夢の記憶

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夢を見る…。

よく同じ夢を見る。
女の人が泣いている夢。
顔は分からないけど、その声や仕草で女性と分かる。年の頃は二十歳くらいか。
大人がメソメソと泣いて…みっともない。

傍に男が居る。
泣いている原因はこの男だろうと想像できる。
女に何かを言っている。
決して慰めている訳ではない。威圧的に、嘲るように、悪意を持って何かを言っている。

女も何かを言い返すが、男はまったく動じない。
むしろそれを楽しんでいるかのように見える。

見える…。見える…?
そこに居るけどそこに居ない私は、どこからこれを見ているのだろう?

やがて2人の姿が消える。…いつもここまでだ。
この先を見ることはできず、全てが闇に包まれ、大きな波が訪れ…
時を告げる音と共に、私は目を覚ます。

2/10
名前に意味はない。

私は初めからここに居る。
いつ自我に目覚めたのか?その瞬間を覚えている人間なんて居ないだろう。
私は目覚めた時からここに居て、この姿を持っていた。
一般常識といえる知識と…呪いや占い、霊に関してのたくさんの知識を持っていた。
そして鏡を見たとき、自分を美しいとも思った。
自分を完全な存在だと思った。

…でも、名前だけが無かった。

私はこの中を歩き回り、名前を探した。
そしてふと、床に落ちていた1つの名札を見つけた。
そこにはこう書かれていた。

「白谷佳澄」

これを私の名とした。

3/10
私の持つ価値観。

それが他人とは大きくかけ離れていることは、よく分かっている。
人は全て、物。その思考・感情には何の意味もない。
それが正しいとか間違っているとか、そんなことはどうでも良い。
きっとこれこそが、私の存在理由だから。

…時計の音で目が覚めたものの、今日はこれと言ってすることが思いつかない。
もう、美加や古乃羽の傍にいる必要も無くなった。
私のものにして、大切に可愛がってあげようと思ったのに…。

既に他人が愛でた物。ましてや、あの女が唾をつけてから捨てたものなんて、冗談じゃない。
壊してやろうかとも思ったが、何だか虚しくなってやめてしまった。

あぁ…今日はもういいや。
また眠ろう…。
ひょっとしたら、今日こそ夢の続きが見られるかもしれない…。

そう願い、私は再び目を閉じた。

4/10
夢を見る…。

よく同じ夢を見る。
あの日のこと。
頭から冷水を浴びたような衝撃。激しい怒りに身を震わせた日。
夫を失うことになり、結果として他の大切なものも失うことになった、あの日。

あれからもう何年も経つのに、いまだに夢に見る。
最近は物忘れも多くなったというのに、これだけは忘れらない。

「全ての罪を被る」

そう言われても、残された私たちから罪の意識が消える訳でもない。

陸は、上手く折り合いが付くようにしてくれた。
少しでも世のために働くことで償いになるだろうと、除霊を行うように提案をしてきた。
ならばと思い、私たちはそれを行っていたのだが…それで陸が命を落とすことになってしまった。

5/10
予感はしていたのだ。
陸の中には、どこかしら死を望むようなところがあったから…。

今は、舞が除霊を手伝ってくれている。
私はそこにも一抹の不安を感じてしまう。
彼女も陸と同じように、死を望んではいまいか、と。

舞が何を考えているかなんて、私には到底分からない。
そもそも彼女は、誰かに心を開くことがあるのだろうか?
家族ならあるのかも知れないが、他人にはどうなのだろう。

彼女はとても魅力的だ。女の私でもそう感じる。
陸が生きていれば、お嫁に…なんて思ってしまう。
まぁ、陸には勿体なくて釣り合わない気もするが。

舞には幸せになって欲しいと思う。
私の家族は、ことごとく不幸な道を辿った。
彼女を家族と呼ぶのはおこがましいが、幸せな道を歩んで欲しいと切に願う…。

6/10
夢を見る…。

よく同じ夢を見る。

…って、違うか。
今の私には寝る習慣が無いから、これは一般に言う「夢」ではないのだろう。
物思いに耽っていると、どこからかやってくる記憶だ。
捕らえようとすると遠ざかってしまう記憶。漠然としか捕らえられない記憶。

以前から見ることはあったが、あの病院に行って…あの手形を見てから、頻度が上がった。
そのお陰で、段々と内容が分かってきた。

部屋の中。小さい女の子が人形で遊んでいる。
この女の子は…私だ。これは間違いない。
お勉強をさせたり、着替えをさせたり。
お行儀が悪いと言って叱り付けたりもしている。

7/10
誰かが私を呼ぶ声がする。
でも私はまだ遊んでいたい。
遊んでいたいが…呼んでいる人の言うこともきかないといけない。

私は返事をしつつも、玩具の櫛で人形の髪をとかしている。
優しく声を掛けながら、そうやって遊んでいる。

しかしやがて、私を呼ぶ声が大きくなる。
あまりに来ないので、怒っているのかもしれない。

怒られるのは嫌だ。
普段は優しいけど、怒ると怖いもの。…は。
……
ここは思い出せない…。

仕方が無いので、私は行くことにする。
きっと夕飯の時間とか、そんなことだろう。

8/10
私は立ち上がるが、人形は連れて行けないので置いていく。

私はその子に言う。
帰ってきたらご飯にしますからね。
良い子でお留守番しているのよ?

私は行く。
その子は1人でお留守番だ。

でもその子は文句1つ言わない。良い子で待ち続ける。
黒いボタンでできた目で、おめかしをした格好のまま、私が帰って来るのを…迎えに来るのを、待ち続ける。

私は急いで戻り、その子を安心させてあげるのだ。
そしてご飯を食べさせてあげる。
その子の好きなものを食べさせてあげる。
美味しいデザートもつけて…。
寝るときも一緒に…。

9/10
そうして記憶の波が去る。

私はこうなると、いつも悲しい気分になってしまう。
初めて記憶の断片を掴んだときは、我知らず涙を流していた。

きっと、私にもそんな時代があったこと、それを思い出せないこと、
そしてもしかしたら、どこかであの子がずっと待っているかもしれない…、そう考えてしまうから。

……そんなことを思いながら、街を歩く。
1つの目的を持って。

やはり私は行かないといけない。もう一度、あの病院に。
とても嫌な場所だったけど、あそこに何かがあるのは間違いない。

もちろん以前決めたように、1人で行く気はない。
そこにあるものに縛られ、飲み込まれてしまったら、私はきっと…。
せっかく手に入れた自由を、手放すのは嫌だ。

誰か一緒に行ってくれる人は居ないかなぁ…と考えると、やはりあの人。舞と名乗っていた、あの女の人。
あの人と行ければ良いのだけど…如何せん、どこにいるやら分からない。
うーん、連絡先でも聞いておけば良かったな。ちょっと後悔だ。

でも仕方ない。他にも頼りになりそうな、私を見ることができる人は居るはずよ。
もっとも、死相が浮かんでいたらアウトだけどね。

10/10
彷徨いながら、力になってくれそうな人を探す。
…これって、幽霊がする典型的なことかな。
成仏するために願いを叶えてくれそうな人を探して、取り憑くなんて。
迷惑がられたら止めよう、うん。無理に取り憑くのは悪い霊のすることだ。

できればカッコイイ男の人で…思わず私に惚れちゃうとか。
最後には悲しい別れが待っているかも知れないけど、そんな映画みたいな展開も悪くない気がする。

そんなことを考えているうちに、私はとある駅に着いた。
あの病院の最寄り駅と言えるこの場所。ここは人の出入りが多い。
…よし、決めた。
私は近くのベンチに腰を下ろす。

ここで待とう。運命の人が現れるのを。
あの子みたいに、私も待ち続けよう。

いつか…
いつか、きっと帰るから。迎えに行くから。
それまで良い子にしていなさいね?

私の、大切な…。
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