探索(後)

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いつものように仏壇に挨拶をし、朝食を済ませる。
そして一応店を開け、本を読みながらのんびりとする。
今日は誰も来る予定は無い。お客も…まぁ、来ないだろう。

…などと思っていたが、15時過ぎになって来客があった。
「こんにちは」

これは…舞の声だ。何の連絡も無しに来るのは珍しい。
私「はいはい」

応対に出るとやはり舞が――と、今日は一緒に見知らぬ男もいる。
私「こんにちは。今日はどうしたね?」
舞「すみません、突然。こちら、弟の光一です」
光一「あ、どうも、はじめまして」

男が挨拶をしてくる。なるほど、弟さんだったか。
私「光一さんね。牧村です。いつも舞さんにはお世話になって…」
光一「あ、いえどうも、こちらこそ…」
やけに低姿勢の弟さんだ。
舞「あの、シズエさん。今日は少しお聞きしたいことがあって」
私「ほぉ。まぁどうぞ、あがってくださいな」

そう言って、2人を奥の座敷に通す。

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舞はいつものように、仏壇の前で手を合わせる。
弟さんの方は…舞は何も説明していないようで、何事かとキョロキョロしている。
私「えっと、光一さんは…舞さんのお手伝いを?」
2人にお茶を出しながら質問する。
光一「え?」
舞「お手伝いと言えばそうですが、車の運転をよく頼みます」
私「あぁ、そう…」
光一「はぁ、そう…です」
何のことかと首を傾げている。ヤレヤレ、これは…

私「舞さん、何も言ってないみたいだね?」
舞「…はい」
光一「?」
やはり1人で背負い込んでいるようだ。これは良くない。
私「話を聞く前にこちらの説明をするけど、いいね?」
舞「…はい」

ここまで弟さんを連れてきたのだ。舞も、自分が普段何をしているのか、それを知られる覚悟はあるのだろう。
私は弟さんに、陸のことも含め、舞が除霊を手伝ってくれるようになった経緯を説明する。

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光一「なるほど…。それで姉貴は、あんな…」
私「ごめんなさいね。舞さんには危ない事をさせてしまって」
弟は何かに合点がいった様子だ。
光一「そういうことをしているのは知っていたけど、そんな理由があったんだね」
舞「…えぇ」

光一「言ってくれればいいのに。古乃羽達だってきっと手伝うって言うよ」
舞「…それはダメよ」
私「直接手伝うのは、私も勧められないね。ただ理解して、力になってあげておくれ」
光一「はい。それはもちろん」
舞「今まで通りで良いの。…分かってね」
光一「あぁ、俺は怖がりだから大丈夫。変に首は突っ込まないよ」
舞「そうね」
光一「いや、少しは頑張れるけど…さ」
舞「いいのよ」

フフッと舞が笑って言う。
頼りなさげな弟と思ったが、どうやらそれだけでもないようだ。
身内とはいえ、舞が心を開いている人が居ることに、私は安心する。

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私「じゃあ、話を聞こうかね。どうしたんだい?」
舞「教えて頂きたいことが、2つほど」
私「なんだい?」

舞「白谷佳澄という人を、ご存知ですか?」

白谷…佳澄?
私「ふーむ…」
白谷は知らないけど…
私「佳澄って名前なら、昔…」
光一「知っているんですか?」
私「あぁ。昔、陸のことを訪ねて来た子が、佳澄って名前だったよ。何回か来ていたみたいだねぇ」
舞「陸さんを…ですか」
私「私は1,2回顔を合わせただけだけど、夏美とも仲が良かったみたいだね」
舞「そうですか…」
私「綺麗な人だったねぇ。どことなく変わった感じはしたけど、その人が何か?」

舞「えぇ…」
光一「彼女、姉貴に恨みがあるみたいなんです」
私「おやまぁ…。恨みとはまた、穏やかじゃないね」

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佳澄。陸を訪ねて来たあの子は、確かそんな名前だった。
私「陸に用事があって来ていたみたいだけど、夏美とウマがあったみたいだったね」
陸をそっちのけで、2人で楽しそうに話をしているのを何度か見ている。
私「確か陸が居なくなった後でも、一回訪ねて来ていたかな…?」
舞「…」

私「しかし恨んでいるとはねぇ。何か逆恨みでもしているのか…」
舞「事情は…色々あると思います」
どうやら、何か思い当たる節があるようだ。そこは触れないでおこう。

私「佳澄って子については、それくらいしか分からないねぇ…。すまないけど」
舞「いえ、十分でした。ありがとうございます」
私「そうかい、良かったよ。で、もう1つあるって?」
舞「はい。…こちらが本題です」
私「なんだい?」
私は軽く促す。
すると舞は一口お茶を飲み、少し間をあけてからこう聞いてきた。

舞「神乃木病院について、知っていることを教えてください」

…!!

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神乃木。
確かにそう言った。聞き違いではない。
いつか人に聞かれることもあるかと思ってはいたが…。
私「まさか、舞さんからその名前を聞くとはねぇ…」
舞「…ご存知ですね?」

――知っていることを教えてください。
知っていますか?では無い。私がそこを知っていることを、分かっているのだ。

私「どこでその名前を?」
舞「…佳澄さんがそこに居ます」
私「え?」

舞「夏美さんは…」
何か言い淀む。
どこまで知っているのだろうか?
神乃木。夏美。この2つのフレーズだけで、私はもう――

舞「率直に言います」
私「…いいよ」

舞「夏美さんは神乃木病院で亡くなっています」

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夫は言った。「全ての罪を被る」と。
あの人のしたことは、許されることでは無いだろう。
どんな事情があるにせよ、夫のしたことは決して許される事ではない。
しかし私たちには止められなかった。それでは、夏美があまりに…

私「そう…。何の因果かね…」
深いため息が出る。どこかで何かが狂ってしまったのか…。
舞「8年前、ですね。神乃木で何かが起きたのは」
私「そうだね…」
私は仏壇に目をやる。8年だ。あの不幸から8年が経つ。
私「夏美はね…可哀想な子だったよ」
舞「…」

私「じゃあ、聞いてもらおうかね」
と言いながら、私は弟さんを見る。すると舞が反応する。
舞「光一、悪いけど外で待っていてくれる?」
光一「…え?あ、あぁ。そうか。そうだね」
私「いや、違うよ、舞さん」
舞「?」
やはり勘違いされてしまった。
私「一緒に聞いてくれる人が居るのが良いんだよ。1人で何でも背負っちゃダメだよ」
舞「…はい。では、お願いします」

そして私は、8年前に起きた事件の話を始めた――。

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――
俺「うーー…」
外に出て伸びをする。時刻は17時を少し回ったところだった。

俺「これからどうする?」
舞「そうね…」
姉はいつもの癖で、小首を傾げて考える。
しかし答えは分かっていた。
あの病院に、もう一度行かなければならない。今度は夏美さんって人を連れて。

そして…話すべきだろうか?
今聞いた話を、夏美さんに思い出させる必要はあるのだろうか。
不幸な話…彼女の身に、彼女の家族に起きた話を。

俺「夏美さんには、言う必要あるのかな…」
車まで歩きながら、姉に聞いてみる。
舞「言わないで良いと思う?」
俺「うん…だってさ、辛い過去なら忘れていても良いんじゃない?」
舞「それは、私たちが勝手に決めることじゃないわ」
俺「まぁ、そうだけどさ…」
こういうことに関して、姉はちょっと厳しいところがある。

舞「そこから話を始めないと、何も解決しないしね。…佳澄さんのことも」
俺「彼女も関係してる?夏美さんと神乃木とのことだけじゃ?」
舞「2人に会えば分かるわ」
俺「そっか…」
俺にはどうも良く分からない…いや、分かりたくないだけな気もするが。

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車まで着き、乗り込む。
舞「行きましょう」
俺「あぁ。夏美さんを探さないとね」
舞「居場所の検討はついているわ」
俺「あら…すごいなぁ」
舞「病院の傍の、人通りの多いところよ。後は…イメージすれば、ね」
俺「へぇ…あの近くなんだ」
舞「私と会った後、夏美さんも一度病院に行っているわ。それで分かっているはずよ。あの場所が、重要な場所だって」
俺「ふむふむ」

舞「だから、必ずもう一度行こうとするはずよ。できれば誰かを連れてね」
俺「誰かって?」
舞「力になってくれそうな人、かな?」
俺「へぇー…」
舞「…」
俺「ん、あぁ、信じてるって。ホントホント」
また信じてないでしょ、という顔をされ、慌てて弁解する。

舞「行けば分かるわよ、ほら」
俺「あぁ」
そう言って俺は車を出した。

…少し怒らせたのが原因か、予想通り、駐車代は俺持ちだった。
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