接触@

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俺「つまり、これはもう…終わりってことか?」

雨月に収集され、神尾さんの家に集まったいつもの4人。
夕飯の鍋を囲みながら話を聞いた後、俺は率直に思った質問をする。

雨月「まぁ、そういうことだな。これ以上は危険。ダメ。ここまでだ」
俺「そっかぁ…」

往来会は危険なところである――
怪しいところだとは思っていたが、これに雨月のお姉さんの太鼓判が押された。
本部まで訪れた身としては少し寂しい気もするが、これ以上関わるのは避けた方が良さそうだ。
…俺と神尾さんは、特に危険らしいから。

神尾「うーん…」
クマのヌイグルミを抱きかかえた神尾さんが、何か言いたそうな顔をする。
彼女が簡単に引き下がれない性格であることは、ここに居る誰もが知っている。
意固地というか何と言うか…そんなとこも、俺は好きなんだがな。

神尾「でもさぁ…」
鮎川「ダメだからね、美加」
神尾さんが何か言おうとした所で、すかさず鮎川さんが止める。

神尾「…はぁーい」
ガッカリと肩を落として黙る神尾さん。
…俺としても、彼女に危ない事はさせたくない。ここはガッカリしてもらおう。

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鮎川「それにしても…舞さん、平気かなぁ…」
鮎川さんがポツリと言う。
雨月「あぁ…」
それに応える、心配性の雨月。
確か、雨月のお袋さんも心配性だったな。
あのお姉さん、知らないところで気苦労が多そうだ…なんて思ってしまう。

神尾「あのさ、なんで私と北上が危ないのかな」
沈みそうな雰囲気を払拭するように、神尾さんが言う。
「私と北上が危ない」なんて聞くと、まるで2人の関係が怪しいとかなんとか…と思ってくれる人は、どこにも居ない。

雨月「やっぱり…アレじゃないか?」
神尾「霊感の有無?」
雨月「じゃ、ないかな…」
どことなく言い難そうな雨月。

神尾「むー…差別よね。差別」
膨れる神尾さん。

彼女は俺以上に、霊感ってものに拘りを持っている。
自分にそれが無いことが、悔しいのかもしれない。

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――神尾さんの気持ちは分かる。
俺も一時期は、それを求めたから。

…でも一度死に掛けて、自分に素質がないことが痛いほどよく分かった。
あれ以来、そういったことに関する興味が無くなっていった。
そしてその代わりに、別の方向で強さを求める気持ちが高まっていったのだ。

鮎川「舞さんから連絡あったら、また教えてね」
雨月「あぁ。もちろん」

早くも話を締めに掛かる鮎川さん。
神尾さんが変な気を起こす前に、という考えかもしれない。
俺もそっちに乗るべきだろうけど、それじゃ可哀想かな…と思って神尾さんを見ると、やや不貞腐れ気味でヌイグルミと遊んでいる。

…あれは、ラット君とかいう名前だったっけな。
オスの癖に、あんな風に抱かれて…まさか一緒に寝たりしているのだろうか?
噂では、敵対する相手を、身体に仕込んである針で攻撃するとかしないとか…。
可愛らしい顔をして、なんと手強いライバルよ。
俺だって、いつか――

なんてくだらない妄想をしていると、クマがこちらを見て、ニヤリと笑った。

…まぁ、気のせいだ。うん。

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――
翌日。

大学の講義が終わった後、私は1人で買い物に出掛けた。
古乃羽も誘おうかと思ったけど、今日は1人。

往来会のこと…霊感のことで腐ってしまった訳ではない。
そんな事は気にしない。
全然気にしない。
絶対気にしない。
ちょっとしか気にしないもん。
ほんの少ししか、気には…

…あ〜もう!!
ズルイわよ、あんなの!
霊感が無い?
えぇ、無いですよ。それが何か?
別に劣等感を感じているわけじゃないのよ。
ただ…欲しいの。手に入れられるものなら、欲しい。
私には、それでどうしてもやってみたいことがある。
そうしないと、私は先に進めない――

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買い物をするつもりだったけれど、気持ちが滅入ってしまった。
適当にウィンドウショッピング(死語?)でもしてよう、と決めて、店を渡り歩く。

…と。
いつだったか、佳澄に誘われて来た靴屋を見つける。
佳澄に「また来ようね」と言ったけど、結局来られなかったお店。
今思えば、あの時、古乃羽と雨月君が罠に嵌められていたんだ。
一緒にここに来ていた、佳澄に…。

…彼女のことを思うと、複雑な気持ちになる。
仲の良い友達だった佳澄。私も古乃羽も、彼女のことを大好きだった。
もし普通に生まれて、普通に出会っていたら――きっと、親友になれたと思う。
彼女の服の趣味や仕草、言葉遣いは、今も覚えている…。

知らぬ間に現れて、何も話せないまま消えてしまった佳澄。
今、佳澄のことを覚えているのは私たちだけだろう。

彼女の事を聞いて回ったときの、その印象の薄さには驚かされた。
そんな風に存在を消して、誰とも関わらないようにして…唯一覚えている私たちにさえ、時間と共に忘れられていく。
それで、佳澄は幸せだったのかな、と思う。

話がしたい。もう一度、佳澄と話をしたい。仲良くなりたかった。
…そうよ。佳澄とも…。佳澄とだって――

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――ふと、視線を感じて振り向く。
誰かにジッと見れらているような気がしたけど…気のせいかな?
…って。
何もせずに靴屋の前に突っ立っていたら、変な目で見られることもあるか。
私は物思いに耽るのを中断して、その場を離れる。
…今度、古乃羽とここに買い物に来ようかな。
古乃羽なら、私の気持ちを分かってくれる。
一緒に佳澄の話をして、彼女の事を忘れないように――

――視線。
立ち止まり、振り向く…けど、誰も居ない。
…いや、普通に歩いている人は何人も居るけど、視線の主らしき人は分からない。

ん、もう…。ナンパ?それとも何か、変な人?
姿を見せないってことは、ストーカーだったりして?
だとしたら…返り討ちにしてやる。
襲い掛かってくるようなら、人中めがけてグーパンチよ。容赦しないんだから。
急所を狙って攻撃して、爪立てて引っ掻いて、めちゃくちゃ大きな声出して…

声「あの…」
…なんて乙女らしからぬ事を考えていると、後ろから声を掛けられる。
私は振り向き、声の主をキッと睨みつける。
すると、そこに居たのは――

往来会で会った、広報部長さんだった。

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――
勇気を出して声を掛けたはいいが、いきなり睨まれてしまった。

声の掛け方がマズかったか?
そもそも街中で女性に声を掛けるなんて、私にとってはまさに偉業。
プライベートでは初めての経験だった。

私「あ、あの…すみません。決して怪しいものでは…」
慌ててしまい、怪しさ満点の事を口走ってしまう。

神尾「あ、いえ…こちらこそ、すいません」
相手も何やらアタフタとしている。
突然声を掛けたから、驚かせてしまったのかもしれない。

私「えっと…私、往来会という――」
神尾「汐崎さん、ですよね」
私「あ…はい。よかった、覚えてくれていましたか」
神尾「はい」
そう言って彼女――神尾美加は、ニッコリと微笑む。

…うむ。真奈美に勝るとも劣らない、良い笑顔だ。
その笑顔のお陰で、私は何とか落ち着きを取り戻す。

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――そして数十分後、私は神尾嬢と近くの喫茶店で向かい合っていた。
ナンパと間違えられないよう、必死に、慎重に会話をして、ここまで誘えたのだ。…その内容は自身の名誉のために割愛する。
最も、私が「お話したい事と、お聞きしたい事があって――」と言うと、
彼女が予想以上に乗り気になり、ほいほいとついて来てくれた訳だが。

…神尾美加。真奈美と同じように、名刺を受け取った女性。
私は、彼女の行っている大学や、家の住所までも知っている。
なぜなら、事務の三嶋さんが教えてくれたからだ。

三嶋課長と私は旧知の仲で、往来会では一番付き合いの長い間柄だ。
彼は私より10歳以上も年上だが、コツコツと仕事をこなす彼とはウマが合い、2人で飲みに行く事もしばしば。

そんな彼に、私は真奈美の事を相談した。
見知らぬ男から、桐谷達夫の名刺を受け取った、と。

すると彼は、私に3枚の資料を渡してくれた。
…一応、機密事項なので、渡してくれたのではなく、「手違いでコピーが渡ってしまった」という形で。
それは本部長から依頼されたという資料で、それで私は彼女の…神尾美加の事を知り、何とかここで捕まえることができたのだった。

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神尾「仕事じゃなくても、やっぱりスーツなんですか?」
ミックスジュースとか言う代物を飲みながら、彼女が聞いてくる。
喫茶店と言えばコーヒーか紅茶の2択しかない私は、こんなところで年の差を感じてしまう。
私「えぇ。この格好が落ち着きますから」

今日は仕事ではない事は、既に伝えている。
私個人として話がある、と。
私「それに、傍から見れば仕事に見えますし」
神尾「…ナルホド」

私の考えは伝わったようで、うんうんと頷く。
今、私がこうして彼女とコンタクトを取っている事…プライベートで会っているということは、往来会に知られると良くない可能性がある。

神尾「それで、お話って何でしょうか?」
やや警戒しつつの質問。
…それもそうだろう。
彼女が往来会に、多少なりとも疑いの目を持っていることは知っている。
本部長の話では、私たちが初めて会ったとき、恐らく彼女の仲間であろう誰かが聞き耳を立てていたらしいから。

しかし、だからこそ私は、彼女と話をする気になったのだ。

接触Aへ続く
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