名刺@

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美加「あーぁ。何でこんなに勉強漬けなんだろ」

昼の学食。
このところ全国的に大雨の日が続いており、この日も雨が降っていた。
そのせいか、屋根のある学食はいつもより人が多めだ。

そんな中、午前中からみっちりと講義に出ていた美加は軽く愚痴をこぼす。
美加「古乃羽は良いねぇ…午後からって。あたしゃ眠くて仕方ないよ」
私「美加が今までサボっていたからでしょ?」
美加「まぁ、それはそうなんだけどね…」
そう言いながら、うどんをズルズルと食べる美加。

私「…もう少し上品に食べたら?」
美加「ん…?いいのよ、うどんは。これが粋な江戸っ子ってものでしょう」
私「美加は江戸っ子じゃないでしょ…」
美加「大丈夫よ。パスタとかは、ちゃーんと音も立てずに食べるから。後、男の子と一緒のときもバッチリ」
私「男の子受けとかじゃなくてさ…」

美加「あ、この前さぁ、一本ずつ食べている子が居たのよね。うどんを」
すかさず話を逸らす美加。もう…。
私「一本ずつ?」
怒っても仕方ないので、話に付き合う。
美加「そそ。それも時間掛けてゆ〜っくり…。ダイエットのためだってさ」
私「へぇ…」
ダイエットと聞くと少し興味を惹かれるけど…、その方法は止めておこうかな。

2/12
私「まぁ、そこまでしなさいとは言わないけどね」
美加「なんか、見ていて美味しそうじゃなかったな。うどんに失礼よね」
私「失礼かは知らないけど、ダイエットも大変なのよ」
美加「ふーん…」

私もダイエットに関しては、それなりに気を配っている。
別に彼の好みとかは関係なく、女の子なら誰もがそうだろう。お腹のプニプニを気にしない子なんて、そうは居ない。
でも、美加は…
私「ほんと、美加はいいな…食べても太らないって、最高の体質よね」
美加「へへへ…悪いねぇ」
きっと誰もが羨む体質だろう。まったく、世の中不公平にできているものだ。

美加「でもね、私は古乃羽みたいに霊感がある方が良かったなぁ」
私「えー、こんなのが?」
美加「そうよ、カッコイイじゃない。何でもお見通しでしょ?」
私「何でもなんてこと無いし…代わって欲しいくらいよ」

…なんて、どうでもいいような話をしながら食事を終え、授業の開始まで、のんびりと過ごしていたときだった。

3/12
男「あの、すみません――」
私「はい…?」
突然、面識の無い男性が話し掛けて来た。
20代後半くらいかな?Tシャツとジーンズのラフな格好で、手にはセカンドバッグを持っている。学生には見えないけど…?

男「鮎川さんですよね?鮎川古乃羽さん」
私を知っているみたいだ。
男「そちらはお友達の神尾美加さんですね」
美加「…そうだけど?」
美加のことも知っている。
私「あの、何か…?」
警戒しつつ、聞いてみる。

男「私、こういうものですが…」
と言って、男はバッグから名刺を取り出し、私たちに渡してくる。
そこにはこう書かれていた。

「往来会 広報部 桐谷達夫」

あ、これって…
男「桐谷といいます。往来会というところで、広報を担当しています」

往来会。前に話をしていたやつだ。
美加「何の用ですか?もうすぐ、講義の時間なんですけど」
美加が男に言う。少しつっけんどんなのは、勧誘や売り込みを警戒しての事だろう。

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男「あぁ、すいません。それでは単刀直入に用件を…」
と言って男は私に向き直る。
男「鮎川さん。貴女には特別な…その、霊感というものがありますよね?」
私「…」
ドキッとする。初対面でいきなり指摘されたのは、舞さん以来だ。

男「私たち往来会では、霊に困っている方、悩んでいる方をお救いするための活動をしていまして…」
私「…別に困っていることとか、ありません。ね、美加」
美加「そうね」
そもそも困った事があったら、相談できる人がいる。

男「あぁ、いえ。それならもちろん、それで良いのです。ただ、そういった方も世の中にはたくさん居るのですよ」
…それはまぁ、そうかも知れない。
男「それでですね。私の用件と言うのは…」
男は立ったまま、姿勢を正して言う。

男「鮎川さんに是非、私たちのお力になって頂けないかと、そういうことなのです」
私「…?」
困っているから助けて欲しい、って言っているのかな?

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私「えっと、どういう…?」
男「すみません、分かり難かったですね。分かりやすく言いますと、私、鮎川さんをスカウトに来たのですよ」
私「スカウト…」
男「そうです。私たちの力になって欲しいのです。困っている方たちをお救いするために」

私「…」
男「どうでしょう、少しお考えになって頂けませんか?」
私「でも…」
美加「あの」
美加が口を開く。

男「はい、何でしょう」
美加「…学内でのこういった勧誘は禁止されている筈です。大学の方に許可は取ってあります?」
男「あぁ…ハハ…」
美加「無いの?」
男「…すみません。では、学外でまたお願いしますね」
美加「学外でも、そんな…」
私「あの…」
いけないいけない。美加に任せていないで、ここは私からハッキリ言わないと。
私「あの、私、そちらの団体に入るつもりはありません」

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男「…あぁ。色々と心配な点はあると思います。それに、私たちがどういった団体であるかもまだご説明できていませんので、聞いて頂ければ、きっと…」
美加「…しつこいね」
うわ、美加が怒り出しそうだ。私はそれに少しハラハラしてしまう。

私「どこでどう説明されても、どんな事情があっても、私、どこかの団体に入って、というつもりは一切ありません」
美加に習って、少し強めに言う。

男「…そうですか」
私「はい」
男「…分かりました。貴重なお時間、ありがとうございました」
そう言って男は一礼すると、あっけなく去っていく。
私たちはそれを見て、何だか拍子抜けしてしまった。

私「なんか…素直に去っていったね」
美加「ほんとね…嫌になるなぁ、もう…」
私「うーん…」
美加「ふふ、古乃羽もハッキリとモノを言えるようになったじゃない」
私「…美加が怒りそうで怖かったからよ」
怒って暴れだしたら…とはならないだろうけど、やっぱり怒っている姿は見たくない。
美加「あったまくるのよね、ああいうの…」

名刺Aへ続く
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