義終わったよ、もう…」
佳澄「ふふ、おつかれさま。あのね、美加」
私「なに?」

佳澄「この後暇だったら、ちょっとお買い物に行かない?」

私「買い物…うん、行きたいな。古乃羽はどこだろ」
佳澄「古乃羽は、雨月君と一緒みたいよ」
私「ふーん。2人でお出掛けかしら。じゃ、呼んじゃ悪いか」
どこで何をしているのかな?何故か少し気になった。

そして佳澄を見て、ふと気が付く。
私「佳澄、その服可愛いね。新しく買ったの?」
佳澄「うん。この前、買ったの。今日は靴も欲しくて」
私「似合っているじゃない。私も新しい靴でも買おうかな」
佳澄「ありがとう。じゃ、いこ?」

そして私は、佳澄と買い物に出掛けた。
あの3人が奇禍にあっているとは、思いもせずに…。
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