袋小路A

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――
俺「…姉貴?」
古乃羽の話を聞いて、思わず声が出てしまう。
何か隠し事があるとは分かっていたけど、霊視をしたら姉貴が見えた、って…どういうことだ?

神尾「やっぱり…」
神尾さんが、予想通りだったという感じでつぶやく。

…確かに、ありえる話か。
あの古乃羽が嘘を付いて、隠し事をするくらいだ。
俺にも神尾さんにも言えない理由としては、一番シックリくる。

じゃあ、まさか姉貴が古乃羽の目を…?
…いや、違う。姉貴は絶対に、そんな事はしない。
白谷さんの件で、俺は姉貴を疑う事は絶対にしないと決めた。…何があっても信じると決めた。

神尾「古乃羽、それで?」
神尾さんが話を促す。
古乃羽「うん…。ここからがちょっと…私もビックリしちゃって」
俺「どうなった?」

古乃羽「え、何で?って思ったら、目の前が真っ暗になってね。それから突き飛ばされるような感じがして、その後…、ヒュッって、何か、鋭利なものが…」
言いながら、古乃羽が包帯をした目に手を当てる。

あっ…と思い、俺は古乃羽の話を止める。
そこで、目を切られた訳だ。

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俺「悪い。嫌なとこまで思い出させたか」
古乃羽「んーん、平気…」

目を切りつけられるなんて、想像しても嫌なことだ。
その痛みもそうだが、それ以上に、刃物に対してトラウマができそうに思える。
例え外見には浅い傷だったとしても…それが簡単に治る傷だったとしても、心には深く傷が付いてしまうかもしれない。
俺は傷の具合と共に、その点も心配だった。

神尾「…古乃羽、直前に突き飛ばされたの?」
古乃羽「うん」
神尾「そっか、じゃあ…?」
神尾さんが俺を見る。
…あぁ、俺も同意だ。これで安心した。

北上「舞さんが助けてくれたってことか?」

…お?意外な発言。
俺「かな?突き飛ばしてくれたお陰で、傷が浅くて済んだって事じゃないかな」
神尾「きっと、そうだろうね。北上、少しは頭が回るようになったじゃない」
北上「ふ…まぁな」

少しは、って…どんだけお前は下に見られているんだ?と、突っ込みたくなったが、
それで喜んでいる北上を見ると、気の毒になったので止めておいた。

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神尾「でも、そういうことなら…古乃羽、何で黙っていたの?舞さんが押してくれて助かった、って分かっていたでしょ?」
古乃羽「…」

そうだ。古乃羽だって、それくらい分かっていただろう。
それでも黙っていた、その理由として考えられるのは…
俺「…姉貴に言われたか?」

そう言うと、古乃羽がハッとしてこちらを向く。
古乃羽「…うん。すごいね、よく分かったね…」
俺「…まぁ、勘だ」
他に思い浮かばなかった。古乃羽が俺たちに嘘を付くとしたら、そんなところだろう。

神尾「言われたって、いつ?連絡、取れていたの?」
古乃羽「ううん。言われたのは、目の前が暗くなる直前。舞さんが指を立てて、口の前に…シーって」
ジェスチャーか。でも、それだけで…?
と、疑問が浮かんだが、古乃羽が続けて言う。

古乃羽「それと同時に舞さんと目が合ってね、言葉が伝わってきたの。言わないでいてね、って…」

…なるほど。

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北上「でも、何で雨月のお姉さんが見えたんだろ…?」
北上がもっともな疑問を口にする。

神尾「…古乃羽、分かる?」
古乃羽「ん…、多分…」
ポツリと答える古乃羽。

古乃羽「私ね、あの名刺の持ち主…桐谷さんに関わった人を探そうと思って、見てみたの」
神尾「関わった人…」
古乃羽「うん。名刺について何か知っている人が見えないかな、って思ったから」
俺「じゃあ、それで姉貴が見えたってことは――」

神尾「舞さんと桐谷って人、会った事があるってこと…?」
古乃羽「多分…」
俺「…」

その桐谷は、何者かに殺されている。
そして、姉貴は今…行方が分からない。更に、古乃羽に謎の口止めもしている。
この状況は良くない。ものすごく、良くないぞ…。

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古乃羽「こーくん…」
俺「…ん?」
古乃羽が俺の方に片方の手を伸ばしてきたので、その手を取る。
北上たちの前で少し恥ずかしい気もするが、まぁ、構わない。

古乃羽「お姉さんのこと、信じてる?」
古乃羽がこちらを見て聞いてくる。
包帯を巻いているので見えないが、今彼女がどんな目をしているかは良く分かる…。

俺「もちろん。信じているさ」
古乃羽「…良かった」
古乃羽が安心したように言い、繋いでいる手に両手を添えてくる。
…さすがにちょっと恥ずかしい。

神尾「あー…コホンコホン。舞さんの事は同意だけど、じゃあ、どういうことだと思う?」
わざとらしい咳払いをして、神尾さんが誰とも無く問い掛ける。

北上「会った事があるのは、事実だろうなぁ」
古乃羽「うん。そのときの舞さんの印象が強かったから、それが残っていて…見えたと思うの」
俺「印象ね…」
まぁ、姉貴のことだ。印象は強いかも知れない。

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神尾「そうなると、目の前が暗くなって、って言うのは――」
古乃羽「…」
俺「殺されたときのこと、かな…?」
北上「うへ…」
最後に強く印象付けられた事なら、それしかない気がする。

神尾「真っ暗になって…ってのは目隠しでもされて、鋭利な…刃物ね、それで切りつけられた、と」
きっと、そんなところだろう。何とも乱暴な話だ。

俺「古乃羽、大丈夫か?」
そんな場面を見てしまった…ある意味、体験してしまった古乃羽が心配になる。
古乃羽「うん、平気…。ありがとう」
そう言って手を握り直してくる。
いつになく甘えがちな感じがするのは、色々と不安な事があったからだろうな。

神尾「何はともあれ――」
それを横目に、話を続ける神尾さん。

神尾「これから、どうしよっかね」
これから。今これから、俺たちにできることって、何かあるだろうか?

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北上「まさか、犯人探しなんて無理だよなぁ…」
犯人…桐谷って人を殺した犯人探しか。
俺「それは、警察に任せるしかないよな」
いくらなんでも、俺たちはまったくの素人だ。何をできる訳でもない。

神尾「そうなのよねぇ…。なーんか、もどかしいなぁ」
腕を組み、ため息混じりに神尾さんが言う。
分からない事だらけでモヤモヤしているのが、彼女には我慢できないようだ。

桐谷のこと。
名刺のこと。
往来会のこと。
それと、姉貴のことも、かな。

ただの学生である俺達には、人が殺されたとか、それなりに大きな団体が相手となると、どうしようも無くなってしまう。
いくら頭を使って考えたとしても、限界がある。
何とか調べてみようとしても、限界がある。

広い世間の中では、その力の無さを思い知らされてしまう。
それが、少し悔しい…。

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古乃羽「明日になれば、舞さん帰ってくるのかな」
古乃羽が独り言のようにつぶやく。
俺「…その筈だな」
お袋に「3日くらい出掛ける」と言っていたらしいから、明日には帰ってくるだろう。

神尾「3日くらい、って話だったよね?”くらい”だから、明後日とかになる可能性もありそう…?」
俺「うーん…。うちのお袋、心配性でさ。姉貴もそれは良く知っているから、少なくとも連絡はあるはずだよ」
そうであって欲しい。…いや、そうでなくちゃ駄目だ。

北上「じゃあ、それからかな?」
古乃羽「それが良いよね。…美加、それまで無茶なことしたらダメだよ?」
神尾「へいへい、大人しくしていますヨ」
口を尖らせて了承する神尾さん。

明日には古乃羽の抜糸も終わり、退院できるだろう。
姉貴が戻ったらまた集まろう、ということにして、その場は解散した。

お手上げ状態の俺たちは、また姉貴を頼る事になった。

…しかし、その翌日――更にその次の日になっても、姉貴は帰ってこなかった。
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