人形(後)

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私「…え?」
佳澄が倒れ、私はしばし呆然とする。
私「何で…!?」
私は短剣を放り投げ、彼女を抱き起こす。
佳澄「…っバカね…また、騙され・・って…」
私「騙すって…そんな、何でよ?」
佳澄「消える…なら、せめて…」
私「消える…?」

佳澄「…約束、したから…ね?」
佳澄は片手を上げ、私の頬に当てる。
佳澄「私の、大切な…」
私「佳澄…!」
私はその手を握る。

佳澄「ひと…」

カクリ、と佳澄の身体から力が抜ける。

そして…その身体は、一瞬にして消え去ってしまった。

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私「何で…?どうして、こんな…」
あまりに急な出来事に、頭が混乱する。
一体何が?なぜ、消えてしまうの…?

近くに舞さんが来る。
舞「夏美さん」
私「舞さん…佳澄、なんで…消えるって…?」
舞「存在理由が無くなったからよ」
私「どういうこと?」
舞「人を物として扱えなくなったから。それを人として認めてしまうと、自分の存在が…嘘になるからよ」
私「そんな…そんなのって…」

舞「立って、夏美さん」
私「うぅ…」
イヤ…もう、こんなの…
舞「約束よ…。あなたは、行かないといけない」
私「約束…」
舞「さぁ、立って…」

舞さんに言われ、私は立ち上がる。
私「どこに…?」
舞「ついてきて。光一も」
光一「あ、あぁ。うん」

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舞さんは病院の奥へと進んでいく。
それに力なく続く私。少しふらつくと、弟さんが手を貸してくれる。
果たして救いはあるのだろうか。こんな私に…何もできなかった私に、救いは…。

舞「ここね」
舞さんが立ち止まる。そこはこの廃墟に似つかわしくない、綺麗な扉の前だった。
私「ここは…?」
舞「佳澄さんの部屋よ。入りましょう」
そう言って舞さんは扉を開けて中に入る。私たちもそれに続く。

そこは真っ白な壁の、清潔感に溢れる部屋だった。
置いてある家具はとても少ない。
簡素な箪笥に、化粧台、柱時計…止まっている…それに、ベッド。
そのベッドの上には――
…!

あぁ…
そうだったのね…

約束、か。

ベッドの上では、1体の人形が、私が迎えに来るのを待っていた。

黒いボタンでできた目で、おめかしをした格好のまま…ずっと。

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――姉に続いて部屋に入ると、夏美さんはベッドに座っている人形に目を奪われたようだった。
少し古い感じはするが、綺麗な服を着た、小さな女の子の人形だ。
そうか。あれが、あの…。

夏美さんは、ゆっくりとその人形の元に向かう。
ここまでフラフラと歩いてきた彼女だったが、その足取りはしっかりしていた。

人形を手に取り、抱きしめる夏美さん。
その子に何かを言っている。

俺はちょっと視線を逸らす。なんだか涙が出そうになったからだ。
姉は…?と思い見てみると、彼女は優しい目で夏美さんたちを見つめていた。

そうしたまま、しばらく時間が過ぎていく。
夏美さんは人形に話しかけ、頭を撫で、手を取り、服を整え…たくさんの愛情を注ぐ。

やがて…

夏美さんが言う。
夏美「舞さん。…この子を、私の家に連れて行って欲しいの」
舞「分かったわ」
夏美「ありがとう。あそこなら1人じゃないし…きっと、会えるから」
舞「…そうね」

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夏美「…私、もういかないと。”お迎え”ってやつが来たみたい」
見ると、夏美さんの身体が段々とぼやけていく。

夏美「舞さん、本当に…ありがとう。光一さんも、力になってくれてありがとう」
舞「いいのよ」
俺「あぁ…」
俺は多分、何もしていない。また何も…

夏美「それじゃあ、ね」
笑顔になる夏美さん。
その身体は徐々に薄れていく。

舞「さようなら、夏美さん」
夏美「さようなら…」
薄れていくと共に、そこから光が溢れてくる。
夏美「あ…光…」
彼女は光に包まれ…
夏美「見える…私の、大切な――…」

そして、完全に消えていった。

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――
外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。

病院から出る途中、姉は一本の短剣を拾った。
俺「あ、それ…」
白谷さんを刺した短剣だ。
舞「これも持っていくわ」
俺「うん…そうだね」

舞「ミセリコルデ、ね」
俺「…はい?」
舞「これの名前よ。慈悲の短剣」
俺「へぇ…慈悲、か」
慈悲の心…夏美さんにはあっただろう。では、白谷さんには?
…きっとあったのだろう。夏美さんから受け継いだ、その心が。
舞「出ましょう」

外に出た俺たちは、車に乗り込む。人形は、姉の膝の上だ。

俺「それが、白谷さんだったのかな」
舞「まぁ、そんなところね」
俺「ふーん…」
俺はまじまじと人形を見る。
俺「…人形も寝るのかな?」
舞「何で?」
俺「だってほら、夢を見るとか…って」
舞「さぁ…どうかしらね」
姉は、人形の頭を撫でながら言う。

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舞「小さい女の子が人形を可愛がるのって、母親の真似事なのよ」
俺「あぁ、聞いたことある」
舞「自分が母親に言われたことを、人形に言ったりするの。叱られたこととか、褒められたこととか」
俺「ふむ」
舞「だから…」

姉は人形を持ち上げて言う。
舞「人形は、自分自身でもあるのよ」
俺「…」
何か意味深だ。
母親としての感情だろうか?男の俺には、ちょっと分からないことかも知れない。
…ただ、人形が自分自身と言うのなら、それを捨ててしまうことはどういう意味を持つのだろう。
そのとき捨てるものは、人形という物だけ…?

…ん?そういえば――
俺「そういえば、姉貴って…」
舞「何?」
俺「人形って、持っていたっけ?何か、こういうのは無かったような」
舞「…これと言って持ってなかったわね」
俺「ふむふむ…」
舞「…どういう意味かしら?」
俺「いや別に…何となく」
人形遊びをする姉の姿は、何となく想像しづらい…何て言ったら怒るだろうな。

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舞「私にはね、必要なかったのよ」
どこか澄ました顔で言う姉。
俺「…なんでさ」
舞「だって、光一で遊んでいたから」
俺「…へ?」
舞「さ、早く行きましょ?」
俺「あ、あぁ…」

今、シスコン云々以前に、俺が姉に対して逆らえない本当の理由が分かったような気がした…が、取り敢えず車を出――

…あ!!
大事なことを思い出した。
なんてこった、俺は…。

俺「姉貴…あの…お姉さま…」
舞「今度は何?」
俺「ごめん…俺、姉貴にとんでもないことを…」
急に思い出した。俺は、操られて――

舞「あぁ、私、襲われたわね」
事も無げに言われる。

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俺「ごめん、ほんとに…」
舞「別にいいのよ。そうなるって分かっていたし」
俺「あら、そう…」
舞「それに…」

姉が俺を見て言う。
舞「あんなので、私が死ぬと思う?」
俺「え…?」

舞「…ほら、早く出してよ」
俺「あ、あぁ」

よく分からないけど、やはり俺は姉貴には敵わないようだ。


俺はアクセルを踏み込み、車を発進させた――。
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