人形(前)

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いつもと同じ夢。

女の人が泣いている。その傍で、男が嘲笑っている。

…憎い。私は、この男が憎い。
その女の人を虐めていることが許せない。

死んでしまえ。貴様など、死んでしまえ…!

夢の中でそう願う。強く、そう念じる。
すると男が苦悶の表情を浮かべ、膝をつき、倒れ…やがて姿が消える。

やった…やった!
もう大丈夫。もう泣かないで。あなたを傷付けていた男は、私が消してやった。
俯いて泣いている女に声を掛ける。

すると…その女が、ゆっくりと顔を上げる。
私はその顔を見る。初めて、その顔を見る。
それは――

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鐘の音で私は目を覚ます。
目を覚ますが…私はしばらく動かずに考える。今見たものの意味を。

私「夏美…」

泣いている女は、夏美だった。
今のは…本当だろうか。本当の、夢の続きだろうか。
私が勝手に作り上げたものではないだろうか。いや、夢なんてそもそも…?分からない…。

夏美に対しては、特別な感情がある。
一言で言えば、独占欲だろう。
彼女は誰にも渡したくない。私のものだ。
彼女もそれを望んでいたはずだ。…私を好きだと言っていた。
それを邪魔する者が居たら…それを傷付ける者が居たら、私は許さない。決して許さない。

私は起き上がり、出掛ける準備をする。
今日は誰を使って遊ぼう。楽しい人形遊び。どの子がいいかな…
と、考えているときだった。
不意にノイズが走る。
誰かが建物に入ってきた気配を感じる。…誰?
私は意識を集中して探る。一人じゃない。数人の…
…!!
何ですって!?あの女…!

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私「舞さんに会えて、よかったぁ」

私は、再びこの病院に戻ってきた。今度は舞さんと…その弟さんと一緒に。
近くの駅でボーっとしていて、突然声を掛けられたときはビックリした。
一番会いたいと思っていた人が現れたのだ。想いが通じたんだな、うん。

残念ながら、弟さんは私を見ることができなかった。
あの高速道で、車に乗っていた男の人だ。まぁ無理だろうな、とは思った。
でも…。
私が彼を意識すること。彼の方でも、私の存在を強くイメージすること。
お互いにそうすれば、見えるようになる。
舞さんがそう言い、実際にそうしてみると…問題は簡単に解決した。
年頃の男の人を意識するっていうのは、何だか照れるけど…。

舞「私たちも、あなたを探していたのよ」
病院の入口に立って、舞さんが言う。
舞「一度、2人だけでここに来たの」
私「そうなんだぁ」
舞「それで、あなたを連れて来ないとな、って思ったのよ」
私「ふーん…」
舞「それじゃ、入りましょう?…霊子さん」
私「了解っ」
そう言って私たちは、中へと入っていった。

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病院中に入り、迷わず奥へと進んでいく。
目指す場所は決まっている。あの手形のところだ。
それにしても、ここはどうも…嫌なものを感じる。

私「――でね、その手形に触れたの」
私は2人に、以前来たときの話をする。
私「そうしたら、何だか気分が悪くなっちゃって、こう…捕らわれるような感じがしてね」
舞「捕らわれる…」
私「そ。それで、逃げて来ちゃったんだ」
舞「それは…きっと、正しい判断よ」
私「へへ。でもね、やっぱりもう一度、よく調べないとダメだって思ったの」
そう。あの場所には何かある。私の記憶に関する何かが…。
舞「よく分かったわ」
私「ふふ…良かったぁ。舞さんなら、きっと分かってくれるって思ったんだ」
今日こそだ。今日こそ全てが分かる。私は、自分を完全に取り戻すのだ。

やがて、問題の場所に近付く。
私「あそこよ」
先立って歩いていた私は、2人に向き直って言う。
私「あの壁の手形が――」

そして再び壁を向いたとき、そこに1人の女性が立っていた。

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私「え…」
何かが、私の琴線に触れる。
私「誰…?」
誰か…知っている。私、この人を…
女「…」
その女性は、無言で私たちを睨み付けている。
…いや、私たちじゃない。視線の先は…舞さんだ。
舞さんを睨んでいる。恐ろしい程の、憎しみを込めた目で。
女「やっと会えたわね、舞さん」
舞「…こんばんは、佳澄さん」

かすみ。名前、かすみって言った…かすみ…佳澄?
私「う…」
佳澄…知っている…私――
頭の中が急速に回転を始める。どこからか、何かたくさんのものが押し寄せてきて…もう少し、もう少しで…

佳澄「夏美。こっちに来なさい」
なつみ…夏美は…私の…、私の名前…!!
私「あ…あぁ!!」
私は頭を抱え、その場にうずくまる。

佳澄「良いのよ夏美。ほら、思い出して…」
その言葉で頭の中の何かが崩れ、記憶が一気に流れ込んでくる。
一度に全てが流れて来て…私は、ついに思い出す。

…忘れていたもの、全てを。

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――姿を現し、私の名前と夏美の名前を伝える。
すると何が起きるか?
それくらいは分かっている。彼女は思い出すだろう。ここで、私がした事を。

私「夏美、思い出した?」
夏美「佳澄…さん…」
私「…まったく」

私は舞を睨みつけて言う。
私「どういうつもり?私のものに手を出すなんて。こっちは見逃してあげたのに…」
美加と古乃羽を見逃した――もちろん、ただ興味を失っただけだが。
私「あなたがそうするなら、私にも考えがあるわよ?」
私は舞の横に居る、その弟に目を向けながら言う。

舞「手を出したなんて、そんなつもりは無いわ」
言い訳だ。なんて女…。
舞「夏美さん、大丈夫?」
うずくまっている夏美に、舞が声を掛ける。
私「ちょっと…!」
私は一歩踏み出して言う。
私「私のものに手を出すな、って言っているのよ!」

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舞「…夏美さんはあなたのものじゃないわ」
私「フン…」
何を言うかと思えば。
私「いいえ、私のものよ。それくらいも分からないの?」
舞「…」

夏美がふらつきながら立ち上がり、舞がそれに手を貸す。
舞「大丈夫?」
夏美「はい…」
舞「思い出したのね…全部」
夏美は頷く。その顔は、どこか悲しげに見える。

私「夏美、もう一度言うわ。こっちに来なさい」
夏美「佳澄さん、どうして?あなた、一体…」
舞「行くことはないわ。夏美さん」

こいつ…!
私「忠告はしたわよ…舞!」
私は光一に目を向ける。
そして一瞬にして彼の目から光を抜き取り、命令する。

私「光一、舞を殺しなさい」

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虚ろな目をした私の人形は命令に従い、近くにいた舞の…その細い首に手を掛ける。
舞「光一…!」
そしてそのまま舞を壁に押し付け、首を絞めていく。
舞「っ…!」

バカな女…。せっかく忠告してあげたのに。
人のものに手を出すなんて、最低よ。

舞「く…ぅ…」
さぁ、舞はどうするかな?止めるように命令しないのは、私以上に上手く操ることができないからだろう。

夏美「ちょっと…こら、やめなさい!」
傍にいた夏美が光一を止めに入るが、彼女の力で引き剥がせるものでもない。

私「夏美、放っておきなさい」
夏美「なんで…ダメよ!」

夏美は何とか光一を引き剥がそうとするが、彼は力を込めて舞の首を絞め続ける。
どれくらいで死ぬだろう。もっと力を込めれば、先に首の骨が折れるかな?

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夏美「やめさせて!佳澄さん…!」
力ではどうにもならないと悟った夏美は、私にお願いしてくる。
…気に入らない。

私「嫌よ」
夏美「お願いよ!このままじゃ…」
…あぁ、気に入らない。
私「あんなの、どうなってもいいのよ」
夏美「ダメに決まっているでしょ!?」
私「まったく…気に入らないわね。黙っていなさいよ」
私は夏美を睨みつけて言う。
私「私の言うことを聞いていれば、それで良いの。分かった?」

夏美は息をのむ。…その目に何かが宿る。

夏美「…やめさせて」
私「うるさいわね…」
夏美「やめさせなさい…佳澄!」

そう言い放ち、夏美は平手で私の頬を叩いた。
…その瞬間光一の呪縛が解け、彼は糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。

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私「…っ」
…!?叩かれた。夏美に、叩かれた…?
私「何…するのよ!」
夏美「言うことを聞かないからよ」
私「私に、何を…なんで、私を…」
何故か急に、頭が混乱してくる。なんで?なんで、ぶつの…?

夏美「悪いことをしたから、ぶったのよ」
私「何…なんで…生意気な、私にそんな口を…」
悪いこと?悪いことをしたから?何でよ。だって、そんな…

私「そんなの…、悪いなんて…っ…」
おかしい。おかしい…なんで?なんで…
私「っん…うっ…うぅ…」
不意にポロポロと涙が溢れてきて、私は歯を食いしばる。何で…?私、何で泣いているの?
足から力が抜けていき、私はその場に座り込んでしまう。

夏美「佳澄…?」
こんな、ぶたれただけで、なんで…
私「う…何よ、これ…っ」
夏美「痛かった?ごめんね…」
夏美が私の肩に手を回し、包み込むように身を屈めてくる。
やめてよ、そんな風に優しく…それじゃ余計…
あぁ、分からない…。私は、何で…?

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――佳澄が急に泣き出してしまい、私は戸惑いを隠せなかった。
叩いたのが痛すぎた?どこか、悪いところに当たってしまった?

私「佳澄…」
私は泣いている彼女の頭を撫でて、慰めてあげる。…すると、それで少し落ち着いたようだった。

…そんな私たちに、舞さんが話しかけてくる。
首を絞められていた苦しさは、欠片も見えない。息を切らしてもいない…。
舞「…2人に話しておくことがあるわ」

私「何…?」
佳澄「何よ」
コラ、そんな口を聞いて――と佳澄を見ると、彼女はその視線に気付き、バツが悪そうに少し小さくなる。

舞「佳澄さんのこと…2人の関係のことよ」
私「何か知っているの?」
舞「えぇ。…聞いてくれる?」

私「…お願いします」
佳澄「…」
佳澄は何も言わないが、否定もしない。知りたいけど、素直に教えてと言えないのだろう。

舞「それじゃ――」

そして舞さんは、話を始めた。
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