お悩み相談@

1/12
鮎川さんの事があった翌日。
数日続いた雨も止んだこの日、昼過ぎに起きた俺は神尾さんに呼び出され、近くの喫茶店で顔を合わせていた。

…と言うとまるで夢のような話だが、用件は当然鮎川さんのことで、まったく色気の無いものだった。
まぁ、そういうことでもない限り、俺と彼女がまるでデートのように…なんてシチュエーションは望めないけどさ。

神尾「古乃羽、入院して、3日後に抜糸だって」
俺「へぇ…入院するんだ」
朝昼込みの食事を終え、食後の珈琲なんて大層なものを飲みながら応える。

神尾「何か、そうしたみたい。手術の痕、残ったりしなければいいけど…」
女性としては、やはりその点が気になるみたいだ。
俺「今はそういうの、平気みたいだよ」
別に医学に詳しい訳じゃないが、ネット等で調べてみると、その辺のケアは大事にしているようだった。

神尾「だといいけどね…」
俺「雨月も気にしないだろうしさ」
あいつは今日も病院に行っている。
彼女の両親が来る、と聞いた時には少し緊張した顔を見せたが、奴なりに覚悟を決めたようだ。

神尾「雨月君、上手くやっているかなぁ」
俺「どうだろうなぁ…後でじっくり聞いてやらんとな」

2/12
神尾「…でさ、今日呼んだのはちょっと相談事でね」
俺「あぁ。あの話?」

鮎川さんが怪我をした経緯は、俺も雨月も話を聞いている。
それについて、やはり神尾さんの中では、原因を…犯人を突き止めたい気持ちがあるようだった。

俺「霊視していて、だよな。そうなるとやっぱり、何か危ないものでも見たのだろうなぁ」
神尾「多分ね。ちょっと調べてみたけど、霊視中に目を…って稀にあるみたい」
俺「問題は何を見たのか、だよな。でもそれだと、やっぱり本人に聞くしかないんだよなぁ…」

当たり前の話だ。本人に何を見たのかを聞くのが一番早い。
…が、それがそうもいかない事態なのだ。

神尾「古乃羽、覚えてないって言うのよね…」

そう。あの後、目を覚ました彼女に聞いてみたのだが、「何を見たのか覚えていない」と言う。
病院に運ばれて手術して、気が付いたら記憶がサッパリ、ということだった。

3/12
俺「ショックで記憶が…って事なんだろうな」
神尾「…多分ね」
責任を感じているのか、神尾さんが少し沈んだ顔になる。

俺「雨月のお姉さんに、相談できれば良いんだけどなぁ」
神尾「連絡取れないのよね…。どうしても繋がらないの」
俺「ここ来る前に雨月に電話して聞いたけど、あいつも同じだってさ。
でも何か、お袋さんに聞いたら、3日くらい帰らないかもって言っていたらしいよ」
神尾「あぁ、そうなんだ。…でも、電話が通じない、ってのは何かなぁ」

本来ならお姉さんに相談したい事なのだろう。
まぁ、当たり前だ。俺は霊感とか無いから、霊視が原因とか言われるとちょっとお手上げだ。
となると、ここはやはり…

俺「やっぱり、分かる人に相談するしかないよな…」
神尾「…お願いできる?」
俺が相談するといったら、あの婆さんだ。どうやら神尾さんもそれが目的らしい。…いいさいいさ。俺もいつか、頼れる男になってやるんだ。

俺「おう。ちょっと電話してみるよ」
グイと珈琲を飲み干し、俺は携帯を取り出した。

4/12
神尾「――ここかぁ」

珈琲に軽くむせてから約1時間後、俺と神尾さんは牧村さんの家の前に立っていた。
神尾さんが直接会って話をしたいというので、車に乗せてここまでやって来たのだ。
俺「あぁ。中々雰囲気のあるところだろ」
神尾「そうね。1人じゃちょっと入りづらいかな…」

確かにそうだろう。佇まいは田舎の文房具屋みたいな感じだが、なにしろ看板が無いので、店かどうかも分からない。
俺「まぁ、とにかく入ろう」
神尾「うん」

ガラガラと引き戸を開けて中に入ると、真っ昼間にも関わらず、店内は相変わらず薄暗い。
俺「こんちわー」
電話で訪ねる旨は伝えていたので、奥に向かって声を掛けると、すぐに婆さんが出てくる。

牧村「はいはい、こんにちは。よく来たね」
俺「やぁ婆さん、元気そうで。あ、彼女が電話で言った神尾さん」
神尾「神尾美加です。はじめまして」
ペコリと挨拶をする。
牧村「どうも、はじめまして。牧村シズエと申します」
そう言って婆さんは白髪の頭を下げる。
神尾「あの、今日は…」
牧村「あぁ、奥で話そうかね」
そう言って婆さんは俺たちを奥の座敷に通してくれる。

…残念ながら、「可愛い彼女だねぇ」みたいな嬉しい勘違いは、一言も言ってくれなかった。

5/12
牧村「…で、今日はどうしたんだい?相談事があるって言っていたけど」
婆さんがお茶を出してくれながら聞いてくる。

神尾「あ、えーっと、その前に…」
神尾さんが俺の顔を窺う。そう、先にあの事を言っておかないとな。
俺「あのさ、相談事もあるんだけど、その前にちょっと…」
牧村「ん?なんだい?」

俺「この間まで知らなかったんだけどさ。婆さん、雨月の…舞さんと知り合いだったんだな」
牧村「舞って…あれ?知っているのかい?」
そう言ってキョトンとする。
その顔は中々愛嬌があり、ひょっとしたらこの婆さん、若い頃は結構可愛かったのかも知れない…なんて思わせる。

そんな婆さんに、俺たちと光一、その姉の舞さんとの関係を話す。

牧村「あらあら…驚いたねぇ…」
俺「俺もビックリだよ。知り合いとは思わなかった」
牧村「世間は狭いねぇ…」

本当は、白谷佳澄――婆さんの曾孫に当たる彼女との関係もあるのだが、
直前に神尾さんと相談した結果、それは言わないでおこう、という事になった。

それを言うと、あなたの曾孫さんに殺されそうになりました…なんて話になってしまう。
それに雨月から聞いた話からすると、白谷さんの事については、触れて欲しくないだろうから。

6/12
神尾「それであの、相談したい事があるのですが…」
雨月との関係を話した後、神尾さんが本題に移る。
牧村「なんだい?」
神尾「あの、まずこれを…」
そう言って神尾さんは、持ってきたバッグから例の名刺を取り出し、そっと卓袱台に置く。
牧村「…名刺だね」
婆さんがそれを手にとって見る。
牧村「往来会…桐谷?知らない人だねぇ…」

神尾「私の親友で鮎川古乃羽って子がいるんですけど…舞さんとも知り合いの子で」
牧村「ふむふむ」
神尾「彼女、霊視ができる子で…先日、その名刺を霊視したんです」
牧村「ほぉ…。また、何で?」
神尾「それは――」
神尾さんは大学で名刺を貰った経緯と、その翌日に流れたニュースの話をする。

牧村「へぇ…。変な話だねぇ」
神尾「そうなんです。それで気になって、私が古乃羽に霊視をお願いしたんです。そうしたら…」
牧村「そうしたら?」
…少し辛そうな顔をする神尾さん。
自分の口から説明すると言っていたので、俺はそれをジッと見守る。
神尾「途中で突然目を抑えて、血が…。瞼が切れていました。もう少し傷が深かったら、失明していたかも、と」
牧村「あらまぁ…」

お悩み相談Aへ続く
怖いサイト.com
ベストヒットナビ
感想・雑談はコチラ
もっと探す@AB
[戻る]
- mono space -