扉(前)A

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私「…はい?」

まさか呼ばれると思わなかったので、キョトンとしてしまう。
藤木「ちょっと来てくれる?」
私に背を向けて座っていた藤木さんが、振り向いて言ってくる。

私「えーっと…」
お父さんは丁度こちらを向いている角度に座っているので、その顔色を窺う。
…と、うわ。何だか少し青い顔してる。

私「あの、私ちょっと――」
藤木「大事な話があるんだよ」
有無を言わせないような口調に、少しカチンとくる。
女の子を誘うなら、もっと優しく言いなさいよね。
お父さん、ちょっとどうにかして…と思い、再び父親を見ると、首を横に振っている。
無視して行け、ってことだ。
でも、そんなのって何だか失礼で…
藤木「ね、ほら…」
…とか思って躊躇していると、藤木さんが椅子から立ち上がる。
藤木「良い子だから、こっちに…」

気持ち悪い口調。ギラギラした目。
ヤダ、この人。生理的に受け付けない――

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父「真奈美は関係ないだろう!?」
不意にそう叫んで、お父さんが立ち上がる。
その様子に、私はすぐに逃げればいいのに、その場で固まってしまう。

藤木「関係あるかないかは、こちらが決めることなんですよ」
私の方に来ようとした藤木さんが立ち止まり、振り返ってお父さんに言う。

何でこんな険悪なのよぉ、もう。…あ、高城さん、高城さんは?
と思って見てみるが、彼女はこちらに背を向けたまま座っている。
顔が見えないので、どんな表情をしているのかは分からない。

父「そちらにそんな権利はない」
いつもは見せない怖い顔をして、お父さんが言う。
何があったのか知らないけど、もう修復不可能な関係みたいだ。
お父さん、上司と喧嘩して、クビになっちゃうのかな…

藤木「私はねぇ、穏便に済ませたいんですよ…。分かります?」
父「これ以上、何一つ従うつもりは無い」
睨み合う2人。
…でも、どう贔屓目に見ても、あっちの方が強そうだ。
若いし、ガタイも良いし…顔が乱暴そうだし。

う〜…止めないと、お父さんが怪我しそう。
でもでも、私、ここに居ちゃいけないような…でも何とかしないと…
と、心の中でジタバタしていると…

高城「2人とも、座ってくださる?」
ここでやっと、高城さんが口を開いた。

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父「…本部長」
お父さんが高城さんを見る。

高城「汐崎さん、前に言ったと思いますけど…私、見下ろされるのが嫌いなの」
父「…今は座りません」
高城「…そう」
ため息混じりに言う高城さん。
私としても、座って落ち着いて欲しいのにな。

高城「では、そのままでどうぞ…。藤木は?」
藤木「自分は、まぁ…座りますよ。もちろんね」
そう言って座る藤木さん。
うー…なんか、イヤーな感じ。

父「本部長、あなたは――」
高城「汐崎部長」
藤木さんが――ううん、もう藤木でいいや。
藤木が座ってから喋り始めたお父さんを、高城さんが制する。

父「…はい」
高城「今日、神尾という学生と会っていましたね?」

…?神尾?って誰だろう。今日会っていたって…?

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父「…えぇ、会いました」
高城「私は、この件については忘れろと言いましたよね」
澄ました声で言う高城さん。

父「…はい」
高城「それに対して、あなたは忘れますと返事をしましたよね」
父「…」
そんな高城さんを、ジッと見つめるお父さん。
どんな事を考えているのか、私でも分からなかった。

高城「残念ですけど…、私達と一緒に来てもらうしかありません」

――え?来てもらう、って…?
父「…今すぐ、ですか」
高城「えぇ。今すぐ」

ヤダ、何言ってるの?ダメ。ダメよ。絶対ダメ。だって――
名刺の名前。
私は名刺を受け取った翌日、ネットで調べたんだ。それで、普通じゃないことが分かった。
あれが殺人事件の被害者の物だ、ってすぐに分かった。
誰かに殺された人の名詞。…人が死んでるんだ。私は、それに巻き込まれたんだ。

そんな大変な事態の中、こんな風に有無を言わさず連れて行かれるなんて…。
どう考えたって、絶対危ない事になる。
最悪、お父さんも――

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父「分かりました」

え?
お父さんが簡単に了承するので、私は驚いてしまう。
危ないってば!ちょっと、何考えて…

藤木「それじゃ、ほら…。真奈美ちゃんも、ね」

えええ?何で私も?
名刺を受け取ったから?…それだけのことで?

父「だから、真奈美は関係ないだろう!」
凄い剣幕でお父さんが怒鳴りつける。
それを受けて、藤木が再びゆっくりと立ち上がる。

藤木「もう、この問答はしたくないですね」
父「何を――」
と言った瞬間、藤木がお父さんの顔面を殴りつける。

私「あっ…!」
鈍い音がして、崩れ落ちるお父さん。
高城「…藤木!」
高城さんが咎めるように言い放つ。

藤木「どうです?慣れたものでしょう。急所を狙えば、一発で気絶ですよ」
偉そうに言う藤木。
バカじゃないの!?この人…!

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藤木「さ、ほら…真奈美ちゃんは大人しく、ね?」
そう言いながら、こっちに近付いてくる藤木。
そんなことで大人しく従うわけないのに…!

私はキッと藤木を睨みつける。
…戦う?
冗談じゃない。17の乙女が勝てる訳がない。
すぐに、逃げるべきだ。
どこに?
勿論、言われた通り、お父さんの部屋に。
でも、お父さんが…
逃げる体勢を取りながら、私は倒れたお父さんを見る。

…と、その傍らに高城さんがしゃがみ込んでいた。
そして、その綺麗な手で、お父さんの顔を――殴られた辺りを触っている。
その仕草に、私は何か不思議な感じを受ける。
何だろう、これ…変な気持ち。
高城さんの横顔は、とても優しそうで…まるで――

…っと、いけない!
目の前に迫ってくる悪漢を忘れちゃいけない。
私は背中を向け、一目散に2階へと駆け上がって行った。

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2階のお父さんの部屋に逃げ込み、急いで扉を閉める。
…でも、この部屋にはカギが無いんだ。
これじゃ、閉めても…と思ったけど、閉まった扉を見て驚く。

お札。
その扉には、ビッシリとお札が貼られていた。

何のお札かサッパリだけど、20枚くらいある。
私、霊感とか無いけど…これはこれで、何か効果があるのかな?

そう思っていると、トントンと、階段を登る音がする。
1人…2人だ。2人とも来た。
大丈夫よね?お父さん…
私は祈るような気持ちで、扉に貼られたお札を見つめる。

やがて、足音が扉の前で止まる。
…逃げ込んだ場所は、丸分かりだったみたいだ。

藤木「真奈美ちゃーん。入るよー?」
そう言って、藤木が扉を…

藤木「あら?ノブが回らない…?」

――やった!効果ありだ!

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藤木「あぁ、これ、もしかして…本部長」
高城「…触るまで気付かないの?」

2人の会話が聞こえる。
高城「こんなにハッキリ、封がされているのに」
藤木「いや、どうもこういうのは苦手で…参ったなぁ」

参って参って。
意味は分からないけど、こんなに沢山お札が貼ってあるんだから、そう間単には――

高城「…退いていて」
高城さんの声が聞こえる。
何だか嫌な予感…。
藤木「こういうのは、お任せしますよ」

お任せします、って…高城さん?
私は不安な気持ちで、扉を見つめる。
すると…

私の目の前で、一枚ずつ、お札が剥がれ始めていった。

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剥がれたお札を拾って、もう一度貼ろうか…なんて思ったけど、私じゃきっと意味が無い。

これじゃ…このままじゃダメ…
私は部屋の中を振り返り、何か…っと、そうだ!机の引き出し――電話!

私は慌てて書斎机の所に行き、一番上の引き出しを開ける。
そこには、お父さんが言ったとおり、一枚のメモが置かれていた。
私は持っていた携帯を取り出し、番号を…

…あ、それより警察に電話した方が良い?
何て言って?
お父さんの上司の人が、お父さんを無理やり連れて行こうとしているんです?
…違う。無理やりじゃないんだ。お父さんは了承していた。
それに、私は子供。相手は…高城さんみたいな大人の人。
絶対に、私の言うことなんて通らない。
せめてあの名刺でもあれば良いのに、私の手元には今は無い…。

悩みながら扉を見ると、次々にお札が剥がれていく。
時間は余り無いのかも知れない。今は、お父さんの言う通りにするんだ――

私はそう思い、そこに書かれた番号に電話をする。
メモには相手の名前も書いてあり、そこには、「牧村陸」と書かれていた。
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