短剣@

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兄の行方が分からなくなってから、2週間。
今まで4、5日なら連絡が無いこともあったが、流石にこれは長すぎる。
どうしようもなく嫌な胸騒ぎと、それについて何も言わない祖母の態度。
それに佳澄さんのこと。兄にとってはきっと良い知らせなのに、それが伝えられないもどかしさ。
それらが相まって、私はもう居ても立ってもいられなくなり、兄を探して駆け回る毎日が続いた。

祖母は危険だから止めなさい、と言う。
そんな祖母に、私はどうしても反発してしまう。
何で?大切な家族なのに?どうして何もしないで居られるの?
八つ当たり気味に言葉をぶつけると、祖母は悲しそうな顔をして黙ってしまう。

きっと分かっているのだろう。兄が、もう既に…ということを。
でも私にそれをハッキリと言えないのだろう。
そこまで分かっていて、それでも祖母に当たってしまう。
もういい年なのに、悪い子だな…私って。

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兄の捜索を続けていた、そんなある日。
何か手掛かりが無いかと兄の部屋を物色していた私は、ちょっとしたメモ書きを見つける。
少し汚れたその紙。そこには兄の特徴的な字で、[神乃木産婦人科病院 ××市△△――]と、病院名と住所が書いてあった。

産婦人科…と見て、私は少し顔が赤くなる。
いやいや、あの兄に限ってそんな。付き合っている人なんて居たっけ…?まさか佳澄さん…?
と、一通り妄想してから気付く。あれ、この病院名、どこかで…

――兄は常々、私に色々なことを教えてくれた。
兄が父親代わりだった私は、それを素直に聞いていた。…ん、まぁ鬱陶しく思った時期もあったけど。
その中で、ここは危険だから行ってはいけないよ、と言われていた所が幾つかある。
大抵、私が忘れないようにか、そこに関係する怖い話と一緒に教えてくれたものだ。
その内の1つに、こんな病院名があった気がする。
確か、何か…すごく「よくないこと」が起きた、今はもう廃墟となっている病院。
その内容は詳しく話してくれなかったので、逆に印象が強かったところだ。

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その病院の住所が書かれたメモ。私はそこに何かを感じる。
これは…そうだ。きっと、兄はここに行ったんだ。
そうと分かれば…!

私はすぐに出掛ける支度をする。
住所の場所の検討は付く。おそらく1時間もあれば着くだろう。
危険な場所だということは分かっている。
私は動きやすいジャケットを羽織ると、兄の部屋に置いてある、曰くありげな短剣をお守りとしてポケットに忍ばせ、家を出た。

目的地に着いたのは昼過ぎだった。
暗くなる前に着いたのは良かったと思う。夜の廃病院なんて、怖すぎるからね。

それにしても、何だか変わった所だ。
何と言うか…存在が薄いって言うのかな?
間違いなくそこにあるのに、ちゃんと気を向けないと気付かないかもしれない。
普段なら絶対に近寄らないであろう場所。
でも今は行かないと。兄が居るかも知れない。ひょっとしたら助けを求めているかも知れない。
私は勇気を出して、そこに足を踏み入れた。

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私「お邪魔しまーす…」
普通の建物だったら浮浪者とかの格好のたまり場になりそうだけど、ここは先の理由から、そういった人は近付けないだろう。

誰も居ない病院内を、奥へと進んでいく。
壁はボロボロで窓にはヒビが入っている。廊下のタイルは所々剥がれ、蛍光灯はほとんどが割れている。
ほんとに…暗くなくてよかった。昼間でこの不気味さだ。夜なんか…あぁ、ヤダヤダ。

兄の名前を呼びながら歩いていく。
病室もひとつひとつチェックしながら進んでいくが、誰もいる気配がない。
うーん…ここじゃなかったのかな…、と思い始めたとき、廊下の先で何か動くのが見えた。
私「…誰?」
声を掛けてみるが、返事はない。
私は廊下を駆け、何かが見えたところまで行く。
私「あれ…」
誰も居ない。近くの病室も見てみるが、人の気配はない。
何だ、気のせい…
と思いきや、背後に気配を感じて振り向く。

そこには、小さな女の子が立っていた。

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私「あ…?えーっと…」
こんなところに女の子がいる…ここで遊んでいたのかな?
私「ねぇ、ここで何をしているの?他に誰か居るの?」
女の子に聞いてみる。
が、返事は無く、ただこちらをジッと見つめてくるだけだ。

女の子は真っ白なワンピースを着て、クマのヌイグルミを大事そうに抱えている。
目鼻立ちの整ったすごく綺麗な顔をしており、これは間違いなく将来有望だろうな…などと思っていると、小さな声でこう言ってきた。
女の子「ここに来ちゃ…ダメだよ…」
私「…え?」

女の子はそれだけ言うと、出口に向かって駆けていく。
私は追いかけるでもなく、狐につままれたような気分で女の子を見送った。

なんだろう、今の…何だか不思議な感じのする子…

…ま、いっか。

そしてまた奥を目指そうと振り返り、再び驚く。
今度はそこに、佳澄さんが立っていた。

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私「わっ…と、あぁびっくりした…。佳澄さん、ここで何を…?」
佳澄さんはニッコリと笑って答える。
佳澄「私、ここに住んでいるの」

…?あ、冗談…?
佳澄「夏美さんこそ、どうして?」
冗談に答えようとした私に、佳澄さんが問いかけてきた。
私「え、あぁ…えっと…兄を探して…」
佳澄「お兄さんを探して、どうしてここに?」
私の返事にかぶせるようにして聞いてくる。どこか高圧的なものを感じる…

私「兄の部屋でメモを見つけて…ここの住所が書いてあったから、もしかして、と思って…」
佳澄「メモ…」
そう言って遠くを見るような目をする。
佳澄「そう…。お兄さん、私のことを調べていたのかしら」
私「…?」

調べていた、って何だろう…?
佳澄「なかなか抜け目の無い人だったのね、お兄さんって」
私「え?」
佳澄「ここには勝手に来て欲しくないのよね…」
…何を言っているのだろう?

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私「あ、えと…、今、女の子が居ましたよね」
佳澄「…えぇ、そうね」
私「ひょっとして、知り合いの子ですか?」
佳澄「…そうね」
佳澄さんの様子がいつもと違う。何だかすごく、イヤな感じがする…。

佳澄「あの子、私のことが嫌いみたいなのよね」
私「え…?嫌い、ですか…」
佳澄「そ。私のことが信用ならないのでしょうね」
私「…」

…そして妙な間。佳澄さんはじっと私を見つめている。

私「えと、佳澄さんも…兄を探してここに?」
沈黙が嫌だったので質問してみると、佳澄さんは、軽くため息をつく。
佳澄「言ったでしょう?私は、ここに、住んでいるの」
私「え…本当に…?」
佳澄「本当よ。それにね…」
佳澄さんは口の端を吊り上げて言う。
佳澄「あなたのお兄さんを探すなんて意味のないこと、するわけないでしょう?」
私「意味がない…?」
何を言っているのだろう。本当に…佳澄さん?
私は不安に駆られ、知らぬ間に――本能的に、ポケットに入れた短剣を握り締めていた。

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私「意味がないって、どういうこと?」
少しカチンときたので、強い口調で聞いてみる。
佳澄「そのままの意味だけど?」
佳澄さんは悪びれる様子もなく答え、こちらに歩み寄ってくる。
私「そのまま、って…」
そしてゆっくりと目の前まで来て、こう言った。
佳澄「だって、死んだ人を探してどうするの?」

私「死…」
それは…。確かに、そうかも知れないとは思っていたけど…
佳澄「もしかして、夏美さんも死体に興味がある人なの?」
佳澄さんは目の前でクスクス笑いながら、信じられないことを言う。

私「佳澄さん、どうしてそんな…」
私は抗議の声をあげるが、佳澄さんはそれを無視して私の顔に手を伸ばしてきた。
佳澄「夏美さんて、可愛い顔しているわよね…」
そして私の顔に触れてくる。彼女の指はしなやかなで、とても…
佳澄「私のものにしたいな…」

…!!おかしい。絶対おかしい!頭の中に警報が鳴り響く。
私はすぐに彼女の手を払い除け、後ろに下がって距離をおく。
そして握り締めていた短剣を取り出し、両手で持って構えた。

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佳澄「あら…、いいものを持っているのね」
私「佳澄さん、どうしたの?何だかおかしいよ?」
佳澄「私、これが素なのよ。…それにしても――」

佳澄さんは私の護身用の武器を見つめながら言う。
佳澄「兄妹揃ってそんなものに頼って…ダメねぇ」
私「そんなものって…」
私は短剣を持ち直して問いかける。
私「兄のこと、何か知っているの?」

佳澄「えぇ、知っているわよ?…牧村陸、とある一軒家において悪霊に殺される。享年26歳…だったかしら?」
茶化すように佳澄さんが言う。
私「とある…霊に、殺された…?そんな…」
佳澄「そう。自力がないって、やっぱりダメね。裸にして放り込んだら、簡単に死んじゃったわ」
ヤレヤレと言った様子で話している。
私「放り込んだ、って…?」
佳澄「…知りたい?」
私「え…えぇ…。」

佳澄「私、ね…」
彼女は澄ましたような、少し意地悪そうな顔で話し出した。

短剣Aへ続く
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