報告(後)@

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藤木「失礼します――っと?」
返事を待たずに部屋に入ってきた藤木が、驚きの声を上げる。
藤木「副会長じゃないですか!ご無沙汰しています!」

背筋をピンと伸ばしてから、副会長に向かって真っ直ぐにお辞儀をする藤木。
夏目川「やぁ。元気にしていたかね?」
藤木「はい、それはもう…お陰さまで」
含みのある言い方をする藤木。

…それもそうだろう。
なにしろ、藤木に例の仕事を与えたのは、この副会長だ。

夏目川「丁度今、高城君から例の件について、報告を受けていたところだよ」
藤木「例の件…?」

私「名刺の件よ」
藤木「名刺…あぁ、なるほどね」
ほんとに頭の回転が鈍い男だ。
こんなのが支部長だなんて…と、そんなことを思ったとき、藤木が思いもかけない質問を口にする。

藤木「報告と言えば…、本部長、昨日、汐崎に会えました?」

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……!
突然の想定外な質問に、私は必死で動揺を抑える。
何か気取られるのはマズイ。
彼のことを言うにしろ、黙っているにしろ…。

藤木「昨日の夜、探していましたよ?何か急な用事が――」

どこまで知っているの?
この男が、汐崎の用件を知っている可能性は?
このタイミングで聞いてくるということは、もしかしたら…?

…分からない。この状態で考えたところで、分かるわけが無い。
それについて、今ここで聞くわけにもいかない。

でももし、用件の内容を知っていたら…?
私が副会長に報告を怠った事に…隠し事をしたことになる。
それは、事が事だけに、組織に対する裏切りと取られるかも知れない。

…それはダメ。
私にとっても…もちろん、汐崎にとっても、それは一番良くないことだ。
私が彼を庇ったと悟られる事は、彼にとって最悪の事態になる。
間違いなく、私との関わり合いを探られるだろう。
何も無いと言って、彼らが信じるとは思えない。
…何も無いのに。何も無かったのに――。

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私「藤木…支部長。私はまだ、報告の途中です」
藤木「あら…?」
夏目川「まだ何か、あったかね」

副会長が私を見る。
…私は悪びれることなく、その目を見返して答える。
私「はい。今、藤木からもありましたが…汐崎部長のことで」
夏目川「ふむ」
私「…と言っても、正確には彼の――」

良いの?私はこれで良いの…?

私「娘さんの事です」
夏目川「…」
藤木「あぁ、一人娘が居るってな。確か女子高生で…」

私「…支部長、口を挟まないで下さいます?」
八つ当たり気味に藤木をたしなめる。
怖い怖い、と言った顔をして、藤木は黙った。

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私「実は、汐崎の娘も名刺を受け取ったのです」
夏目川「ほぉ…」
私「汐崎の話では、渡してきたのは、先ほどの学生に渡した相手と同じようです」
夏目川「同じ…。確か、学生から話を聞いたのも、汐崎だったかな」
私「はい」
夏目川「なるほど…」

やはり、彼が渦中の人になってしまう。
何も知らないまま、彼はこの件に深く関わってしまっている。
ここは、話を別の方向に持っていくべき…?

私「これは私の考えなのですが…名刺を渡している人物の目星がついています」
多少強引かもしれないけど、興味を惹きそうな話に持っていく。

夏目川「…ほぉ」
藤木「へぇ…。さすが本部長様」
ニヤニヤしながら藤木が言う。
つくづく不快な男だ。

夏目川「私も大体分かってきたよ。…キミの考えでは、誰かね?」
副会長も検討はついたようだ。
まぁ、事情を知っていれば分かる事だろう。

私「おそらく、この男かと…」
私はそう言って、三嶋から渡された資料の最後の1枚を取り出し、副会長に渡す。

私「桐谷隆二。死んだ桐谷達夫の弟です」

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藤木「へぇ、弟ねぇ…」
横から資料を覗き込み、藤木が言う。
夏目川「まぁ、そんなところだろうね」
…見解は一致したようだ。

夏目川「桐谷隆二、27歳。フリーのカメラマン。…現在、行方不明」
副会長が資料を読み上げる。
藤木「両親は既に他界しており、親戚も居ない…と。それじゃ、今は天涯孤独って訳か」

私「唯一の肉親であった兄が殺された訳ですから…事件の真相を調べていると思われます」
多少の皮肉を込めて言う。
目の前に居るのは、その殺人を命令した者と、実行した者だ。

藤木「浅はかだねぇ…。自分の身の安全を考えてないのかねぇ」
私「…」
この男に「浅はか」と言われたらお終いだ。
今の状況と、資料の写真を見ただけで分からないだろうか…?
この桐谷隆二という男は――

夏目川「この男、なかなかの切れ者かもしれないね」

――そう。この男、よく計算して行動を起こしている。

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夏目川「汐崎の娘を突いてくるとはな…」
私「…」

確かに、桐谷隆二は上手いところを突いてきた。
なぜなら、汐崎の娘は上の人間――副会長が「目を掛けていた子」なのだ。
彼女には霊感が無く、素質があるから。

――でも、違う。

私が桐谷の行動で気になったのは、そちらではない。
本当に注意するべきは、もう一方の方…神尾という子の方だ。

夏目川「汐崎の娘に、桐谷隆二の写真は見せたのかね?」
副会長が聞いてくる。
…彼の興味は、汐崎の娘に向かっている。
私「いえ。資料は、今朝受け取ったばかりで…」

夏目川「では、確認するべきだろうね。相手をハッキリさせて、場合によっては彼女にも――」

…ダメ。
汐崎を、これ以上巻き込んではいけない――

私「いえ…。その必要はないかと」
夏目川「…なぜかね?」

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私「汐崎には、この件については全て忘れるように言いました」
夏目川「当然だね」

私「彼は私に名刺を渡し…全て忘れますと言いました」
夏目川「…名刺を受け取ったのかね」
私「はい」
私は名刺入れから例の名刺を取り出し、テーブルに置いた。

私「汐崎については、これで話がついています。これ以上掻き乱すことは――」
夏目川「――桐谷の思う壺、と?」
私「はい」
夏目川「なるほど…」
そう言って考え込む副会長。どうやら、納得してくれそうな気配だ。

…私は更に続ける。
私「それよりも、私としては学生達の方が気になります」
夏目川「こっちか…」
改めて神尾美加の資料を見る副会長。

彼の興味の矛先を、こちらに向ける。
神尾という子には悪い気がするけど…。

報告(後)Aへ続く
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