報告(後)A

8/15
夏目川「やはり、耳が…?」
私「はい」
夏目川「その耳は、桐谷のものでは無かったのかね?」
私「いえ…。その写真を見た感じでは、あれは他の者かと」
夏目川「…」
私「桐谷の協力者かもしれません」

これは憶測。
でも、興味を惹ける筈…。

夏目川「本部長としては、こちらを…ということでよろしいかな?」

――責任の話だ。
副会長はこれを私の判断として、私に責任を持たせようとしている。
…でも、それで構わない。私の勘でも、注意するべきはこちらだから。

私「はい。こちらから調べていくべきだと思います」

まず、こちらから。
一応、汐崎の方を完全に切るような言い方はしないでおく。
変に怪しまれないように…。

9/15
夏目川「では、その線でいこう。報告は以上かな?」
私「はい。以上になります」

夏目川「分かった。…いやぁ、ありがとう、朝早くからすまなかったね」
そう言って副会長が椅子から立ち上がる。
私「いえ…。お忙しいのにわざわざ、ありがとうございます」
私も立ち、頭を下げる。

夏目川「この資料は、貰っても構わないかな?」
私「はい。…では、これに」
私はデスクから封筒を持ってくると、副会長から資料を受け取り、そこに入れる。
夏目川「名刺も一緒に、お願いするよ」
私「はい」
言われた通り、桐谷の名刺もそこに入れ、封筒を渡す。

夏目川「ありがとう。では…藤木君、送ってくれるかね」
藤木「え?…あぁ、はい。勿論です」
2人が連れ立って、部屋から出て行く。

私「おつかれさまでした」
私は扉を開けたまま頭を下げ、2人を見送った。

――なぜ今、藤木も連れて行ったのか。
汐崎の事で少し安心していた私は、それを深く考えなかった。

10/15
――
藤木を連れて建物の外に出た私は、車まで歩きながら彼に言う。
私「まったく君も…良いタイミングで入ってきたものだね」
藤木「…はい?」
私「フン…」

車の横には専属の運転手が立ち、私を待っている。
私はそこまで行かず、途中で足を止める。
…聞かれて困る事もないが、聞かれないに越した事はない。
私「高城に、何の用事があったのかね?」
藤木「いや…まぁ、特には…ヘヘヘ…」
誤魔化すように笑う藤木。それで大体想像ができる。

私「彼女に手を出すのは、控えた方が良いと思うがねぇ」
藤木「…はぁ」
どうなろうと知ったことではないが、アレの…会長の物に手を出して問題になっては、具合が悪い。
…藤木は、私の大切な駒だ。

私「それにしても…」
私は封筒を開け、1枚の資料を――神尾美加という学生の資料を取り出す。
私「これは、中々の掘り出し物だな」
資料には、私が求める最高の条件が書いてある。

――霊感、なし。

11/15
藤木「可愛い顔していますねぇ…」
資料を覗き込んで、藤木が言う。

私「この女については、私の方で調べる」
藤木「…じゃあ、自分は男の方ですか?なんて言いましたっけ」
私「北上明雄だ。…だが、コレはどうでもいい」

こちらも霊感なしだが、興味が沸かない。

藤木「ってことは…桐谷の弟をマークしますか?」
私「いや、それもいい」
藤木「…はぁ」

桐谷隆二は、藤木の手には負えないだろう。
コイツの頭で勝てる相手ではない。

それより、もっと適している仕事がある。

私「キミには、汐崎をマークしてもらう」

12/15
藤木「汐崎…部長ですか」
私「そうだ」
藤木「娘じゃなく?」
私「…場合によっては、娘も、だな」
藤木「その場合が良いなぁ…」
…この男の品の無さは、どうしようもないな。

私「キミにはまた、"力仕事"をしてもらうかも知れないよ」
藤木「あぁ…平気ですよ。得意ですから」
ニヤニヤした顔で藤木が言う。

私「汐崎の動きを、見張っていてくれれば良い。何かあったら――」
藤木「直ぐに連絡します」
私「うむ」
藤木は、頭は悪いが、単純作業や"力仕事"には最適な人間だ。

藤木「でも何で汐崎を?関わりすぎたからですかね?」
私「それもあるが…」

私も汐崎という人間は良く知っているつもりだ。
あれは、上からの命令なら何でも従う男だろうし、何かを忘れろと言えば、スッパリと忘れる筈だ。
上の人間にしてみれば、使いやすい男。

…しかし、娘が絡むと話は別だ。

13/15
私「汐崎は、往来会を疑っている可能性がある」
藤木「…あの部長が?」
私「そうだ」
藤木「そんな情報、どこで…?」
私「…キミにそこまで言う必要があるか?」
そう言って藤木を睨みつける。
余計な口出しは結果として自分の首を絞めることを、分かっていないのだろうか。

藤木「あ…いや、いえ…すみません」
私「分かったら、仕事に移ってくれ」
藤木「…はい!それではこれで失礼します!」
藤木はそう言うと、一礼し、本部へ戻っていった。

私「フン…」
私はそのまま車に乗り込み、これからのことを考える。

汐崎が往来会を疑っている…。
これは間違いない。高城の様子を見れば分かることだった。

14/15
彼女は、汐崎を庇っていた。

この私が、汐崎の報告を省こうとした事に気付かないとでも思ったのだろうか?

しかもそれだけではない。
名刺のことがある。
高城は、この名刺を「汐崎がこの件を全て忘れた証明」として出してきた。

一見自然な話だが、見方を変えるとおかしな話だ。
この名刺はそんなことを証明するものではない。
これは、「彼の娘が名刺を受け取った」という事実を証明するものだ。

「これが彼の娘が受け取った名刺です」と言いながら出すのが普通だろう。
「これを渡してきたので、彼の方を調べる必要はありません」なんて、不自然な話だ。
一番大切なこと――事実を正確に報告していない。
彼女は自分の勝手な考えを肯定するために、出してきたのだ。

これはまったく、彼女らしくない。
そんな報告の仕方は、"本部長"としての彼女らしくない。

15/15
私「小娘が…」
そう呟き、車の窓から2階の本部長室を仰ぎ見る。

成り上がり者が何を考えているか知らないが、会長の寵愛を受けているからと言って、好き勝手やらせる訳にはいかない。

…しかしまぁ、それもあと僅かの話だ。

今日は収穫があった。
良い「素材」を知ることができたのが1つ。
もう1つは――

死相。

本部長、高城沙織の顔に死相をみた。

彼女は近いうちに、命を落とす。
それが分かった事が、一番の収穫。

邪魔な人間が消えてくれるのは、何よりも嬉しい事だ…。
怖いサイト.com
ベストヒットナビ
感想・雑談はコチラ
もっと探す@AB
[戻る]
- mono space -