声@

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「光一…?」

部屋をノックする音と共に、俺を呼ぶ声がする。

まったく…
そう思いながら返事をすると、ドアが開き、お袋が入ってくる。

母「何か、連絡とか…」
俺「まだ無いよ。大丈夫だから…早く寝なって」
母「……」
沈んだ顔をするお袋。

まったく…
何やってんだよ、姉貴――。

昨日、古乃羽が退院し、これで後は姉貴が戻るのを待つのみ…と思っていたが、
その翌日、つまり今日になっても…更にその夜になっても、姉貴からは何の音沙汰も無かった。

母「こんな風に居なくなるなんて…」
俺「大丈夫だって。姉貴だってもう子供じゃないし、しっかりしているじゃない」
母「でも、また病気とかだったら…」
俺「病気はもう大丈夫だよ」
…何の根拠もないが、そう言っておくしかない。

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母「でも…ねぇ…」
この状況、心配性のお袋には堪らないだろう。
姉貴だって、それくらい分かっているはずなのに…。

母「何か、事件に巻き込まれたとか…」
俺「考えすぎだって。姉貴は、ほら…危ない所とかには近寄らないだろ?」
…これは嘘だ。昔はそうだったが、今はその逆で、危ない所に近付く傾向がある。

ハァ…と、ため息を付くお袋。昨日の夜から、ずっとこんな感じだ。

俺「明日には帰ってくるって。こっちからもまた電話してみるから、寝ていた方がいいよ」
時刻は23時を回っている。普段なら、お袋はとっくに寝ている時間だ。
そんなに年寄りって訳じゃないが、睡眠時間を削るのは決して良いことじゃない。
母「もう、心配で…。光一は、平気だと思う…?」
俺「…あぁ、思うよ。絶対大丈夫だって」
母「そう…。光一がそう言うなら…」
父親が居ないので、うちに男は俺1人。そのためか、母親には何気に頼りにされることがある。

母「何かあったら、お願いね…」
そう言って、力無く部屋を出て行くお袋。
俺「あぁ、もちろん。おやすみ」
母「おやすみ…」

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お袋が部屋を出て行ってから、俺は携帯を手に取る。
そして、これで何回目になるだろう、姉貴の番号に掛けてみる。

…電波が届かない所にいるか、電源が入っていないため――

ダメだ。
相変わらず、同じメッセージが繰り返されるだけだ。

クソッ…何やってんだよ、まったく…!

携帯をベッドに放り投げ、俺もそこに横たわる。
お袋や俺、古乃羽達…誰もが心配すると分かっているだろうに、何でこんな…。
まったくもって、姉貴らしくない。
まさか、本当に何かに巻き込まれた?それとも病気が再発して…?
俺も心配性なところはあるから、嫌な想像ばかりしてしまう。

俺「まったく…」
まったく、まったく。これ、口癖になりそうだぞ。…まったく。

何もしていないと、どうも頭がモヤモヤしてくる。
よし、ちょっと遅い時間だけど、古乃羽にメールしようかな…
天井を見つめながら、そんな事を思ったときだった。

ブー…ブー…ブー…

携帯が振動する。
まさか?と思い、慌てて携帯に飛びつく。

メール…?じゃない、電話だ。発信元は……姉貴!

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俺「はい、もしもし…!?」
勢い込んで電話に出る。

「…光一」
姉貴の声だ…!

俺「姉貴!?どう…えーっと…今、どこだ!?」
何から聞くか、何を言うか、アワアワしてしまう。

舞「…ちょっと、遠いところ…」
俺「遠いところって、どこだよ?」
舞「…ごめんね、言えないの」

???
言えないって…?

俺「…何してんだ?お袋、めちゃくちゃ心配してるぞ?」
舞「…」
俺「俺だって…古乃羽達だって、みんな――」
舞「…ごめんね」
俺「ごめん、って…」

ただ謝ってこられても、どうにもならない。
散々心配させておいて、事情も言えないのか?

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舞「あのね…お母さんに、心配しないで、って伝えて欲しいの」
俺「な…」
心配するなって?何言ってんだ?

俺「心配するに決まってるだろ?…それに、言いたかったら自分で言えよ」
舞「…」
俺「お袋、さっきまで起きていて…昨日から、ずっとなぁ――」
舞「…」

何も言わない姉貴。理由をハッキリ言えないにしても、何か言ってほしい。
黙っていられると、段々とイライラしてくる。

俺「明日の朝でもいいから、携帯じゃなくて家に電話してくれよ。それで、お袋に…」
舞「無理よ…」
俺「無理って…!」

思わず、ふざけるなと怒鳴りたくなる。
何で急に、こんな自分勝手なことを?

姉貴に手を上げたことは無いが、引っ叩いてやりたくなってくる。

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お袋は俺が7つのときに、夫…つまり俺たちの父親を亡くしている。
それから再婚することも無く、女手1つでせっせと働き、俺たち姉弟を育ててくれた。

――俺が中学に上がるくらいのとき、姉貴と2人で決めたことがある。
母親を大事にしよう、と。
夫の居ない1人きりの母親には、俺たちがずっと一緒に居てやろう。
これ以上、寂しい思いはさせないように…悲しい思いもさせないようにしよう、と。

…それを反故にするような姉貴の言動は、俺には許せなかった。

俺「無理って、どういうことだよ?話もできないのか?」
舞「…」
沈黙する姉貴。

俺「…何とか言ってくれよ」
舞「…どうしても、出来ないの」
俺「だから、何でだよ?」

つい、口調が荒くなってしまう。
…が、ここで抑える気はない。
舞「…言えないわ」

何も言えないのか?
これじゃ、話にならない…!

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俺「自分じゃ言えないから、俺に伝えて欲しい、って…?」
舞「…」
俺「俺に、どんな気持ちでそれを言えって!?」
舞「…」

…言い過ぎだ。
いけない、言い過ぎている…と思うが、止まらない。

俺「俺にそんな役目を押し付けて、どこで何をしているのかも教えないって!?」
舞「…お願い」
俺「そんな勝手が、許されるとでも思って――」

舞「お願い、光一…」

あ…
……

姉貴の悲痛な声を聞き、続く言葉が出なくなる。

携帯を握り締めたまま、俺は黙ってしまう。
…知らない内に力を入れすぎていて、手が少し痛かった。

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そういえば――

携帯を持つ手を緩めながら、古乃羽の言葉を思い出す。
「お姉さんのこと、信じている?」

これは、桐谷って人を殺したことかと思ったが、それだけじゃ無かったのかもしれない。
きっと、こういうことも言っていたのだろう。
姉貴が意味も無く、勝手に居なくなるわけが無い。
何か、自分達には言えない、深い理由がある…そう、信じられる?と。

俺はゆっくり…深く深呼吸をする。

俺「…姉貴」
舞「……何?」
少し辛そうな声だ。…しまったな。

俺「身体の調子が…具合が悪いとか、ないか?」
舞「…うん」
俺「怪我したとかも、ない?」
舞「…うん」

俺「もう4日になるけど、食事とかは…?」
舞「平気…」
俺「あとどれくらいで帰ってこられるか、分かる?」
舞「…」

…沈黙。
分からない、か

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俺「何をしているかとか、どこに居るかとか…言えないくらいのこと、って思っていいのか?」
舞「…うん」

俺「俺に…こっちで何かできることは、ある?」
舞「…」

なし、か。
まぁ、言えない程の事なら、そうか。

俺「また電話できるか?俺の携帯でいいから」
舞「…できたら、する」

よし…。

俺「お袋には、うまいこと言っておくから」
舞「…ありがとう」
俺「男と一緒だ、って」
舞「…1人よ」
俺「冗談だって」
舞「……こら」
よし、一本取ってやった。ちょっと気が済んだぞ。

声Aへ続く
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