昔話

1/8
あるところに、仲の良い兄妹がいました。
兄妹の両親は幼い頃に他界しており、彼らは祖母と3人で暮らしていました。

兄の名前は、陸といいました。
彼は霊感を持っており、霊媒師をしていました。
彼はネットなどから情報を集め、各地を転々とし、除霊を行っていました。
しかし除霊と言っても、彼自身が特別強い霊感を持っていた訳ではありません。

彼が主に行っていたことは、霊を弱らせ、捕獲することでした。
そしてそれを自宅まで持って帰り、祖母と協力して除霊を行っていました。

ネット上には、たくさんの心霊スポットが紹介されていました。
しかし彼は、それらの中で有名な場所にはあまり興味を惹かれませんでした。
なぜなら、そういった場所はほとんどが安全な場所であり、本当に人に害になるような場所は有名には成りえない、と考えていたからです。

妹の名前は、夏美といいました。
彼女は兄と祖母がなぜ除霊を行っているのかは知りませんでしたが、そうやって人助けをしている彼らを誇りに思っていました。
彼女にとって、父親代わりでもあった兄は、小さな頃からのヒーローでした。

2/8
そんなある日…

彼らの家に、珍しく来客がありました。
応対に出た夏美は少し驚きます。やってきたのは、同じ年頃のとても綺麗な女性でした。

陸を訪ねてきたようで、その女性は陸の部屋へとあがっていきました。
そしてしばらく部屋で何か話し合っていたようですが、1時間程で女性は帰っていきました。

女性が帰った後、どういう人なのか気になった夏美は、兄に聞きました。
兄は少し照れるように、仕事の依頼人だと答えました。
その素振りを見た夏美は、きっと兄はあの女性に気があるのだと思い、嬉しく思いました。

その女性の名前は、佳澄といいました。

佳澄は幾度と無く、彼らの家を訪ねてくるようになりました。
夏美は不思議と彼女に強く惹かれ、自然と仲良くなりました。
陸も親しくなっていたのですが、夏美から見ると、何故か陸は彼女に対して、一線を引いているように見えました。

夏美には、それが不思議でなりませんでした。

3/8
佳澄は家に来ると、いつも最初に陸の部屋へと行きます。

夏美が怪しんで、部屋に二人きりで何をしているの?と陸に聞くと、
陸は、ただ話をしているだけ、と答えました。
本当にそれだけのようだったので、夏美がつまらなそうにしていると、
陸は、彼女は自分なんか相手にしないよ、と言います。
それを聞いて、夏美は思っていた疑問をぶつけてみます。
佳澄さんに対しては、兄の方から少し距離を置いているように見えるよ?、と。

陸は視線を逸らし、すぐには答えません。
夏美はその様子をみて、自分の考えが正しいことを知りました。

やがて陸が言います。
綺麗な人だから緊張してしまうんだよ、と。

夏美は、それは嘘だと思いました。
…ですが、尊敬する兄の言うことなので、信じることにしました。

陸はそれ以上、何も言いませんでした。

4/8
部屋を訪れた佳澄は、いつも、陸に除霊に関する話を聞きたがります。
陸はそれに応え、自分の体験談を話します。

陸は、佳澄に話をしていると自分もそれに熱中してしまい、時間が経つのも忘れてしまうことがしばしばありました。

佳澄が陸に聞きます。
危険な目にあったことはある?
陸が答えます。
何度かあるよ。自分は特別霊感が強い、という訳でも無いから。

でも、今まで無事にやってこられたのでしょう?と佳澄。
うちには便利な、とても良い道具がたくさんあるからね、と答える陸。

まぁ、そういった物に頼り過ぎるのって、あまり良くないけどね…。
陸は付け加えて、そう言います。
そして、道具に頼ってしまう自分の弱さを、知らぬ間に吐露するのでした。

佳澄は何も言わず、それを聞いていました。

5/8
佳澄が家に来るようになってしばらく経った、ある日のこと。

部屋に来た佳澄は、陸に除霊の依頼をします。
それは、陸も聞いたことのある場所での除霊でした。
普段はあまり有名となった場所には行かない陸でしたが、何となく佳澄のお願いを断ることができず、除霊に行くことを決めました。

そして陸は、人里離れた田舎の一軒家へとやってきました。

噂通り、そこには悪霊が棲みついているようでした。
しかし噂になると言う事は、それに遭遇して無事に帰ってきた人が多々いる、
と考えていたので、陸はそれ程恐れてはいませんでした。

実際には生きて帰った者は一人もおらず、
その噂を流していたのは依頼をした佳澄本人であることを、陸は知る由もありませんでした。

陸は入口からその家に入ります。
表札を見ると、そこには[寺坂]と書かれていました。

6/8
家に入ると、陸は自分の霊感に頼り、真っ直ぐに奥の部屋を目指します。
そして、そこに棲む悪霊と対峙します。

そこで陸は気付きます。その霊が、とても強力なものであることに。
それは、ただ人の命を奪うことだけが目的の悪霊でした。
何故こんなものが…?と思うと同時に、それは陸に襲い掛かってきました。

陸は焦る気持ちを抑え、持っている道具入れから霊符を取り出し、いつも通り落ち着いて対処しようとします。

…が。

取り出した霊符を見た陸は愕然とします。
霊符に書かれた呪言が、真っ赤な×印で塗り潰されていたのでした。

襲い掛かってくる霊を何とか避けつつ、陸は他の道具を調べます。
しかし、持っている全ての道具が、真っ赤に封殺されていました。

直前に道具の確認をしたときは、こんなことにはなっていませんでした。
一体これは…と、その理由を深く考える間も無く、陸は霊に捕まってしまいます。

陸にとって、霊に直接触れられるのは初めてのことでした。
魂を掴まれる感覚。恐ろしく冷たい手で、身体の奥深くを鷲掴みにされるようなその不快な感覚に、陸は絶望を感じます。

7/8
陸は、死を覚悟しました。
いつかこういう時が来るであろうことは、分かっていました。
そしてこうなってしまっては、本当は非力な自分には何もできないことがよく分かっていました。

しかし、そこから起きたことは、陸の覚悟を超えたものでした。
その霊は、陸の命を奪うだけでなく、その魂の中に侵入してきたのです。

自分の内側から、自分では無くなっていく…別のものが自分を支配していくその感覚に、陸は叫び声をあげます。
自分の全てが奪われることに、恐怖を感じます。
死後の事は陸にも分かりませんが、生きて積み上げてきたものが全て奪われてしまう、
自分のものが全て無くなってしまう、魂としての存在すら失ってしまう…
完全に死ぬこともできない。それが陸にとっては、とてつもない恐怖でした。

しかし助けを求める声はどこにも届きません。
自分の変容にただ震え、怯え…やがて叫び声も途絶え、
最後には、それでも辛うじて最後には、いつか消えるであろう、
自分が何者かも分からない、ほんの微かな意識がそこに残ったのでした。

8/8
その数日後――

陸の家に佳澄が訪ねてきました。
夏美は、陸と連絡が取れなくなったことを佳澄に伝えます。
陸は、行き先を誰にも言っていませんでした。

多分、そのうちひょっこり帰ってくると思うけど。と、夏美は言います。
そう…。心配ね、お兄さんのこと…。と、佳澄。

陸のことを一緒に心配してくれる彼女に、夏美は思い切って聞いてみます。
兄のこと、どう思っていますか?
すると佳澄は少し悩むような素振りを見せてから、こう答えました。

私、陸さんのこと、好きよ。

夏美は満面の笑みで言います。
兄が聞いたら、きっと飛んで喜びますよ、と。

そうだと良いな。と、佳澄は言いました。

それじゃ、またね。
はい、また来てくださいね。
と言って、お互いに手を振り、佳澄は帰っていきます。

夏美に背を向け、去っていく佳澄。
その顔には、この世のものとは思えない邪悪な笑みが浮かんでいました。
怖いサイト.com
ベストヒットナビ
感想・雑談はコチラ
もっと探す@AB
[戻る]
- mono space -