暗躍@

1/14
カラ〜ン コロン…コロンカラ〜ン…

「本日のお勉強終了」を告げるチャイムが鳴り響く。
うちの高校は普通のキンコンカンコンのチャイムだけでなく、5限の後の終礼が終わると、独特のチャイムが鳴る。

声「真奈美〜?」
終礼直後のざわついた教室で帰り支度をしていると、隣のクラスから友達のハナがやってくる。
私「はーい、今いくー」
クラスの子にバイバイと挨拶をして、廊下で待つハナのところに行く。

ハナ――本名、立花華絵(たちばな はなえ)は、私の家の近くに住んでいる、小さい頃からの親友だ。
私がお父さんの言うことを聞いて大人しく女子高に入ったのは、ハナが一緒だったから、ってこともある。

下校時間の廊下を歩いていると、教室から到底年頃の乙女が発するとは思えない声が聞こえてくる。
キャッキャウフフではなく、ギャーとかゲェーとか。
大声で男言葉を叫んでいる子もいる。
世の中には、「ごきげんよう」なんて挨拶する女子高もあるのに(?)、ちょっとした"花園"を夢見ていた私は、入学当初、ガッカリしたものだ。

2/14
学校を出て、2人並んで歩いていく。
家から徒歩で通える距離――15分程で着く距離というのも、私がこの高校に入る事に決めた理由の1つだ。
お父さんとしても、その点は良かったのだろうな、と思う。
家が近いと色々と安心だろうし…通学中の電車やバスで、痴漢にあう心配も無い。

ハナ「…でね〜。それがまた美味しくてさぁ。気が付けば完食よ」
私「まーた、もう〜。あれほどダイエットするって言ってたのに」
ハナ「いいの。私、分かったの。時代はぽっちゃりを求めてるのよ」
私「時代ねぇ…」

先日、ハナの体重が私より15キロ程重いことが判明した。…彼女の名誉のために、数字はヒミツ。
それにひどくショックを受けたハナは、「ダイエットして10キロ落とす」と高らかに宣言したわけだけど…

ハナ「5キロ落とせば、ぽっちゃりと言えると思うのよね」
私「5キロって…それでも、そんなに食べちゃダメよぉ」
ハナ「平気平気。来年の今頃には、ばっちりだってば」
私「来年って…、1年計画なのね…」

そんな話をしながら歩いていると、道の先に1人の男性が立っているのが見えた。
何やら、こちらの様子を窺っているような…?

3/14
ハナ「…真奈美、あれ、あの人…知ってる人?」
男に気付いたハナが、私に聞いてくる。
…でも、まったく知らない人だ。私は首を横に振る。
ハナ「なんかさぁ、こっちのこと見てない?」
私「うん…そんな気するね…」
ハナ「もしかして、またアレかな?真奈美に…って」
私「えー、さすがに無いでしょ…」

以前、学校の帰りにハナと歩いていたとき、近くの高校に通っているという男の子に話しかけられたことがある。
突然呼び止められてビックリしたが、更に驚く事に、その男の子は私に告白してきたのだ。
その時は、何と言うか…ハッキリ言って好みじゃなかったので、丁重にお断りしてしまった。
…因みに、そのことはお父さんには言っていない。

私「だって、どう見ても社会人じゃない?道でも聞きたいのよ、きっと…」
立っている男は明らかに20代後半…ひょっとしたら30過ぎかもしれない。
それで高校生相手に、なんて…ちょっと気持ち悪いとか思ってしまう。

そんなことを思って見ていると、その男がこちらに向かって歩いてくる。
私たちは歩みを止めて、思わず身構える。

4/14
男「あの、すみませんが…」
私「…はい?」
恐る恐る対応する。
男はTシャツにジーンズといったラフな格好で、手にはセカンドバッグを持っている。
どこにでも居る、ごく普通の人。
でも、何か変なことされたら…変なこと言われたら、大きな声で叫ぶか、ハナを連れてダッシュで逃げよう。

男「あぁ、そんな警戒しなくても…って無理かな?」
私たちの様子を悟ってか、男が砕けた感じで言ってくる。
でもこのご時世、警戒するな、なんて無茶な話だ。

男「汐崎さんですよね?汐崎、真奈美さん」

私「え…?」
いきなり本名を呼ばれて驚く。
隣のハナも一緒になって驚いている。まさか、ハナの予想が当たり…?
…と思ったけど違うみたいで、男の人はバッグから名刺を取り出し、私に渡してくる。

男「私、こういうもので…」
受け取った名刺を見ると、そこにはこう書かれていた。

「往来会 広報部 桐谷達夫」

5/14
私「あれ…」
男「桐谷といいます。汐崎さん…お父さんには、いつもお世話になっています」

広報部と言えば、そうだ。
お父さんは部長だから…この人は部下になるのかな?

ハナ「おじさんの会社の人?」
私「うん、会の人みたい…」

会社。会。昔からハナは、往来会を"会社"と呼ぶ。
私も小さい頃はそう呼んでいたが、大きくなって物心付いてからは、会社と呼ぶのを止めて、"会"と呼ぶようになった。
会社と呼ぶのに何だか違和感があったからだけど、呼び方を変えたことに対して、お父さんは何も言わなかった。

私「あの、桐谷さん…?父のことで何か?」

お父さんの勤め先の人が相手なので、ここは少し、お行儀良くしないとな。

桐谷「そうですねぇ…」
何か考えるような素振りをする桐谷さん。
用事があった訳じゃないの…?

6/14
桐谷「えーっと…真奈美さんは、霊感などは…?」
いきなり突拍子も無いことを聞かれる。

私「霊感、って…」
お父さんの仕事がそういった関係のことだって知っているけど、何で私に聞くの…?
私「そういうの、分からないです。多分、無いと思うけど…」

桐谷「ですよねぇ…」
む…。分かってるなら聞くなっ、と言ってやりたくなる。
桐谷「それじゃ、勧誘するのもおかしいか…」
桐谷さんが独り言のように、何か呟く。
私「はい…?」

桐谷「いえ、何でも…。では、私はこれで。お父さんによろしくお伝え下さい」
私「え?」
突然そう言うと、桐谷さんはペコリと頭を下げて、クルッと反転、一度も振り返らず、そのまま去っていく。

私たちはポカーンとして、それを見送った。

7/14
2人で呆けたまま、桐谷さんが去った方を見ていたが…しばらくして、ハナが口を開く。

ハナ「何だったの…?今の」
私「さぁ…」
まったく意味不明だ。
私の手元には、1枚の名刺がある。ただ、これを渡しただけで去っていってしまった。
ハナ「上司の娘さんに挨拶…にしては、随分とつまらないわねぇ…」
つまらないのもそうだけど、わざわざそんな挨拶をする意味も分からない。

私「何だろうなぁー…」
再び歩き出しながら、貰った名刺を眺める。
ハナ「あ、その名刺、本物?もしかしたら、おじさんの知り合いを装ったアブナイ人かも…」
私「んー、どうだろ…?」

2人で首を傾げながら歩いていると、やがて十字路に着く。
ハナとは家の方向が異なるので、いつもここで別れる。

ハナ「一応、おじさんに聞いてみたほうが良いかもよ?こんな人に会ったんだけど、って」
私「うん、もちろん」
変に心配されそうだけど、まぁ、聞いておくべきだろうな。

ハナ「それじゃ、また明日ねー。バイバーイ」
元気よく手を振って帰っていくハナ。
私「じゃあね〜」
私も手を振り返し、家に帰ってお父さんの帰宅を待つ事にした――。

暗躍Aへ続く
怖いサイト.com
ベストヒットナビ
感想・雑談はコチラ
もっと探す@AB
[戻る]
- mono space -