作戦(後)

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神尾「あーぁ…私、あーゆーの向いてないよね…」
往来会から外に出て、ガックリと肩を落とす神尾さん。

俺「カマ掛けたりっての?」
神尾「うん…」
俺「まぁ…悪い事じゃないさ。うん」

神尾さんには悪いが、俺もそう思ってしまった。
話の持って行き方が強引と言うか…そもそも引っ掛かりそうなものでは無かった気もする。

神尾「うー。向いてない、っていうのはフォローしてくれないのね」
俺「ハハ…。バレやしないかって、隣でビクビクしていたよ」
そう言うと、神尾さんは俺のことをポコポコと叩いてくる。
ジャレあっているようで、ちょっと嬉しい。…決して、叩かれて喜んでいる訳ではない。

神尾「人を騙せない、純粋な子ってことにしといて」
俺「あいあい」
頬を膨らませる神尾さんを宥め、車に乗り込む。
神尾「…少し離れようね」
俺「あぁ」

…そう。
作戦の終了は、不審に思われない場所まで離れてからだ。

2/10
――車で往来会を出て、適当に走ること約10分。
手頃なコンビニが見つかったので、俺はその駐車場に車を入れる。

俺「ここで良いかな?」
神尾「うん」
俺「さて…」
俺はポケットから携帯を取り出し、それを確認する。
俺「お、まだ切れてない」
そう言って、携帯を"そのまま"耳に当てる。

俺「…もしもし?平気?切れなかった?」
声「…ずっと繋がっていたよ」
よかった。俺は親指を立て、神尾さんに作戦成功を伝える。

俺「…で、どうだった?婆さん。聴いていて、何か分かった事ある…?」

これが俺の考えた作戦。
「耳が良い」という牧村の婆さん。
…ならば、携帯を通して往来会の様子を聴いてもらおう、って単純な考えだ。

牧村「その前にさ…」
俺「ん?」
牧村「そのお嬢さん、下手だねぇ…。心臓に悪いよ」
俺「…」
俺は助手席でこちらを窺っている神尾さんを見る。
ん?何?という顔をする神尾さん。
…まぁ、言わないでおこう。

3/10
俺「まぁ、それはそれで…。どうだった?何か変なところとか無かった?嘘があったとか、何でも良いんだけど」
牧村「嘘は無かったね」
俺「あら…」
あっさりと言われる。
やっぱり、嘘は無かったか。
あの汐崎ってオジサン、人の良さそうな感じだったからなぁ。

俺「あの人、本当に何も知らなかった?汐崎って人」
神尾さんにも伝わるよう、聞きなおす。
牧村「そうだね。裏の無い、素直な感じだったよ」
俺「そっかぁ…」
ちょっとガッカリだ。
反応を見て分かったのだろう、神尾さんも少し残念そうな顔をしている。

俺「じゃあ、往来会はシロか…」
牧村「いや」
俺「ん…違う?」
牧村「灰色くらいかねぇ」
俺「灰色?」
神尾「…何かあったの?」
俺の言葉に神尾さんが反応する。

4/10
俺「何かあった?」
俺は神尾さんの言葉を受け、婆さんに聞き返す。
牧村「別に、それが何だと言われると、何でもないかも知れないけどねぇ」
神尾「何?何て言っているの?」
神尾さんが急かしてくる。
俺「気になるところがあったみたい。…どんなとこ?」
神尾さんに答え、電話に戻る。

牧村「ずっと、あんた達を見ている人がいたよ」
俺「…見ていた?」
牧村「あぁ」
気付かなかった。神尾さんも気付いていないだろう。

俺「それ、普通に見ていたってこと?隠しカメラとか?」
牧村「普通とは言えないね。もちろん、カメラでもないよ」
俺「…」
ならば、俺たちにはお手上げだ。
俺「いつから?館内に入ったときから?」
牧村「いや。どこか、部屋に入ってからだね」
部屋…あの応接室っぽいところか。
牧村「一度普通に来て、あんた達のことを確認して、"目"だけ置いていった、ってところだね」
俺「え…?」

一度普通に来た?

…えーっと、あの部屋に普通に来て、出て行った人といえば――

5/10
「あ…!そんな、自分がやりますから」

神尾、北上という2人の学生を見送ってから応接室に戻ると、お盆を持った女性が湯飲みを片付けていた。

女「…良いのよ。座っていて」
そういう訳にもいかず、私は慌ててそれを手伝う。

私「あの、何でこんな…?」
どうにも疑問だった事を聞いてみる。
女「何で、って?」
私「いや、その…おかしいですよ…」
女「あら、そう?お茶汲み、似合わないかしら」
そう言いながら湯飲みを片付け終わると、屈みこんでテーブルを拭き出す。

豊かな膨らみを強調するためか、苦しくて仕方なくなのか、彼女はブラウスの上の方のボタンを外しており、スーツの上着も胸元が開いている。
そんな格好で屈みこまれると、こちらとしては目のやり場に困ってしまう。
しかもスカートは短めで…少なくとも、お茶汲みをする格好とは言えない。

女「…おかしいって、服装のことかしら?」
視線に気付かれ、軽く茶化される。
私「あ…いや、そうではなくて…」
まさか「そうです」とも言えないが、彼女はそれくらい分かっているだろう。
…分かっていて聞いているのだ。

6/10
私「何か目的が?」

テーブルを拭く彼女に聞いてみる。代わりにやろうと思ったが却下されてしまい、私は大人しく座っていることにした。
女「えぇ、それは勿論」
私「ご自分でお茶を出すなんて、よっぽど…?」
女「そうねぇ…」
拭き終わった台拭きをたたみ、それをお盆に載せると、彼女はテーブルを挟んで私の前に座り、脚を組む。
…ここのテーブルは、膝下程度の高さしかない。
それなのに、短いスカートでそんな風に座ったら――と思い、私は慌てて視線を逸らす。

からかわれているのか、試されているのか?この人の悪いクセだ。
私ごときを魅了したところで、何も良い事は無いというのに。
…しかし何れにせよ、変な目で見るわけにはいかない。そんなことをすれば、私は――

女「どうしても、近くで確認したかったの」
そう言って、彼女はジッとこちらを見つめてくる。勘違いしそうな程の、熱い視線。彼女ほどの美人に、こんな風に見つめられたら…
私「確認、ですか…」
…しかし、私は知っている。この視線は、私の心の奥底を見ようとしているだけだ。
それに対し、こちらは全てを晒しださなければならない。何一つ、隠し事は許されない。

女「汐崎部長」
不意に口調が変わる。
私「…はい」
女「どう思いました?あの2人のこと」

7/10
私「特に霊感はない、普通の人達ですね。名刺の件は、少し不思議に思いましたが…」
女「そう、普通の子だったわね…。不思議に思ったのは、どんな点?」

私「勧誘の真似事をして名刺を渡すなんて…変な事をするものだな、と…」
女「そう、変な事。不思議よねぇ…」
彼女の視線が強くなるのを感じる。
何故だ?私は今…チェックされている?

女「…そんなに固くならないで良いのよ?」
私「はい…」
無理な話だ。何故こうされているのか、意味が分からない。
女「良いの。分からないのが良いのよ」
私「…」
思考さえ完全に見透かされている。今は余計な事を考える事はできない。

女「汐崎さんって、本当に…優秀ね」
私「…?あ、ありがとうございます」
優秀?どういう意味だ?少し考えれば分かりそうな事だが、今は何も考えてはいけない。

女「それで――」
不意に視線が弱まるのを感じる。どうやら、チェックは終わったみたいだ。
私はホッと肩の力を抜く。
女「他には何も思わなかった?」
私「他に、ですか…」

8/10
他に何かあっただろうか?…分からないな。
私「いえ、特に何も」
正直に答える。それがこの人の望む事であるということは、よく知っている。
私はこうやって、この地位まで登り詰めたのだ。

女「そう。それは良かったわ」
私「…」
何も無いのが良かったのか…?本当によく分からない。
女「見事な鈍感力ね。立派だわ」
鈍感力…。どうやら、褒め言葉として使っているようだ。

女「でも、教えておいてあげる。もし次があったとき、知っておいて欲しいから」
私「…はい」
何だろう?

女「遠目にあの2人を見たときね、違和感があったの」
私「違和感ですか…」
女「そ。それをちゃんと確認したくて、近付いてみたのよ」
私「それなら、普通に相席なさっても…」
女「…」
私が言うと、彼女はやや不機嫌そうに髪を――セミロングの髪をかき上げ、脚を組みなおす。
私はそこを見てしまいそうになるのを、必死で抑えた。…どうやら、気に障る意見だったようだ。

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女「私にも事情があるの」
私「はい…申し訳ありません」
頭を下げて謝ると、彼女は軽く笑い、話を続ける。
女「近付いてみて、何がおかしいか分かったわ」
私「何でしょう…?」
女「耳が多かったの」

私「…は?」
女「分からない?2人なのに、耳が3人分あったの」

私「…」
女「だから、こっちは目を置いておいたわ」
私「はぁ…」
私も一応霊感のある人間だが、ここまでくると理解が及ばない。

女「まぁ、そういうこと。心に留めておいてね」
私「はい…」
意味は分からないが、覚えておこう。

女「それじゃあ、ね」
そう言って彼女が急に席を立つので、私も慌てて立ち上がり、先に進んで扉を開けておく。
女「あら…、ありがとう」
私「いえ…」
座ったまま送り出すなど、私の立場上、許されない。

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女「あ、お盆、お願いしてよろしい?」
私「はい。片付けておきます」
女「ありがとう。よろしくね」
そしてニッコリ笑うと、彼女は去っていく。

私「おつかれさまでした」
私は頭を下げ、その後姿を見送る。
年齢こそかなり下の相手だが、こうして頭を下げる事に抵抗はない。
なにしろ相手は、あらゆる意味で自分より”上”の人間だから…。

彼女の見送りが終わると、私は再び室内に戻り、椅子に身を落とす。
まさに、蛇に睨まれた蛙と言ったところだった。
背もたれに体を預け、天井を仰ぎ、深く息をつく。

どうもあの人の…いや、あの人を含む、上の人間の考えている事は分からない。
私が知る由も無いが、怪しげな事をしている可能性も否定はできない。

…だが、うちの会が人助けをしていることは確かな事実だ。
それがあるからこそ、私はここで働いていられる。

たとえ鈍感であると言われても…それで、構わない。
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