暗躍A

8/14
――
夜20時を少し過ぎた頃、往来会本部に着く。

一体、何がどうなっているんだ…?

私は車を降り、気持ちを落ち着かせながら本部に入る。

何だって言うんだ?何で真奈美に――?

今日、仕事を終えて家に帰ったときのことだった。
いつも通りに真奈美が出迎えてくれ、風呂に入り、さて夕飯…というときになって、真奈美がおかしな話をしてきた。
「桐谷って人から、名刺を貰った」と。

我ながら、情けないほどに動揺してしまった。
そ、そうか、と返事をして詳しく聞いてみると、ますます頭の中にハテナが一杯になる。
その男は、スーツは着ておらず、Tシャツにジーンズという格好だったらしい。
これじゃまるで…先日の、あの学生の話と同じだ。

死んだ桐谷の名刺を、誰かが配り歩いている。これは明らかに異常だ。
しかも、相手は私のことを…娘のことも知っていたのだ。

食事もそこそこに、私は居ても立ってもいられなくなり、何か事情を知っていると思われる人物――
高城本部長に話を聞いてもらおうと思い、真奈美には「ちょっと仕事がある」と言ってスーツに着替え、本部まで戻ってきたのだ。

9/14
事務課に行き、本部長はまだいるかどうかを聞いてみる。
あの人のことだから、きっとまだ居るだろう…と思っていたが、意外な回答が、意外な方向から聞こえてきた。

声「本部長は、もうご帰宅されましたよ」
事務員からではなく、後ろからの声。
誰だ…?と思い振り返ると、そこには久しぶりに見る顔があった。

私「あぁ、藤木…さん。久しぶりですね」
半年振りに見る顔だ。思わず、藤木君、と呼びそうになってしまった。
しかし確か…彼は今、支部長だ。ここは無難に”さん”付けにしておこう。

藤木「久しぶりですねぇ、汐崎部長。お元気そうで…」
ニヤニヤとしながら藤木が言う。

私はあまり、人に対して好き嫌いを言わないが…言わないようにしているが、
この藤木という男は、ハッキリ言って好きになれない。

私「お陰様で。えっと、本部長は、もう…?」
本来なら支部長への昇進が云々という話をするべきかも知れないが、今はそんな会話はしたくない。

藤木「…えぇ。今日は早くにお帰りになったようですよ」
やや不機嫌そうに、藤木が答える。

10/14
私「そうですか…」
まだ居ると思ったのだが、見当が外れてしまった。

藤木「何か用があったんですか?」
藤木が聞いてくる。
私「いや、まぁ…ちょっと仕事のことで」
藤木「仕事ねぇ…。相変わらず、熱心ですねぇ」
何か勘繰るような、どことなく嘲笑するような感じで、藤木が言う。

藤木「実は私も、本部長に用事があったんですけどね」
私「はぁ…」
藤木「いやいや、見事に逃げられちゃいましたよ。…お互い、振られちゃいましたねぇ」
振られた…?何の用事か知らないが、一緒にしないで欲しいものだ。

藤木「汐崎部長、お暇ならどうですか?これから飲みにでも」
私「ん…。あぁ、いや、私は…」
そんな気分ではないし、この男と飲みに行きたくもない。

藤木「用事、無くなったでしょ?いいお店知っているんですよ」
私「いや、車ですし、家で娘も待っているので…」
藤木「娘…?」

11/14
藤木「そういえば、娘さんが居ましたねぇ。今、高校生くらいですか?」

しまった、という気持ちになる。
何となくだが、この男に真奈美の話をしたくない。

私「えぇ…」
藤木「女子高生かぁ…いやぁ、もう大人ですねぇ」
私「…」
どことなく下卑た言い方をする藤木。まったくもって不快だ。

藤木「いいなぁ…。年頃になって、父親としても色々大変なんじゃないですか?」
私「いや、特に大変ということも…」
藤木「そうですか?なんか、こう…大変だと思うんだけどなぁ」

いちいち癪に障る言い方をする男だな…。

私「まぁ、そんなでも無いですよ。それじゃ、また後日」
スパッと言い切り、私は出口に向かう。
目上の人間に対してはどうかと思う態度だが、何と思われても構わない。

後ろでチッと舌打ちをする音が聞こえたが、それ程腹も立たなかった。

12/14
外に出て車に乗り込み、取り敢えず車を出す。
そのまま駐車場に居ると、また絡まれそうな気がしたからだ。

…しかし、どうする?
残念ながら、本部長は帰った後だった。じゃあ、仕方ない…か?
明日、朝一にでも?

…いや、それじゃダメだ。
明日、真奈美が学校に行くまでには、ハッキリさせておきたい。
何か問題があるなら、今日中に手を打っておきたい。

――よし。

私は道の端に車を止め、携帯を取り出す。
本部長の携帯番号は一応登録してある。一度も掛けた事は無いが、一応。
その番号に電話を掛けてみる。

プルルル…プルルル…

こんな事なら、自宅で電話してからにすれば良かったな…、なんて思っていると、すぐに電話が通じる。

高城「…はい」

13/14
私「あ、あの…汐崎です。夜分遅くすみません」
高城「こんばんは、汐崎さん…どうしたの?」
私「あぁ、どうも、こんばんは…」
なぜだか分からないが、電話で話すと、面と向かって話す以上に、声に艶があるように思えてしまう。

私「あの、ちょっとお話したい事がありまして…。本部に行ったのですが、もう帰られた後でしたので」
高城「あら、そう…。ごめんなさいね」
私「いえ、そんな…私の勝手ですから」
高城「何か、急な用事?」
私「それが、その…」

私は真奈美から借りてきた、桐谷の名刺に目をやる。
…できるなら、直接これを見てもらいたい。

私「どこかで、少しお話できませんか?」
高城「…これから?」
私「はい、できれば…。お手数でなければ」
高城「んー…。私、もう外に出られる格好じゃないのよね」

14/14
外に出られる格好じゃない…?
相変わらず、なんだか変な事を想像させる。

しかし困った。じゃあ、電話で伝えるか。
私「では、えっと…」
高城「じゃあ、家まで来てくれる?」
私「…は?」

高城「今から住所言うわね。今、車でしょ?住所が分かれば来られるわよね?」
私「あ…え、はい。あの…手帳を…っと…」
思いもかけなかったことに、わたわたと慌ててしまう。

高城「××市――」
背広のポケットから手帳を取り出し、私は言われた住所をメモする。
…どうやらマンションのようだ。
そういえば、本部長が上の人間からマンションを買って貰ったとか何とかって、噂になっていたか。

高城「それじゃ、お待ちしていますね」
私「あ…はい。ありがとうございます。すぐに行きます」

電話を切り、カーナビに住所を設定する。
ここから20分程の場所だ。私は急いでそこに向かった。
怖いサイト.com
ベストヒットナビ
感想・雑談はコチラ
もっと探す@AB
[戻る]
- mono space -