対峙(中)

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美加…。

古乃羽からの異常を察して、すぐに電話したのだろう。
霊感の有無は関係なく、彼女には注意しなければと思っていたが、やはり…。

舞「もしもし…美加さん?もしもし…」

さて、どうする?
このまま切る?
いや。それではつまらない。彼女のことを知るチャンスでもある。少し遊んでみるかな。

私「あ、あの…」
美加の携帯で、私は普段の口調で答える。
私「あ、すみません。えっと、美加の携帯触っていて…そうしたら掛かってしまって。あの、ごめんなさい」
舞「……」
私「えっと、あの、すぐ切りますね。本当にごめんなさい」
舞「美加さんに代わってくれる?」

私「えっと、美加、ちょっと今ここに居ないので…。その間に触っていて、なので」
舞「そう…」

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私「はい。あの、ごめんなさい。それでは…」
舞「待って」
私「…はい?」
しつこいな。

舞「あなた、お名前は何ていうの?」
私「私?えっと…佳澄、です」
私の名前は知っているかな?弟から聞いている?いや、知らないだろうな。

舞「そう、佳澄さん…」
私「はい」
説教でもするつもり?面倒な人ね。

舞「残念だけど、あなたの異常さは、電話越しでも分かるわ」

……
なんだ。ダメか。
私「あら…。やっぱり、分かっちゃった?」
舞「どんだけ取り繕っても、隠せないものはあるわよ」

まぁそうだろうな。私の思い描いていた相手なら、隠し通すのは無理だろうと思っていた。買い被りではなかった訳だ。

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私「では、改めまして…こんばんは、舞さん」
舞「こんばんは、佳澄さん」
さて、どれだけ探れるかな?

私「まさかこんな形で話すことになるなんて、思ってなかったな」
舞「そう…。2人は無事なの?」

2人。美加と古乃羽のことだろう。
でも私は、今ここに古乃羽も居るとは言っていない。
カマを掛けている? これは隠すべき?
…いや、隠す意味も無いか。どうせすぐに分かることだろう。

私「もちろん。ちょっと気を失っているだけよ。"まだ"何もしてないわ」
そう言いながら向こうの気配を探る。
…静かだ。外では無い。どこかの建物の中。誰の声も、気配もしない。
1人で居る。時刻は20時前…十中八九、家の自室だろう。

舞「何が目的なの?」
私「目的、ねぇ…」

もし彼女が今からここに向かうとして?
雨月家の住所は知っている。ここまで車で20分…いや、急げば15分。
でも彼女は免許を持っていない。それは分かっている。こんな所であの情報が訳に立つとはね。
と、なると…?

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私「私ね、欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れるタイプなの」

私はテーブルの上に置いてあった古乃羽の携帯を手に取る。
マナーモードに変えてから、メールを打つ。宛先は雨月光一。
メールの内容は、「今、どこにいる?」

私「それと、自分の邪魔をする人は、決して許さないわ」
舞「つまり2人が欲しいのね。それで、邪魔者っていうのは私のことかしら?」
私「えぇ、そう。ハッキリ言って、物凄く、邪魔よ」

すぐにメールの返事がくる。さすが彼氏さん。
「家に居るけど、どうかした?」

家か。舞に"足"はある訳だ。
15分。私が今から車を呼んで2人を運び出す時間は…10分も掛からないだろう。私の"足"はすぐ近くに待機している。

舞「随分と嫌われているのね…」
私「それはそうよ。思い当たること、あるでしょ?」

舞が動き出すのを確認してからでも遅くは無い。
今はまだ…こちらのカードが完全に揃うまでは、会うのは避けたい。用心するに越したことは無い相手だ。それは認めざるを得ない。

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しかし、妙だな。

舞「何か気に障ることしたかしら?まだ会ったことも無いのに」
向こうには動く気配が一切無い。
部屋から出るような音も、弟を呼ぶこともしない。ただ部屋に居座ったまま、普通に電話をしているだけだ。

私「どこで恨みを買うかなんて、分からないものよ?」
助けに来ることを諦めているのだろうか?
…いや、それは無いだろう。
2人を連れ出すタイミングで連絡がいってしまったのは、こちらにとって不測の事態だ。
それは分かっているはず。向こうにとってはギリギリで巡ってきたチャンスと言える。
それに、諦めること=2人の死だから、そんな簡単に――

…まさか?

舞「勝手な言い分ね。そんなに自己中心的な考えをしていたら、ダメよ?」

こちらの機嫌を損ねるようなことを平気で言う。
この状態で普通、言うだろうか?友人の命が掛かっているのに。
この余裕は、やはり…

私「ひどいな、そんな。古乃羽に何かあったら、弟さんも悲しむんじゃない?」
舞「…」
私「彼女の自慢の目でも抉り取って、弟さん宛で送り届けてあげましょうか?」

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弟を使って軽く挑発をしてみる。
舞「悪趣味なのね」
私「2人とも可哀想だな…。お姉さんのこと、大好きだって言っていたのに」
舞「…それはあなたが言うことではないわ」

攻撃的だ。こちらを説得しようなんて、欠片も思っていない。
私「そう、確かにね」
舞「それにね…佳澄さん」
私「何?」

舞「光一もその2人も、私のものなの。…この意味が分かるかしら?」

私「へぇ…」

やはりそうだ。彼女は…
私「なるほどね…。すごくよく分かるわ」
私と、同じだ。
そしてこの言い分。それは1つの事実を意味する。間違いなく、腹立たしい事実を。

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私「…今日はもう、これでいいわ。話疲れちゃった」
舞「……」
私「また今度。そのうち、会うことになるでしょうね」
舞「そうね…」
私「じゃあそのときまでね。さようなら、舞さん」
舞「さようなら、佳澄さん」
そう言って私は電話を切った。

ヤレヤレといった感じで部屋を見渡す。
美加と古乃羽は気を失い、倒れたままだ。
私はしばらくそこで考え、自分に問う。

…答えは「No」。

ありえない。冗談じゃないわ…。

私は自分の携帯を取り出し、車を呼んだ。

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――20時ちょっと過ぎ。

古乃羽からのメールに返信してから、しばらく待つがなかなか返事が無い。
うーん、一体何だったのやら。確か、神尾さんの家に行くって言ってたけど…。
ちょっと電話してみるか、と思ったところで、ドアがノックされた。

舞「光一、ちょっといい?」
姉だ。
俺「んー、何?」
ドアを開けると、出掛ける準備をした姉が立っていた。

俺「あ、どこか行くの?」
舞「車を出してくれない?美加さんの家まで行きたいの」
俺「あぁ、呼ばれた?確か古乃羽も行ってるよ」
舞「そうみたいね」
俺「着替えるから、ちょっと待ってて」
俺は部屋着から着替え、出掛ける準備をする。

免許を持っていない姉は、俺に時々車を出してくれるようにお願いしてくる。
「とある高速道のトンネルに行きたい」とかいう謎の目的地を言うこともあるが、
運転は好きだし、何しろ姉のお願いなので、断ったことは一度もない。…はずだ。

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簡単な準備を済ませ、姉を乗せて家を出る。
ここから神尾さんの家まで、この時間なら15分もあれば着くだろう。
以前行ったときは電車と歩きだったが、道は分かっている。

俺「さっき古乃羽から、どこにいる?ってメール来てさ」
運転しながら姉に話しかける。
舞「何時頃…?」
俺「ついさっきだよ。10分くらい前かな?で、家に居るよ、って返事したのだけど、このためだったのかな?車を出せるかって」
舞「そう…かもね」
ん。なんか様子が変?

俺「具合、悪いとか無い?」
舞「ん?平気よ」
俺「そう…。何か元気ないように見えたからさ」
舞「…少し考え事をしていただけ」
俺「ならいいけど」
舞「光一もお母さんと一緒で、心配性ね」
姉はそう言って窓の外に顔を向ける。ちょっとふくれたかな?
そりゃまぁ、過度に心配されるのは嫌かもしれないけどさ。

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やがて神尾さんの住んでいるマンションの前に着く。
俺「ここだよ。ここの303号室。帰りはどうする?迎えに来ようか?」
舞「そうね…ちょっと待ってね」
姉は車から降りず、目を閉じる。
…なんだ?やっぱり、具合悪いのかな?
そう思って声を掛けようとすると、姉はすぐに目を開けてこう言った。

舞「…光一も来て」
俺「え…俺も?」
舞「そう。車置くところ、あるかしら?」
俺「あぁ、それはあっちにあるけど…良いのかなぁ。だって、女の子だけでしょ?」
舞「緊張する?」
俺「いや、しないけどさ…」
舞「…何か変なこと考えている?」
俺「んなっ…」
舞「冗談よ。車置いてきてね。ここで待っているから」
そう言って降りる姉。
俺は大人しく車を置いてから戻り、一緒に部屋に向かった。

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神尾さんの部屋に向かいながら考える。
姉があんな冗談を言うのは珍しい。いや、初めてかもしれない…?
やっぱり、ちょっと様子がおかしい気がするなぁ…と、何となく顔を見てみると、向こうもこちらを見ていたようで、目が合った。

俺「ん、何?」
歩きを緩めて、聞かれる前に聞く。
舞「…」
しかし姉は何も言わずに視線を逸らす。やっぱり変だ。具合が悪いなら、無理にでも連れて帰らないといけない。
俺「あのさ…」
舞「光一」
思ったことを言い出そうとしたところで、言葉を被せてきた。
俺「何?」

舞「何かあったら…ごめんね」

俺「…?」
何かって…何?
舞「早く行きましょ」
そう言って少し早足になり、先に歩いていく。
頭の中にハテナが一杯になったが、俺もそれに続いた。
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