作戦(前)A

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受付「神尾様――」
私「あ、はい」
早速名前を呼ばれたので、席を立ち、2人で受付に向かう。
先に待っていた人達の視線を感じるが、こちらはちょっと特殊な用件なのよ、と心の中で弁解する。

受付に行くと、そこにはスーツ姿の男の人が来ていた。どうやらこの人が、私たちの「相手」みたいだ。
近付くとペコリと頭を下げ、名刺を差し出してくる。
男「はじめまして。私、本会の広報部長で汐崎と申します」

私「どうもはじめまして。神尾です」
北上「北上です」
それぞれ名刺を受け取り、こちらも頭を下げる。
お互いにペコペコ。外国だとここで握手なのかな、とか意味のないことが頭をよぎった。

汐崎「それでは、どうぞこちらへ…」
そう言われてついて行き、私たちは応接室のようなところに通される。

汐崎「どうぞお掛け下さい」
私たちに椅子を勧め、自分も座る。…と同時に、女性がお茶を持ってきてくれる。
この人がまた綺麗な人で、スーツ姿に網ストッキングといった、大分色っぽい格好をしている。

9/13
汐崎「何でも、亡くなった桐谷から名刺を受け取ったと聞きしましたが…」
網ストの人が退出すると、早速本題に入る汐崎さん。

この人、40歳過ぎくらいかな?名刺を見ると、下の名前は「祐一」と書いてある。
ピシッとスーツを着込んでいるが、堅苦しい訳でもなく、柔和な感じで話しかけてくる。
一言で言うと、親戚の優しいおじさん、ってとこかな。…分かる?

私「はい、この名刺なんですけど…」
そう言って名刺を出す。
汐崎「ふむ…」
名刺を手に取り、しげしげと見つめる汐崎さん。
私「2日前に頂いたんです」
汐崎「確かに、桐谷のものですね」
私「はい。ニュースで見て、びっくりしました。もう亡くなっているって…」
汐崎「ですね…。これは不思議な…」
私「でも名刺をくれた人、桐谷さんじゃ無いんです」
汐崎「…はい?」
え?という顔をする汐崎さん。
わざとここまで言わないで唐突に告げてみたのだが、その反応が演技なのかどうか、判断は付かなかった。

私「私が会った人って、ニュースで出た人とは別の人なんです」
汐崎「別の人、ですか…」
私「はい」
汐崎「…詳しくお話頂けますか?」

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私「2日前、私が大学の学食で食事しているときに、男の人が来たんです」
汐崎「ふむ」
私「で、その人が往来会の桐谷ですって名乗って、この名刺をくれました」
汐崎「桐谷を名乗った…」
私「はい。用件は、スカウトの話でした」
…よし。私、ウソは付いてないぞ。

汐崎「なぜだろう…」
眉を顰めて悩んでいる。本当に分からないのか、それとも…?

私「悪質な悪戯なのかなぁ、って思ったのですけど」
汐崎「ですかねぇ…」
名刺を手に、何事か考えている素振りを見せる。…ダメだ。その表情からは何も読み取れない。

汐崎「その男ですが…」
私「はい」
汐崎「どんな格好をしていましたか?」
私「格好は――」
聞かれると思った。
私「ラフな格好でした。Tシャツにジーンズで」
汐崎「Tシャツ…?」
あれ?という顔をする。
汐崎「それでは、うちの者じゃないかも知れませんね…。うちは、スーツ着用が義務付けられていますから」

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私「あぁ…そうなんですか」
そう言われるだろうとは、思っていた。
汐崎「えぇ。広報部では、特に徹底しています」
私「ということは、やっぱり…」
汐崎「そうですねぇ。うちとは関係の無い、第三者の悪戯かと思いますよ」
当然、そういう話になるだろう。
…でも、ここから探っていくのだ。

私「あの、こちらではああいったスカウトというものを、いつも…?」
汐崎「えぇ。うちは広報部でスカウトも担当していますが…、ああいった、というと?」
…軽くカマをかけたつもりだったけど、少し甘かったか。

私「私みたいに霊感とかまったく無い人でも、対象になるのかな、って」
汐崎「あぁ。勿論、そういうこともありますよ」
そう言って、ニコニコしながら答えてくる。

汐崎「私たちの中にも霊感のない方は居られますし…事務の方とかですね。
それに元々霊感がない方で、本会に入ってからそれが身に付いた、という方も居ます」
私「へぇ…」
修行でもするのかな?興味があるけど…今はそれどころじゃない。

私「あの、そのとき…スカウトをするときって、予め相手の事を調べるのですか?」
汐崎「…と、言いますと?」
私「霊感の有る無しって、どうやって知るのかな、って」
汐崎「あぁ…、なるほど」
そのことですか、という顔になる。

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汐崎「それは、各自で判断していますね」
私「各自?」
汐崎「広報の人間が、その場で判断するのです。我々は、相手を一目見れば分かるのですよ。そういった者が配属されています」
私「へぇ…」
よし、この流れでいけるかな…?

私「じゃあ、予め色々調べて、っていうことはしないのですね」
汐崎「そうですねぇ…。今のところ、そういうことはしていない筈です」

私「だとすると、やっぱり、あの人は違うのかな…」
汐崎「あの人…この名刺を渡してきた方ですか?」
テーブルに置いた名刺を見て、訪ねてくる。

私「はい。あの人、私の名前を知っていたので…。突然名前で話し掛けられて、びっくりしました」
汐崎「それは驚くでしょうねぇ」
私「何だか気味が悪くて…。ほら、私の名前ってちょっと変わっているから…」
汐崎「ん…?」
そう言うと、少し考える素振りをする。これは掛かったかな…?
私はまだ、フルネームは教えていない。
ここで納得するようなら――

汐崎「えっと…すみません。下のお名前は…?」

……
はずれた…

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私「あ、すみません。美加、って言います。…だから、下から読んでも同じなんです」
汐崎「神尾、美加さん。かみ、お…、なるほど。本当ですね」
本当に、今気付いたような表情だ。私にはどう見ても、演技とは思えなかった。
私「そうなんです。だから――」

――ここまで。残念ながら、私にはもうこれ以上、何も引き出せそうに無い。
私はそう判断し、適当に取り留めの無い話をした後、ここを出ることにした。

帰り際、名刺はどうします?と聞かれたが、事件に関係する可能性もある、ということで、私の方から警察に届けることにした。
そうされると困るかな?と思ったが、それが良いでしょう、と簡単に言われる。
本当に、他意はないようであった。

どうやら、私の作戦は完全な空振り――失敗だったみたいで、関係を探るつもりが、何一つ分からないという結果に終わった。
我ながら下手なやり方だったとは思うけど、ちょっとショック…。

……
…でも、まぁいっか。

失敗したのは私の作戦だ。もう1つの方はきっと上手くいっている。
私はそう信じ、出口に向かいながら、隣を歩く北上を見た。
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