一番怖いものA

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私「一体何なのか、すぐには理解できなかったわ。
…でも、彼女達――古乃羽をイジメていた彼女達が、こっちを見てクスクス笑っているのを見て分かった」
北上「そうなるのか…」

あの瞬間、それを理解した瞬間、私の中にあった誇らしげな気持ちは消え去った。
そしてそれと入れ替わりに…

私「…後悔したの」
北上「え…」
私「何であんな事したんだろう、って」
北上「いや、そんな…」
私「何で助けたりしたんだろう、って。余計な事した、って」
北上「間違った事じゃないだろ?」
私「後からならそう思えるけど、その時はそう思ったのよ。本当に…」

歪んでしまう。痛みで、心が歪んでしまう。今思っても、嫌な感情だ。
正しいとか間違っているとか、そんな事は考えられなくなってしまう。
芯の無い――まだ芯の無かった私の心は、その苦しみで簡単に歪んでしまう。
そして、その形で形成されてしまう。決して大げさではなく、私の一生の性格が、そこで決まってしまう…。

でも…

私「何だか惨めな気持ちになって、もう泣き出しそうだったわ」
北上「…」
私「でもそのときね―」

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惨めで情けなくて、今にも泣きそうだった。

私の横の方の席――窓際の一番後ろの席には、イジメグループのリーダー格の子が座っていて、その周りに3、4人が集まっていた。
彼女たちはこちらを見て、楽しそうにクスクスと笑っている。
私にはもう、耐えられそうになかった。

しかしそのとき、ガタン、と音がして、前の方の席で誰かが立ち上がった。

…古乃羽だった。

彼女がこちらを見る。その目からは…その時は何も感じ取れなかった。
今思えば、きっと申し訳ない気持ちで一杯だったのだろう。
そしてこちらの気持ちは…

…正直に言うと、恨めしい気持ちがあった。あんたのせいで――なんて思っていた。

そして古乃羽は私から視線を逸らし、イジメグループの集団を見据えると、ツカツカとその前まで歩いていった。

北上「おぉ…。じゃあ、今度は鮎川さんがビシッと?」
私「ビシッと、ね…。ふふ、そんなものじゃなかったわよ」
北上「?」

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何よ。何か文句でもあるの?グループから野次られる古乃羽。
またイジメて欲しいの?それとも、あんたも一緒にやる?そんな声が聞こえてくる。
私は古乃羽を見守った。きっと、その場に居たクラス中の子――見て見ぬ振りをしていた子が、全員、古乃羽に注目していた。

しかし、古乃羽は何も言わなかった。

何も言わずに――古乃羽はリーダーの子を思いっ切り殴り飛ばした。

北上「…鮎川さんが!?」
私「そ。思いっ切り、全力だったって。しかも平手じゃなくて、グーで」
北上「グー…」
私「文字通り、リーダーの子は吹っ飛んだわよ。椅子ごと後ろに倒れて、転げ落ちたわ」
北上「うぉ…」
私「力の加減なんて分からないからね」
北上「すごいな…」

私「で、それだけじゃなくてね、そのリーダーの子、口から血を流しちゃってね」
北上「流血かい」
私「歯が抜けたみたい。抜け掛けていたんだってさ。
そこから血が出たのか、抜けた歯でどこか切ったのかは分からないけど、それでもうパニックよ。
少し呆けてから、わんわん泣き出しちゃったわ」

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自分達のリーダーだった子が、突然殴り飛ばされ、口から血を流しながら泣き喚いている。床には、殴り飛ばされて抜けた歯が転がっている。
それを目の当たりにしてしまった、その取り巻きの子達。
目の前には、口を固く結んで、わなわなと震えながらこちらを睨んでいる子がいる。

…後で古乃羽本人から聞いた話だと、口を結んで震えていたのは、痛みを堪えていたからだそうだ。
素手で思いっ切り殴ったので、手が痛くて仕方なかったらしい。

しかしそんな事情を知らない女の子達は、次は自分もあんな目に――と思い、その恐怖からみんな泣き出してしまった。

私「――それでもう、大騒ぎになっちゃってね。朝の早い時間だったけど、すぐに先生が駆けつけて来たわ」
北上「だろうなぁ」
私「後はもう、子供には分からない世界ね。イジメが発覚して、こちらや向こうの両親が出てきて、校長や担任と何やら話をして…」
北上「ふむ…」

私「手を出したのはマズかったけど、見て見ぬ振りしていたクラスの子たちも色々と証言してくれてね。
イジメもそれで無くなったし、大きな問題にもならないで済んだわ」
北上「相手の子達は…?」
私「学校はしばらく休んでいたけど、その後は普通に来ていたわね。こちらには何も干渉してこなくなったけど」
北上「へぇ…」
私「5年になるときのクラス替えで、別々のクラスになったしね。その辺は考えてくれたのだと思う」
そして私と古乃羽は、再び同じクラスにしてくれた。あの子達と別々になった以上に、それがとても嬉しかった。

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私「その一件以来ね。私たち、ずっと一緒に居るわ。中学、高校、大学と」
北上「なるほどなぁ」
私「で…。分かった?古乃羽はね、私よりずっと強い子よ。ああ見えてね」

私はあの時、心が折れそうだった。
もしあそこで泣いていたら、私の中で何かが崩れ…壊れてしまっただろう。
そして、正しいと思った事でも、二度と出来なくなりそうだった。

…でも、古乃羽は違った。
またイジメられることは容易に想像できただろうに、私を助けてくれた。
助けた事を後悔していた私を…。

北上「よく分かったけどさ…」
私「ん?」
北上「それで神尾さんが弱い人間だ、ってことにはならないでしょ」
私「んー…」
北上「きっかけは神尾さんの行動からだし」
私「まぁ、ね」

北上「だからほら、元気出して、な」
私「……」
北上「…?」
私「…あのさ。だから、って何の脈絡も無くない?」
北上「ぅ…」

ふぅ…。軽くため息が出てしまう。
まとめるのが下手なヤツ…。

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私「でもまぁ…いつまでも落ち込んでいちゃダメよね」
北上「そうそう」
私は椅子から立ち上がり、軽く伸びをする。

私「よし。古乃羽には、ちゃんと謝らないとな」
北上「そうそう。それで怒るような人じゃないだろ?」
私「そうね」
北上「そんなに気にされたら、向こうだってそれ以上に気にしちゃうぜ」
私「そうよね」
北上「逆の立場だったら、いいものじゃないよな」
私「そう…」
…おやおや?

私「何?急に上手い事言うようになったじゃない」
北上「あぁ。段々と調子が出てきたぞ」
…もう少し早く出て欲しい。
でも、私のことを心配してくれたことに悪い気はしない。

私「ありがとね」
北上「ん?おぅ。神尾さんのためなら、いつでも力になるぜ」
口説き文句に聞こえなくも無いことを言われる。
…まぁ、スルーしておこう。

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私「あ、そういえばさ…」
北上「何だ?」
私「古乃羽のこと伝えようと思って…あと、ちょっと相談しようと思ってさ、舞さんにも電話したんだけど、携帯通じないのよね」
北上「あぁ」
私「何度か電話したのだけど、ずっと通じないの。雨月君、何か言っていた?直接聞いた方が良いかな」
北上「それさ、ここに向かっている途中で、雨月も連絡しようとしたんだ。でも、通じなかったみたいでな」
私「ふーん…」
北上「雨月もちょっと気にしていたな。朝一で出掛けた事は知っているけど、って」

何だろう。何でもない…か?

私「雨月君に聞いてみようかな。…もう中に入っても良いよネ」
北上「ふふふ…もう十分だろ。お邪魔してしまおう」
私「もうすぐ古乃羽の両親が来るよ、って教えないといけないし」
北上「あ、来るんだ」
私「そりゃそうよ。古乃羽のお父さんって、古乃羽の事大好きだからなぁ…。彼、ちょっと大変かも」
北上「それは――…楽しみだな」

フフフ、そちもワルよのぉ。
なんて冗談を言いながら、私たちも病室に入っていった。
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