疑惑と失望@

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私は車を走らせ、目的のマンションに着く。

本部長の住むマンション。
ここの住所を知っている者は、そんなには居ないだろう。
明らかに本部長に気がある、藤木でさえ知らない。
…私は何となく、優越感を感じてしまう。

部屋の番号を入力してオートロックを開けてもらい、エレベータで5階へ。
ここは…賃貸ではないだろうな。
買うとしたら幾らくらいなのだろう?恐らく8000万以上…ひょっとしたら億はいくかも知れない。
28にして、こんな良い所に1人暮らし…。変な噂が立つ理由も、納得できてしまう。

部屋の前に立ちインターフォンを鳴らすと、すぐに玄関が開き、本部長が出てくる。
高城「ようこそ、汐崎さん。どうぞ上がって」
私「はい、どうもすみません…」

本部長の格好は…まぁ、確かに外には出られない格好ではあった。
少しモコモコした感じの、着心地が良さそうなローブを着ている。
…が、それだけで、露出も少なく、思ったより控えめな格好だ。
私は少し安心する。

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居間に通してもらい、ソファーに座る。
少し薄暗い感じの、落ち着いた雰囲気の部屋だ。
しかし…広い。一人で住むには十分すぎる程の広さだ。

高城「何か飲むでしょ?お酒でいい?」
キッチンに向かった本部長が、声を掛けてくる。
私「え…」
…酒?
私「いや、私は車なので、すみませんが…」
車で来たのは知っているだろうに…?

高城「あら。少し休んで冷ませば良いじゃない。…すぐに帰るつもりなの?」

心臓がドクンと鳴る。
休んで行けって?まさか、すぐに帰って欲しくないとか…?そんな風に言われたのは初めてだ。
年甲斐もなく、自分の顔が真っ赤になるのを感じる。

これは、ちょっと危ないんじゃないか?
そうだ。そもそも、こんな時間に…夜遅くに若い女性の1人暮らしのマンションを訪ねるなんて、非常識だった。

いけない。ここで自分を見失ってはいけない。
自分が、何のためにここに来たのかを忘れては駄目だ。
…真奈美。真奈美のためだ。私は、一人娘のために、あの子の身の安全のために来たのだ。

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私は今年で43になる。
それに対し、高城本部長は28歳。
その差15。一回り以上の年齢差だ。
そんな年下の女性に誘惑されて…惑わされてたまるか。
私は…私は、藤木とは違う。

私「すみません…。遅くなるわけにいかないので」
高城「そう。残念ねぇ…」

そう言うと、本部長はすぐに2人分のティーカップを運んで来る。
高城「じゃあ、紅茶で良いわね?」
私「…はい。ありがとうございます」

私はそれを見て、内心苦笑する。
持って来るのが、あまりに早い。どうやら、私がアルコールを拒否する事はお見通しだったようだ。
まったく、人が悪い…。
よく考えれば、本部長が私相手に、そんな事を望むわけがない。
そう思って彼女を見ると、目が合い、軽く微笑みを返される。
どうやら、見事にペースを握られてしまったようだ。

高城「それで、どんなお話?」
本部長がテーブルを挟んで、私の前に座る。
いつものスーツのような、丈の短いスカートではないので、目のやり場に困る事はない。

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私「実は――」
そう言って、私は本部長を正面から見据える。
ローブ姿ではあるが、決してキワドイところがある訳ではない。
胸元もしっかり閉じてくれている。…十分すぎる胸の膨らみは隠せていないが、その程度なら目を奪われる事もない。
脚も組まず、上品に揃えてくれている。

――よし、これなら普通に話ができそうだ。

私「私には17になる娘がおりまして…」
高城「えぇ、知っているわ」
私「はい。その娘――真奈美と言うのですが、今日、見知らぬ男からこんなものを受け取ったのです」
私は持ってきた名刺をテーブルの上に置き、本部長に差し出す。

高城「あら…」
彼女は名刺を手に取り、表、裏と眺める。
高城「桐谷の名刺?」
本部長はそう言って、珍しく不思議そうな顔をする。
私「はい。しかもそれが…。あの、先日本部に来た2人の学生の事、覚えていらっしゃいますか?」
高城「もちろんよ。あの2人も名刺を持ってきたわね」
私「はい。それで話を聞いてみると、どうやらこの名刺、同じ人物から受け取ったようなのです」
高城「同じ…」
眉をひそめる本部長。
美人だと、こういう顔も絵になるんだな…とか思ってしまう。

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高城「なぜ、同じ人物と?」
私「見た目が…聞いた感じだと、年恰好がまったく同じなので」
私は真奈美から聞いた、男の様子を説明する。

高城「…それだけじゃ、本当に同じかは分からないわ」
本部長は、そう言って名刺をテーブルに置く。
私「しかし、こんなことを複数人でするとは…」
高城「するかも知れないわよ?」
私「まぁ、そうですが…」
何だろう?何か気に障ったのか、不機嫌そうだ。

高城「…で。私には報告をしたかっただけ?」
私「いえ、それもありますが――」
いつも以上に高圧的なものを感じる。
しかし、ここで気圧されて、逃げ出すわけにはいかない。
私「本部長は、何かご存知なのでは?と、思いまして」
思っていたことを、そのままぶつけてみる。
何と言っても、真奈美が絡んでいるのだ。私も悠長な事は言ってられない。

高城「…何でそう思うの?」
当然の疑問だ。
私は答える。
私「以前の名刺のとき、何か…桐谷の事件に関して何か知っているような素振りでしたので…」
高城「…」
本部長の顔が曇る。…一瞬だけの、悲しげな顔。
その顔を見て、なぜだか少し罪悪感が芽生える。

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高城「それは、邪推というものよ」
真っ直ぐにこちらを見つめ、本部長が言う。

私「邪推、ですか…」
高城「えぇ、そう。残念だけど、私は何も知らないわ。あなたも、この件はもう忘れなさい」
ジッとこちらを見つめたまま、私を諭すように言ってくる。
いつもの視線とは違う。私を見透かそうという視線ではない。

…私たちはそのまましばらく見つめ合う。
こんな風に女性と見つめ合う事なんて、妻を亡くして以来、一度も無かった。

本部長は――高城沙織という女性は、自他共に認める美人だ。
色々な意味で、魅力的な人間だと思う。
会の中でも、多少の変な噂はあるものの、彼女は人気がある。もちろん、男性だけでなく、女性にも。
仕事の上で尊敬できる部分も多々あるし、良い上司と言えるだろう。
私を広報部長に抜擢してくれたのも、彼女だ。

普段はあんな格好なので正視することができないが、ローブ姿とはいえ、この露出を抑えた格好なら、問題ない。
いつもこれくらいの格好をしてくれれば良いのに…。
世の男性の大半は、ああいった格好の方が好きな人が多いのだろうか?
…きっとそうだろう。
だから、いつもあんな格好をしているのだ。

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では、今は?
今は…姿を見せる相手は、私だけだ。
それだから、こういった比較的落ち着いた格好をしているのだろう。
私が安心して話をできるように、と。
彼女なりの優しさ…気遣いなのかもしれない。

無理に肌なんて出さなくても、その人の魅力は伝わるものだ。
そんなことをしなくても、彼女なら人を惹きつけることくらい容易にできるだろう。
私としても、今の方が好みだ。とても魅力的に思える。
ひょっとしたら…私の好みに合わせてくれたのかも知れない…

高城「…おわかり?汐崎部長」
私「…はい」
はい…?何が…?
…あぁ、そうだ。私は何てことを考えていたのだろう。

私「どうも申し訳ありませんでした。このような…」
私はテーブルに手をつき、深々と頭を下げる。
高城「いいのよ。そんなに気にしないで…ね?」
優しい口調で本部長が言う。
それを聞き、私はまた、胸が高鳴るのを感じる。
彼女を疑うなんて、何と失礼な事をしていたのか?全て、彼女の言うとおりで――

ピリリリリリ

――と思った瞬間、私の携帯が鳴る。

疑惑と失望Aへ続く
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