袋小路@

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北上に車で送ってもらい、家に着いたときは22時を過ぎていた。
別れ際に何か――期待するような、何か言いたそうな顔をしていたけど、大人しく帰ってくれた。

玄関を開けて部屋に入ると、私はすぐに着ているものを脱ぎ捨て…ほっぽり投げ、浴室に直行する。
そして頭から熱いシャワーを浴び、フー…っと一息つく。
こういうのってオヤジくさいって言うのかな?
「あ〜」とか「う〜」とか、意味の無い声も出てしまう。

本当は湯船に浸かりたいところだけど、うちのお風呂は追い炊きができないこともあり、1人暮らしでそんな贅沢はできない。
肩まで…何なら頭までお湯に浸かりたい、という欲求はある。
それが思う存分できるところ…例えば、そう、温泉に行きたい。銭湯じゃなくて、温泉。

そういえば、古乃羽が雨月君に温泉に誘われたと言っていたっけ…?
まったく、羨ましい限りだ。
私も是非一緒に行きたいところだけど、まさかそんな野暮ったいことをする訳にもいかないしなぁ…。
せめて誰か、もう1人居れば…?と考えると、出てくるのは北上になる。

うーん…。

2/16
シャワシャワと頭を洗いながら、今日の事を考える。

今日は1日中、あいつを引き回してしまった。
昼に呼び出して、牧村さんのところに行って、往来会に行って…その後は適当にご飯を食べて、家まで送ってもらった。

最後…1日付き合ってくれたのだから、部屋に上がって貰って、お茶くらい出してあげるのが礼儀ってやつだったのかも知れない。

…でも、時間が時間だ。
こんな遅くに部屋に招く――しかも、私に気があると分かっている男を招く――なんて、さすがにマズイ。
古乃羽にだって分かるくらい、マズイ。
そうと分かっていて…変に期待させて何もさせない方が、逆に悪い気がしてしまう。

ハァ…

シャンプーを洗い流しながら、先ほどとは違う意味のため息が出る。
私って、イヤな女…?イジワル?悪い事している…?
今日の事を古乃羽に言ったら、ちょっと怒られそうな気がしないでもない。
いつまでも昔のこと…って。

でも、まだ、無理…。無理よ…。

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…あ。

トリートメントに手を伸ばしたところで思い出す。
そうだ、古乃羽。
古乃羽に、聞かないといけないことがある。

牧村さんは「灰色」って言っていたけど、往来会には怪しいところがあることが分かった。
それを踏まえて、古乃羽に聞かないと――気付かない振りをしていたことを、聞かないといけない。

明日、病院に行こう。
きっと雨月君もそこに居るだろう。彼にも聞いてもらわないといけない。
それと…北上も呼んでやるか。ここにきて蚊帳の外じゃ、さすがに可哀想だ。

そうと決めてから、一通りのお手入れをしてお風呂を出ると、時刻は23時を過ぎていた。

少し身体を冷ましてからベッドに入り、寝ることにする。

1日駆け回って疲れたからか、変に思い悩んでしまったからか…
何だか人肌恋しかったので、今日はラット君を抱いて寝ることにした。

4/16
――朝。病院の朝。

入院していると、必然的に生活が規則正しくなる。
…と言っても、たまに包帯を交換してもらうくらいで、特に検査などをするわけではない。

うーん、こんな風にここに居ていいのかなぁ…なんて思ってしまうけど、4人部屋になっているこの病室、私以外は現在、誰も居ない。
そんな状況だから、病院側も私なんかの入院を許可してくれたんだな、と勝手に解釈する。

…そんな事を思いながらボンヤリ過ごしていると、お昼を過ぎた頃になり、彼がお見舞いに来てくれる。
私が入院してから、自然と2人きりで過ごす時間が多くなった。
このことは、ちょっと嬉しい。怪我の功名ってやつかな?

でも、嬉しいだけに…後ろめたい気持ちがある。
皆に黙っている事。嘘をついている事。でも、理由がハッキリと分からないうちは――

雨月「…どうかした?」
私「あ…ううん」
雨月「そか。何か元気なさそうに見えたからさ」

そう言って彼は、私の手を握ってくれる。
私は無言でその手を握り返し、平気だよ、と伝える。

やっぱり、言わないとな。彼にも、みんなにも悪いや。
いくら、あの…

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声「古乃羽〜、元気にしてる〜?」
ガラガラッと病室の扉が開き、元気な声が聞こえてくる。
美加の声だ。

美加「やや…、お邪魔だったかな?」
きっと彼を見てのことだろう、軽く冷やかされる。…もう。

声「お、やっぱ雨月も居たか」
もう1つ声が聞こえる。…北上君の声だ。
美加、一緒に来たんだ。これはちょっと良い傾向かな…?

雨月「あぁ。どうしたんだ?2人して」
美加「ん…、ちょっとね」

…あれ、声のトーンが下がった?

美加「古乃羽と、お話しようと思ってさ」
北上「俺も来い、って呼び出された」

古乃羽「…美加、なぁに?」
美加「んーとね…まずは、アレ。私たちね、昨日、往来会に行ってきたの」

雨月「…へ?」

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ベッドで上体を起こした状態の私を囲み、美加と北上君が、昨日あった話をしてくれる。
それは、牧村さんのところに相談に行き、その後そのまま往来会に直行して…という話だった。

雨月「灰色、ねぇ…」
私のすぐ横の椅子に座っている彼が、ポツリと呟く。

北上「なんとも、半端なところだよな」
美加「そうなのよねぇ…。でもまぁ、何か怪しい点がある、ってことは分かった訳よ」
雨月「ふーん…」
私「…」

怪しい、かぁ…。
確かに怪しいところはあるかも知れないけど、美加たちを見張っていた、っていう事だけじゃ、一概にそうとは言えない気もする。
だから牧村さんも、「灰色」だと言ったのだろう。

…でも、実際にその場に行った美加がそう感じたのなら、私に異論は無い。

美加「それでね…」
美加が話を続ける。

この時点で、私には彼女の目的が分かった。
…いや、最初から分かっていた。

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美加「あのさ、古乃羽…」
私「…」

美加「えーっと…、あの、霊視の――」
私「…待って」
そう言って私は手を前に出して、美加の言葉を止める。
美加「…」

言わなきゃ。そう、私から言わないとダメだ。

私「みんな…ごめんね」
ペコリと頭を下げて謝る。
北上「ん?なに?」

北上君にはサッパリだろう。
美加は分かっている…長い付き合いだもの、ね。
こーくんは…?彼は、ちょっと事情が違うかなぁ…。

私「あのね…私、嘘付いていたの」
北上「嘘?」
私「うん」
北上「…何が?」

私「霊視をして…何も覚えていない、って言った事」

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北上「…なんでまた」
美加「見えちゃったものに、問題があるのよね?」
私「うん…」
さすがに、美加にはお見通しみたいだ。
そして、彼も何も言わない。きっと、分かっていたのだろうな…。
北上「問題って…何が?」
私「あのね…」

あのときの事――。

私はテーブルに名刺を置き、眼鏡を外す。
そして名刺の左右に両手を置いて、それをジッと見下ろした…瞬間、私はなんとも言えない、嫌な感じに襲われた。
これは見てはいけない…そう、感じた。

でも…。でも、見たい。美加もそれを望んでいる。
私は意を決し、静かに目を閉じ…別の目を開く。

するとそこに、薄暗い部屋が見えてくる。…見たことの無い部屋だ。
その部屋の真ん中に、誰かの座っている姿…後ろ向きに、正座をした姿が見える。
薄暗い中、ジッと俯き加減で、静かに座っている。

誰だろう?暗くてよく分からないけど…知っている人…?
私は意識を集中し、それに注視する。

…すると、その人が何かに気付いたように、顔を上げ…こちらを振り向く。

それは…舞さんだった。

袋小路Aへ続く
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