名刺A

7/12
私「でもさぁ…」
美加「ん?」
私「何で私たちの名前知っていたんだろ」
美加「んー…まぁ、調べれば分かるんじゃない?名簿とか色々」
私「そっかぁ…気持ち悪いなぁ」
少し調べれば簡単に人の顔と名前が分かってしまう、というのも何だか嫌な感じだ。

美加「それよりさ、何か下手だったね」
私「下手って?」
美加「勧誘が、よ。学内で許可もなくするなんてさ。外で普通にやればもっと食い下がれたかもしれないのに」
食い下がられるのも困るけど、確かにそうかも知れない。

美加「広報部ってあるけど、スカウトする人って普通、編成部とかじゃない?だから慣れてなかったのかな、この人」
名刺を見ながら美加が言う。
私「広報と編成、兼ねているとかじゃ?組織によって違うと思うけど…。あ、それとも新人だったとか」
美加「新人だとしたら、戻って怒られそうね、上司とかに。何やっているんだーって」
私「う…、私のせいじゃないよ」
美加「自業自得よね。…っと、早く講義行かないと!」

時計を見ると、そろそろ講義の始まる時間になっている。
私たちは慌てて支度をし、教室に向かった。

8/12
――翌日。
そのニュースが流れたのは、いつものように古乃羽を家に呼び、一晩明けた朝のことだった。

朝食を食べ終え、2人でお茶を飲みながら取り留めのない話をしていると、何気なくつけていたTVが大雨による被害を伝える。

「〜〜にある温泉街では、近くの川が氾濫した影響でキャンセルが相次ぎ…」

私「あーあ…。最近、ずっと雨で嫌になっちゃうね」
今日も外は雨。もう5日程続いている。
古乃羽「うん…ジメジメしてヤだね」
私「カラッと晴れたら、温泉にでも行きたいなぁ…露天風呂とか良くない?」
古乃羽「温泉…」
私「うん、温泉。…どうかした?」
何やらお悩みの古乃羽。なんかあったかな?

古乃羽「あの…雨月君がね、2人で温泉に行こうか?って。…泊まりで」
…なんだ。お惚気か。
恥ずかしいからか、私の前ではまだ彼のことを「雨月君」と呼ぶ。いつもは違う呼び名で呼んでいることは、私も知っているのに。
私「良いじゃない。行ってきなさいよ」
古乃羽「うん…。でも、2人で旅行とか、初めてだから…」
私「コラコラ。もう子供じゃないんだから」
古乃羽「そうだけどさぁ…」
典型的な箱入り娘として育てられた古乃羽。雨月君の苦労する姿が目に浮かぶ…。

9/12
「続いてのニュースです」
アナウンサーが次のニュースを読み始めたところで、古乃羽がお茶を淹れに台所に立つ。
「本日未明、Y県の山中で、大雨のため崩れた土砂の中から男性の遺体が発見されました…」
私はなんとなくTVに視線を向け、そのニュースを見る。
と…

「遺体は死後数日が経過しており…所持していた物などから、K県に住む、社団法人往来会の桐谷達夫さんと…」

…え?

私「古乃羽、今…」
古乃羽「ん、何?ちょっと待ってね」
そのまま見ていると、TVには被害者の顔写真が出…あれ?

私「この人…誰?」
古乃羽「ん?誰って…?」
戻ってきてTVを見る古乃羽。

古乃羽「あれ?この名前…」
私「昨日のスカウトの人よね。往来会って出ているし…」
顔写真の下には、確かに「往来会 桐谷達夫」と出ている。

しかし、その写真は私の見たことのない人だった。

10/12
古乃羽「顔が違うよね…。同姓同名の人…?」
私「どうなんだろ…」
TVはそのまま次のニュースに移ってしまったが、先ほど映し出された写真は、明らかに昨日の人とは別人だった。

しかしそれは当たり前かも知れない。
何しろ、私たちがあの男に会ったのは昨日のことだ。
それに対して、ニュースでは遺体は死後数日経過している、と言っていた。ここでもし同じ顔だったら、オカルトになってしまう。

古乃羽「同姓同名も、ありえなくはない…よね」
確かに、無きにしも非ずだけど…
私「それよりさ、昨日の人はニセモノだった、って気がしない?」
古乃羽「ニセモノ?」
私「うん。何かほら、下手だったじゃない?勧誘が。慣れてない感じでさぁ」
古乃羽「うーん、確かにそうだったけど…何のために?」
私「それは分からないけどさ…」

古乃羽「何の意味もないよね…。というか、そんなことしたら…」
私「この事件の犯人か、そうでなくても確実に関係者、って思われるだろうねぇ…」

そう、デメリットだらけだ。
人の名前を語っただけでなく、どうやら殺されたであろう人の名刺を使うなんて、何の得もない。

11/12
私「…名刺、まだあったっけな?」
ふと思い付いたことがあったので、名刺を探す。
古乃羽「あー、私、家にあるかも。カバンに入れっぱなし」
私「私も確か…あ、あったあった」

大学に持っていっているバッグから名刺を取り出す。
「往来会 広報部 桐谷達夫」
名刺にはそう書かれている。確かにニュースで出ていた名前だ。
殺されたかもしれない人の名刺、と思うと、正直言ってなんだか気味が悪い。
それにもしかしたら、その殺人犯が配った名刺かも知れないのだ。…戦利品とでも言いたげに。

私「古乃羽、お願いがあるんだけど…」
古乃羽「何?」
私「これさ、霊視してみてくれないかな」
古乃羽「あ…なるほど」
私「何が見えるか、ちょっと怖そうだけど…」
古乃羽「大丈夫、貸して。やってみるから」
私は古乃羽に名刺を渡す。

――この時のことは、一生忘れないだろう。きっと私は、一生後悔し続ける…。

12/12
名刺を受け取った古乃羽は、テーブルの上にそれを置き、眼鏡を外す。
そして座布団の上にキチンと正座すると、名刺の左右に両手を置き、ジッとそれを見下ろす姿勢をとる。

準備完了かな?と思って古乃羽の顔を見ると、彼女はなぜか、少し浮かない顔をしていた。
私「…どうかした?」
古乃羽「ん?…ううん、なんでもない。それじゃ、ちょっとやってみるね…」
そう言うと、古乃羽は静かに目を閉じた。

一体どういったものが見えるのだろう。私はワクワクしてそれを見守った。
――そう、私は楽しんでそれを見守っていた。

そしてその気持ちは、一瞬で打ち砕かれる。

古乃羽「ん……」
私「どう?何か見え――」
古乃羽「え…?……あっ!!」
鋭い叫び声と共に、古乃羽が両目を押さえて床に崩れ落ちる。
私「――古乃羽!?」
そして慌てて介抱しようとした私は、愕然とする。

古乃羽「つっ…ぅ…」
両手で目を覆って苦しむ古乃羽。
その手の隙間から、真っ赤な血が滲み出していた。
怖いサイト.com
ベストヒットナビ
感想・雑談はコチラ
もっと探す@AB
[戻る]
- mono space -