探索(前)A

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俺「誰かの手形…かな?」
舞「…」

無言のまま、それに近付いていく姉。
何だろう、あれは…。
分からない。分からないけど、明らかに不自然なものだ。
俺「気を付けて…」
姉は壁の前に立つと、しばらくそれを観察する。
後ろからなので顔の表情は見えないが、小首を傾げて何か考えているようだ。

やがて姉はゆっくりと片手を上げると、その手形に手を伸ばす。
俺はそれをジッと見守り、何が起きても対処できるように身構える。
そして姉の手がそこに触れ――

その瞬間、俺は凄まじい突風に襲われる。
前方のその壁から、熱く、血生臭い風が強烈に吹き付けてきて、俺は反射的に腕を上げ、顔を覆う。
その風に乗せて、叫び声が聞こえる。1つではない。複数の叫び声。言葉の意味など無い、絶望に満ちた多くの人間の叫び声。
俺は不快な風に包まれ、歯を食いしばってそれに耐――

――と。
唐突に風が止む。耳元で聞こえていた叫び声も一瞬で消え去る。

俺は恐る恐る顔を上げると、辺りは薄暗く、見上げると星空が見える。
これは一体…?まだ昼過ぎだったはずだ。しかも、ここはどこだ?俺は病院に居たのに…?

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…ふと、俺は手に何かを握っていることに気付く。

鉄の棒だ。
しかもただの棒じゃない。折れて先が尖っている。
いや…、それだけじゃない。それは赤黒く染まっている。何故かそれが人の血だと分かる。
いつの間にか、俺の身体も血に汚れている。
誰の…?
分からない。ただ、大勢の人のものだと分かる。
そして、深い…悲しみを感じる。例えようのない、深い悲しみ。
これは何だろう…この感情は誰のもの…?

辺りからは、パチパチと物が焼ける音がする。
暗闇に浮かぶ炎。焦げた臭い…血、肉の焼ける…

…そうだ。
これは…幻だ。分かっている。こんなもの、ここにはない。
ここは病院内で、俺が見ているこれは現実ではない。
でも、これは…どこかで見たような気がする?どこかで俺は、この光景を…

…見ている!これはあの高速道の…?なぜ?これは…?

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舞「光一!」
姉の声にハッとする。
見ると、姉は既に壁から手を離している。
俺「あれ…?俺、今…」
舞「分かっているわ。見たのでしょう?」
俺「あ、あぁ…。姉貴も?」
舞「…」

姉は答えず、少し首を傾げて考え込む。
俺も一緒に考える。ほんの一瞬だったが、今のは何だったのだろう…何であの時の?でも、少し違ったような…?

舞「ここから出ましょう」
俺「え?あぁ」
それは大賛成だ。何だかここは嫌だ。
俺たちはすぐに出口へと向かう。

舞「佳澄さんには、まだ会うべきじゃないわ」
俺「まだ?…何か分かった?」
舞「少しね。まずはそれをハッキリさせないと」
俺「ふむ…」

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外に出て車に乗ると、姉は行ってほしい場所があると言う。
舞「道は教えるから、お願い」
俺「おっけい。お安い御用で」

車を発進させ病院から遠ざかると、俺はやっと落ち着いた気分になる。
俺「ふぅ…。何だったのかなぁ、あれ」
舞「見たのは、高速道の?」
俺「うん。でも何か…俺が見たもの以上のものがあったような」
舞「どんな?」
俺「えーっと…声?叫び声とか。そんなの聞いてないのにさ。あと、いつの間にか鉄の棒持ってた。血で汚れたやつ…」
舞「…正確には光一が見たものじゃないからよ。あれは」
俺「あ、違うの?でも…」

舞「他の人の記憶ね。私たちより先に、あの場所にいた人の記憶」
俺「え…?誰?」
舞「夏美さん」

俺「…夏美さんって、誰?」
舞「着いたら分かるわ。私も、そんなに詳しくは知らないの」
俺「ふーむ…」
なにやら色々事情がありそうだ。

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俺「白谷さん、居なかったのかな」
ふと、そんなことを思う。
まだ会うべきじゃない、って言うなら会わずに済んで良かったのだろうけど、今どこに居るのだろう。
舞「…居たわよ」
俺「へ?」

俺「ど、どこに?まさか物陰からジッと見ていたとか…?」
舞「見ていたらタダで帰してはくれなかったでしょうね」
俺「…だよね」
きっとひと悶着…どころじゃないことが起きただろう。

俺「じゃあ、どこに?」
舞「どこかの部屋で…多分、眠っていたと思う」
俺「え…寝てた?」
舞「あの手形に触れて、佳澄さんのことが少し分かって…彼女のイメージが掴めたから、所在を感じ取ることができたわ」
俺「へぇー…」
舞「…信じてないでしょ」
俺「いやいやいや、そんなものかなーっと」
ちょっとふくれる姉。

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舞「とにかく。感じ取った彼女の意識が、何だか不透明でおかしかったから」
俺「寝ているみたいだった、と」
舞「寝ているというより、昏睡に近い感じだったけどね」
俺「ふーん…」
寝ていた、か。うーん、何だろう。何か意外だ。
俺「眠ったりするんだねぇ…何かそういうのは無いものかと思ってたや」
舞「そうね」
俺「あ、やっぱりそう思う?」
舞「寝ていて気付かなかったなんて、何だかね」
拍子抜け、とでも言いたそうだ。無難に事が済んだのだから、良いに越したことはないのだけど。

俺「何か意味があるとか…」
舞「意味って?」
何となく思い付きで言ってみる。
俺「いや、眠る意味だか目的だか…彼女にとってはそれがすごく大切なことだとか」
舞「眠るのが何かのためって考えると…身体を休めるか、夢を見るか…」
俺「実は昼間は眠って、夜に活動を――って朝から大学に居たことあるな。じゃあアレだ。見たい夢でもあったんだ」
舞「…」
俺「…無いね」
舞「…あるかも」
俺「マジ?」
舞「まぁ、分からないわね。でもそういう発想は良いと思うわよ?」
俺「はぁ…そらどうも」
ただの思い付きだったのだが、変に感心されてしまった。

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やがて車は目的地に近付く。
そこは街外れの、少し寂しいような場所だった。
舞「そう、そこ曲がって…そこに車止められるかな」
俺「あぁ、ここね」
コインパークだ。どこにでもあるな、これは。
車を止め、2人で降りる。この駐車代は…まぁ、俺が出すのだろうな。

舞「少し歩いたところよ」
俺「あいよ」

あまり人通りのない道を歩く。こんなところに、何があるのだろう。
良く言えば閑静な住宅街。悪く言えば…ん、言わないでおこう。

舞「ここよ」
と、姉が立ち止まる。そこは…。
俺「…何、ここ」
見るからに怪しい、何かのお店のような家。でも看板も何も無い。
舞「牧村さんのお宅」
俺「はぁ…牧村さん、とな」
知らない名前だ。姉の知り合いか…ま、まさか男とか?

舞「さ、ついてきて」
姉はそう言うと、中に入っていった。
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