対峙(前)

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ピンポーン

家のチャイムが鳴る。
「はーい」
私は返事をしてドアを開け、お客を招き入れる。
古乃羽「こんばんはー」
私「ささ、どうぞどうぞ。よく来たねぇ、お嬢さん方」
わざとらしくニヤニヤしての対応。
古乃羽「気持ち悪いって…もう」
私「へっへっへ…」

雨月君と付き合うようになってからも、古乃羽は月1くらいで家に遊びにくる。
借りてきた映画を見たり、あーでもないこーでもないと話をしたりして、2人で朝まで過ごすのが定番。
しかし今日はもう1人呼んでいる。

古乃羽「上がろう、佳澄」
佳澄「うん。お邪魔しまーす」

今日は佳澄も一緒に呼んでみたのだ。

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私「散らかっているけど、気にしちゃダメよ?」
2人を部屋に通しながら言う。まぁ自分なりに掃除はしたつもりだ。
――が。
古乃羽「ハァ…。いつ来ても、もう…」
古乃羽はそう言うと、テキパキと私の部屋の片付けを始める。
どうやら古乃羽様には許せないレベルだったようだ。

私も当然手伝わされ、悪いことに佳澄も一緒に手伝ってくれる。
古乃羽「使ったものはちゃんと元の場所にしまいなさいよ…ねぇ、佳澄」

佳澄「んー…でも、私の家より綺麗よ?」
古乃羽「えーー、ここより散らかっている部屋なんて無いよぉ」
本人の前でサラッとヒドイことを言う。
あ。今、家って言ったけど…
私「佳澄って、家どこだっけ?」
佳澄「××市よ」
私「へぇ、あっちの方かぁ」
微妙に遠い。ここからだと車で1時間半ってとこかな。
家がどこかなんて、これくらいのことを不思議と知らなかった。

佳澄「今度、私の家にも来て欲しいな」
私「行く行く。いつでも呼んでよ」
古乃羽「私もー」

とかなんとか言いながら、私たちは古乃羽指導で部屋の片付けを進める。

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…私の家より綺麗なのは確かだ。だって、廃墟だもの。

初めて美加の家に招待された。
あの女――雨月舞も来る可能性も考えたが、それは無いようだ。
ここに居るのは古乃羽も含めて3人だけ。

そろそろ頃合だ。今日、2人を「私のもの」にする。
2人に…特に古乃羽に異常が起きれば、それが弟の光一を通して舞にも伝わるだろう。
しかしそれで問題はない。
あの女の友人である、この2人。この2つの駒があれば何とでもなるだろう。
物言わぬ人形にしてしまえば扱いやすい。
何なら光一も引き込めば良い。古乃羽を使えばそれも可能だろう。

美加「んじゃー、ご飯の準備しよっかー」
やがて部屋の片付けも終わり、美加は台所へ向かった。
古乃羽「そだね。佳澄はここでお野菜切ってくれる?」
私「うん」
そう言って古乃羽も台所へ行く。

さて、と。
2人に外傷は付けたくない。綺麗なままが良い。
となると手荒な事は避け、眠らせて私の家まで連れて行くのが一番だろう。
私は持ってきた小瓶を確認する。この睡眠薬の効き目は実験済みだ。

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台所から2人の話し声が聞こえる。
話題は古乃羽の料理の腕前のこと。いい奥さんになる、雨月君が羨ましい、などなど。
時折、こちらにいる私にも話しかけてくる。
仲間はずれにならないように、自然と気を使っているのかもしれない。

まぁ、よくできた方たちだこと。
2人に対する欲求が高まる。すぐに私のものに――

と、そう思った瞬間。私は刺すような視線を感じる。

背後からだ。誰が?美加と古乃羽ではない。他には誰も居ないはずなのに?
この、私を咎めるような視線。動きを止めようとする邪魔な視線。
この主は…?
私はゆっくり振り向く。

しかし、やはりそこには誰も居ない。

…いや。

居た。
そういうこと…。その視線の正体を知り、私は軽い衝撃を受ける。

背後にあった棚の上。
そこには、見覚えのあるクマのヌイグルミが置いてあった。

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優理…。

まったく、厄介なものを。
あの子がずっと…確か20年以上も持っていたものだ。
なるほど。そこらのものとは比べ物にならないほど、強力なお守りと言えるだろう。

これは、今すぐに処分しなければ。
私の行動を邪魔することは目に見えている。
優理の意思がそこにあるとは思えないが、これは持ち主を――美加を守ろうとするだろう。
現に今でさえ、私の意識を混乱させようとしている。

私は意識を集中させて立ち上がる。
…古乃羽が私の名前を呼んでいる。佳澄、どう?
私「うん、もうちょっとで終わるー」
優理。今までで唯1人、私の思い通りにできなかった子。しかしもう、邪魔はさせない。

棚の前に立ってそれと対峙する。
本来は可愛らしく見えるであろうヌイグルミだが、私にとっては憎らしいだけのものだ。
私は邪魔者を封殺するために手を伸ばす…が、そこであるものに気付き、手を止める。

…針だ。私が手を近付けると、それに呼応するように針が出てきている。
ただの針では無いだろう。優理は呪いの業を持っていた。
厄介事はできるだけ避けたいのに…まったく、イライラさせる…!

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古乃羽が再び私に呼びかけてくる。
あぁ、うるさいな。
私「うん、平気ー、もう少しー」

手早く済ませよう。
優理の呪いは強力なものだったが、それもあの子が存在していたときの話だ。
消滅した今では、それほど恐れるものでもない。…それにこの際、多少のことは構わない。

私はヌイグルミを両手で掴む。
手に針が刺さる感覚。だが私からは血も流れず、痛みも感じない。
このまま黙らせよう。
目を閉じて、永遠に沈黙を――

古乃羽「佳澄、こっち終わったから手伝おうかー?」

古乃羽が台所から出てくる。
しかし関係ない。彼女の目には、私はただの…

古乃羽「…佳澄?」
古乃羽の動きが止まる気配。

…!?

不穏な空気を感じ、私は気付く。優理が、このヌイグルミが私にしたことに。

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解けている。
古乃羽の目から見えないよう、自身に施していたカモフラージュが、解けている。

呪いに掛かるのなら別に構わないと思っていたが、まさかこう来るとは予想外だった。
優理がそこまで考えていたのかどうか分からないけど、見事にやられた。

古乃羽「佳澄…」
古乃羽が戸惑っている。それもそうだろうな。今の今までただの「佳澄」だった私が…

古乃羽「佳澄。こっちを向いてくれる?」
意を決したような声で古乃羽が言う。私をしっかりと正面から見たいのだろう。なかなか勇気があるじゃない。
私「…このヌイグルミ、可愛いわね」
そう言って、立派に勤めを果たしたヌイグルミを撫でてあげる。本当はその首を捻じ切ってやりたいところだ。

古乃羽「佳澄!」
語気が強まる。古乃羽のこんな声は初めて聞く。
美加「古乃羽、どうしたのー?」
美加も何かに気付いたようだ。

まったく、仕方ない…。
私「古乃羽、そんな怖い声出さないでよ」
私はゆっくりと振り向いてあげた。

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古乃羽が息を呑む。
古乃羽「佳澄、あなた…!」

その瞬間、私は「手」を伸ばし、古乃羽の意識を刈り取る。一瞬全身を震わせ、崩れ落ちる古乃羽。

美加「古乃羽!」
間髪入れず、台所から出てきた美加の首を掴み、床に叩きつける。
美加「く…ぅ…」
ちょっと強すぎたかも知れないが、構わない。美加は頑丈そうだし。取り敢えず2人とも気を失ってくれれば良い。

私「まったく…。優理、あなたのせいよ?こんな手荒なことになったのは」
ヌイグルミを睨んで、ひとりごちる。

さて。当初の予定とは違えど、2人の意識を失わせることはできた。車を呼んで運んでもらうかな。
私は携帯を取り出し、電話を――

…?どこからか声が聞こえてくる。
声「もしもし…?もしもし…?」

小さな声。美加が倒れている方からだ。
見ると、彼女の手元に携帯が落ちている。あの携帯からだ。
私はある種の確信を持ってそれを取り上げ、発信先を見て、その声の主を知る。

…予想通り。

そこには「雨月舞」と表示されていた。
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