扉(後)A

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情に訴えるというのも何だか…だけど、なりふり構っていられない。
それに、高城さんなら分かってくれる…何となく、そんな気持ちもあった。

私は、お父さんのことを話す。
ずっと働き通しで、1人で苦労してきたお父さん。
そんなお父さんに、私がしてあげたいこと。
これからのこと。将来のこと。私の幸せを、一番喜んでくれるお父さんのために――

私「――分かってください…」
高城「…」
私「お願いします…!」
私は扉に向かって頭を下げる。

しかし…
高城「…無理よ」
返ってきた返事は、無情なものだった。

私「そんな…」
高城「もう無理なのよ、真奈美ちゃん。連れて行かれる事は、諦めなさい」
私「…イヤ」
高城「聞き分けなさい。もう――」
私「イヤです!」
私はそう叫ぶと、ドアノブを掴み、思いっきり扉を開け放った。

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扉を開けると、目の前には驚いた顔をした高城さんが居た。
…あの藤木って男は居ない。

私はそのまま彼女に詰め寄る。
私「お願いします!本部長何でしょう?それくらいの事――」
高城「――バカ…!」

高城さんがそう言い放つと同時に、バシッ!と乾いた音がする。

それは、私の頬が叩かれた音だった。
そしてすぐさま、私は部屋の中に突き飛ばされ、再び扉が閉められる。

何?何で…?
部屋の床に尻餅を付いたまま、少し呆けてしまう。
…頬が痛い。叩かれた所がジンジンと痛くなってきて…少し涙が出てくる。

高城「何を考えているの!?」
閉められた扉の向こうから、高城さんの声が聞こえてくる。
高城「今、あなたがここから出てきてどうするの?少しは考えなさい!」

私「だっ…」
だって、考えろって言われたって、そんな急に無理だもん…!
そう言いたかったけど、言葉にならない。

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高城「あなたのお父さんが、なぜ2人でここに逃げ込まなかったか、分からないの?」
私「そんなの…分からない…もん」
涙が溢れてきて、扉がぼやけて見える。
高城「何で私たちに素直に従ったのか、自分で考えてみなさい!」
私「そん、なの…」
この状況で、そんなに考えられない。叩かれて怒られて…涙が止まらない。

私「連れて…っちゃ、ヤダよぉ…」
扉越しに、泣きながら懇願する。
高城「…」
無言の高城さん。

私「もう…ダメ、なの…?」
高城「…こうなってしまったら、無理なの…遅いのよ」
私「でも、だって…連れて行かれたら、お父さんも――」
「殺されちゃう」と言おうとして、言葉に詰まる。
そんな言葉、口にしたくない。
言ってしまったら、現実になりそうで怖い。

高城「…大丈夫、そうはならないわ」
高城さんが言う。
私「ほんと…?」

高城「本当よ。…私が、お父さんを守るから」

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私「高城さんが…?」
高城「えぇ。約束するわ」

私「…」
意外な――でも、どこか期待した言葉を聞き、私はまた、不思議な気持ちになる。
高城「お父さんを、無事に帰れるようにするわ。…絶対に」
言葉に力強さを感じる。
再び扉を開けて高城さんの顔を見たくなるけど、まだ少しヒリヒリする頬の痛みに、思いとどまる。

高城「だからもう、泣かないで…ね?」
私「…はい」
高城「よかった…良い子ね」

「良い子」と言われて、胸がカッと熱くなる。
何だか照れ臭くて、恥ずかしい気持ち。
顔も赤くなっているかもしれない。

高城「真奈美ちゃん、これ、受け取ってくれる?」
私「はい…?」
何だろうと思い扉の方を見ていると、扉の下の隙間から何かが差し出された。

高城「私の名刺…。裏に、携帯番号を書いておいたわ」

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差し出された名刺を受け取り、裏を見てみると、確かに携帯番号らしきものが書いてある。

高城「落ち着いたら電話してくれる?…お父さんの状況とか、話したいから」
私「はい…!」
やった!ちょっと希望が…

…あ。

私「でも、落ち着くって…私、どうしたらいいのか…」
これから1人で、どうすれば良いのか分からない。
またあの藤木という男が、私のことを連れに来るかもしれない。

高城「…電話の人に、相談しなさい」

電話――あ、そうか。牧村さんだ。
私は振り向いて、机に置いたままの携帯を見る。

高城「きっと力になってくれるはずよ…。ダメでも、何とかお願いしなさい」
私「はい」
高城「藤木には手を出さないように、私から言っておくわ。安心して…」
私「はい!」
高城「ふふ…良い返事ね」
私「エヘヘ…」
少し笑みが漏れる。

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高城「それじゃ…あんまり遅いと藤木が戻ってくるから、もう行くわね」
私「はい…あの――」
私は扉に近寄り、お礼を言う。
私「ありがとうございます。それと…お父さんのこと、お願いします」

高城「任せて。約束は…守るから」
私「…お願いします」
扉から数歩下がり、ペコリと頭を下げる。

高城「真奈美ちゃん」
私「はい…?」
少し真剣な口調になる高城さん。
高城「辛いでしょうけど、頑張って…。負けちゃダメよ。気持ちで負けたらダメ…」
私「…はい」

高城「私も、負けないから――」

最後にそう言い残し、高城さんは帰っていった。

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――高城さんが帰った後、部屋の中で、私は牧村さんに相談をする。

まず今の状況を説明…と思ったけど、全て分かっているみたいで、私からは何も言う必要はなかった。
「ずっと聞いていた」ということらしい。
往来会についても何やら知っているようで、その説明も必要なかった。

とりあえず、一度会いたかったのでその旨伝えると、牧村さんはあまり遠出ができないそうなので、訪ねてきてほしいと言われる。

私は勿論そのつもりだったので了解すると、明日の夕方、迎えの人――雨月、鮎川という2人――を寄こしてくれると言ってくれた。

今後の事も決まり、私はお父さんの部屋から出る。

そして居間に降りて…そこを片付ける。
出していた湯飲みなんかは、高城さんが台所まで運んでおいてくれたみたいだった。

私はそこで、洗い物の続きをする。
今日の、夕飯の洗い物。お父さんと2人で食べていた、晩御飯の――

…もう泣かないと思ったけど、また少し、涙が溢れてきた。

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――
帰りの車内。

行きとは、まったく心境が変わっていた。

大切に思えるものがあって、自分にできることだってあるのに…なんで諦めていたのだろう。
あの子のためにも――彼のためにも、頑張らないと。
それがきっと、自分のためになるのよ。それくらいのこと、分かっていなかったなんてね…。

頬を叩いて、突き飛ばして…説教までして。
自分に、まだそんな感情的な部分があるなんて、思いもしなかった。

藤木「汐崎を本部まで届けたら、また行こうかなぁ…」
隣で藤木が呟く。
…まずは、この男を止めないと。

私「藤木、もうあの子には関わらない方がいいわよ」
藤木「え?」
なぜ?という顔でこちらを見る藤木。
私「忠告よ。あなたにとって、良い事は1つもないわ」

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藤木「いやぁ…口出し無用ですよ。真奈美ちゃんについては、自分に全て任されていますから」
偉そうに言う藤木。何を言わせても、相手を不快にさせる男だ。

私「それが問題なの。分からないの?」
藤木「…何がです?」

私「副会長は、あの子を連れてくることに関して、あなたに任せると言ったのよ」
藤木「そうですね」
私「あの子を連れ出したら、それはあなたの責任になるわね?」
藤木「まぁ…そうですが?」
私「実際に、あの子を連れ帰ったらどうなると思う?」
藤木「自分のお手柄ですかねぇ…」
ニヤニヤする藤木。
頭の悪さも、ここまでくると才能かもしれない。

私「バカね…。あの子、副会長のお気に入りよ?すぐに取り上げられるでしょうね」
藤木「…お気に入り?」
私「そう。そうなったら、あなたは指一本触れられないわ」
藤木「…」
私「でも、その後にあの子に何かあったら…それは、あの子を連れ出したあなたの責任になるの」
藤木「なっ…」

私「あなた、責任だけ負わされるのよ」

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藤木「なんでそうなるんだよ?」
藤木の口調が変わる。
私「副会長は、連れて来いって言った?」
藤木「確かに言ってないが…」

私「会の人間である汐崎と違って、真奈美ちゃんは普通の高校生よ?失踪すれば、当然騒ぎになるわ」
藤木「…」
私「彼女を連れ出したのは誰かというと…あなたになるわね。実際には、何も得られないのに。
…あなた、副会長にいいように使われているのねぇ」
藤木「っざけやがって…!」
そう良いながら、彼の顔はみるみる赤くなっていく。

私「あなたも社会人なのだから、責任の所在には気を付けたほうが良いわよ?」
藤木「クソッ…」
悔しそうに、拳で自分の膝を叩く藤木。
私「…元上司からの忠告よ。上手くやりなさいね、支部長さん」
ニコリと微笑んで、優しく言っておく。

藤木「あ?あぁ…。ありがとよ…」
私「…いいのよ」
お礼を言われてもまったく嬉しくない。

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藤木「俺をハメる気だったのか…?あの爺さん」
私「それは無いわよ」
藤木「…そうか」
私「あわよくば、ってとこでしょうね」
藤木「畜生…そうはいくかよ。ジジイが…」

そうなりそうだったクセに、よく言う。
本当に、愚かな男…。

何が愚かって、ハメられそうになったことじゃない。
今、私にこうやって良いように言い包められていることでもない。

この場で暴言を吐いていることだ。

車の後部座席に乗っている私たち。
トランクには、気絶した後、運びやすいように眠らされている汐崎。
そして…運転席には、副会長の部下。
暗い目をしている、この部下――彼を通して、この会話も全て副会長に伝わるだろう。
そんなことも考えず、好き勝手に話す藤木。

…まぁ、彼がどうなろうと、私の知ったことじゃない。
私にはもっと、大切な――しなければならない事が、沢山できたから…。
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