一番怖いもの@

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子供は残酷だ。

痛みを知らない彼らは、平気で他人を傷付ける。
身体への痛みは、早くにそれを知る子も多いだろう。

でも、心の痛みは…?
それを早くに知ってしまった子供は?
まだその傷の癒し方を知らない子供は、どうすれば良い?
その心はどうなってしまう?歪まずにいられるだろうか?
私は――

「――神尾さん!」

私を呼ぶ声がして、ふと気が付く。ここはどこ…?

…そうだ、病院だ。
廊下の長椅子に座って、少し物思いにふけてしまった。

「神尾さん!」
再び呼ばれ、声のする方を見ると、雨月君と北上が小走りでこちらに来る。
…あ、廊下は走っちゃダメだよ。…あれ、北上も呼んだっけ?
ただ、そんな事を思う。

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雨月「神尾さん、古乃羽は…?」
私の元まで来ると、少し息を切らせて、雨月君が聞いてくる。
古乃羽……あぁ、そうだ。古乃羽。古乃羽のこと…

私「雨月君…ごめんなさい……」
椅子から立ち上がり、深々と頭を下げる。こんなので許される事でもないけど…

私「私のせいなの。私が、古乃羽に無理に…させて、それで、あんな…こんなこと…」
そうだ。古乃羽は躊躇していた。霊視することに。
浮かない顔をして、危険だと分かっていたのかも知れない。
でも、私が言うから…無理にお願いするから、古乃羽は…

私「私があんな…あんなこと、古乃羽に…」
雨月「神尾さん、そんなに…」
私「私、なんで…本当に、ごめんなさい…」

ダメだ。立っていられない。何だか足に力が入らない…。私は再び椅子に腰を下ろす。

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雨月「そこで聞いたけど、古乃羽、瞼を切っただけだ、って。少し縫えば大丈夫だろう、って…」
私「結果的にはね…。でも、もう少し傷が深かったら失明していたかも、って…。そんな事になっていたら、私…」
古乃羽を危険な目にあわせてしまった。失明寸前という目に。…しかも、私の勝手な好奇心のせいで。
自分を許せない。そんな自分を許せない…。

雨月「神尾さん…」
私「古乃羽の病室、そこよ…。行ってあげて。お願い。まだ、眠っているみたいだけど…」
項垂れたまま、目の前の病室を指差す。
雨月「…分かった」
北上「雨月。俺――」
雨月「あぁ、そうだな…。じゃあ…」
2人が何か言っている。何だか耳も遠くなった気分だ。

罪悪感で押し潰されそうで、胸が…心が痛い。加害者のくせに、なんて思って、余計落ち込んでしまう。

病室の扉を開ける音がする。
…と同時に、私の隣に誰かが座る。
顔を上げると、そこに北上がいた。

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私「…行かないの?」
北上「あぁ、俺はまぁ…こっちの方が心配かな、なんて…」
少し照れたような顔をして、北上が言う。
私「私は見ての通り、無傷よ。古乃羽と違って。ほんと、バカみたい…」
北上「気持ちは分かるけどさ、そんなに自分を責めちゃダメだって」
私「…何?気持ち?あんたに分かるの?」
北上「…」

…シマッタ。
私「あぁ…ごめん。八つ当たり」
北上「いや。気にしないでガンガン当たっていいぞ?いつも鍛えてるから」
私「…」
変なヤツ…。

北上「ほら、俺は慰めるのとか下手で…上手い事言えないからさ。聞き役に徹する人なんだ」
私「…そういうのも、有りかもね」
北上「お、そう思ってくれるか?じゃあ、思いの丈をぶつけて、いつもの強い神尾さんにだな…」
私「そんな簡単にいく訳ないでしょ…」
北上「そうか…」
短絡的だなぁ、もう…。

私「それにね…私、そんなに強くないわよ」
北上「いやいや、俺から見たら大したものだよ」
そりゃあんたと比べたら…と思ったが、言わずにおいた。

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私「私が、強いなって思う人はね…古乃羽よ」
北上「鮎川さん?」
私「意外?外見からじゃ分からないかもね」
北上「あぁ…何かこう、おっとりした"女の子"って感じだからなぁ」
…私と違って、と言われた気分だ。
えぇ、どうせ私は女の子っぽくないですよ。これでも、可愛いとか言われる事だってあるのにさ。
まったく…こいつは本当に、人を慰めるのが下手だ。

私「古乃羽とはね、小学校からの付き合いなの」
北上「うん」
私「1,2年生の時は別のクラスで、3年のクラス替えで一緒の組になってさ。
最初はただのクラスメイトだったけど、4年生のときに…好きになっちゃったんだよね」
北上「好きに…って、まさか…?」
私「ん?あぁ、違う違う。変な意味じゃないって」
まぁ、古乃羽ならいいかも…なんて思った時期もあったような無かったような。
…いや、無かったことにしよう。今じゃ考えられない、思春期の気紛れだ。

北上「何かあったのか?4年で」
私「よくある話よ。…誰にも言わないって、約束できる?」
北上「あぁ、もちろん」
私「古乃羽には多分、良い話じゃないからね…」
多分じゃなくて、絶対にそうだろうな。

北上「どんなこと?」
私「…古乃羽ね、イジメにあっていたの」

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残酷で、未熟な子供たち。
私が今までで一番怖いと思ったのは、アレだ。
優理ちゃんの兄…暁彦のこととか、佳澄のこと以上に。

私「気弱そうで内気で…昔から目が悪かったから、度の強い眼鏡掛けていてね。
その性格と外見のことで、クラスの数人の女の子からイジメられてたの」
北上「イジメかよ…」
私「3年の途中からみたいだったんだけど、最初は気付かなかったわ。
違う女の子のグループだったし、傍目からはジャレ合っているのかな、くらいに思ってた」
仲の良い友達同士で、冗談で小突いたり、ちょっとヒドイ事を言うことはある。

私「でも、それが段々エスカレートしていったみたいでね。4年生になった頃にやっと気付いたの」
北上「傍目から見ても、分かるようになったのか。イジメられてる、って」
私「そ。あれは本当に酷かった。…詳しくは言えないけど、陰険でね」
北上「女の子ってそういうの凄そうだな…」
私「男の子にもそういうのはあるって言うけど…そうかもね。とにかく酷くて、見てられなかったわ」

身体じゃなくて、心を責める。痛めつける。
それがどれだけ苦痛かを知らずに。
しかも、そう…楽しんで。
彼女達は、楽しんでそれをしていた。みんなで笑いながら、それをしていた。
あの笑い声以上に怖いものなんて、ある…?

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北上「それで…?」
北上が話を促してくる。
私「それでね、もう見てられないから、言ってやったのよ。何してんの?バカなこと止めなさいよ、って」
正確には怒鳴りつけてやった、だ。何だかものすごく頭にきて、後先考えずに。

北上「偉いなぁ…やるじゃないの」
そう。私も正しい事をしたんだと、その時はそう思い、誇らしげでさえあった。
北上「それでイジメは止んだ?」
私「えぇ、止んだわ」
北上「へぇ…。言われてすぐ止めるものなんだな」
私「…理由があるのよ」
北上「ん?」
私「次の日になって分かったわ」
北上「次の日って?」

私「次の日…私が朝いつも通り学校に来て、教室に入って席に着いて、教科書を机に…ってところで気付いたわ」
北上「何…?」
私「私の机の中に、ゴミがたくさん入っていたの」
北上「うわ…」
私「どういうことか、分かる?」
北上「マジか…」

私「マジよ。古乃羽へのイジメが止んで、次は私が標的になったの」

一番怖いものAへ続く
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