究明(後)@

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時計を見ると、時刻は21時半を過ぎていた。

ここで会ってから、1時間か。
店内には、俺たち以外ほとんど客は居らず、こちらに聞き耳を立てているような怪しい者も見受けられない。

これからする話は、決して往来会の人間に聞かれてはいけない。
…この2人のためにも。

テーブルから、2人の紅茶のおかわりを持ってきた店員が離れるのを待ち、俺は話を始める。

俺「副会長が持っている壷については、まだ秘密があってね」
高城「秘密?」

俺「覗き込んだだけで霊感が身に付くなんて、そんな甘いものじゃないのさ、アレは」
真奈美「どういうことですか?」

俺「アレは、人を殺す道具だよ」
真奈美「え…」

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俺「覗き込んだ人間から光を奪い、殺してしまう。アレは、そういった物なんだ」

それが、桐谷の家に伝わっていた話。
そして、それについて、より具体的な事を聞かせてくれた人もいる。

「その人間の輝きを…人としての大切なものを削り取って、狂わせる」
その人は、そう教えてくれた。

俺「でも…大抵の人間は死んでしまうけど、"素質"があると生き残ることができる」
そんな状態で生き延びることが、はたして良いのかなんて分からないが、それでも死なない人間がいる。
俺「そういった人には、もれなく霊感が身に付いているのさ」
真奈美「…」
俺「半分、死んでいるような人間だけどね」
真奈美「そんな…」

俺「往来会には、そういった人が何人か居るのでは?」
少々酷な質問かも知れないが、急に無言になった高城に聞いてみる。
すると、彼女は少し間を置いてからこう言った。

高城「…居るわね」

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高城「副会長の部下は、ほとんど暗い目をしているわ…」
俺「…暗い目」
高城「えぇ…。あと、外に出て除霊活動をしている中にも数人…。私、何で気付かなかったの…?」
額に手を当てながら、高城が悔しそうに呟く。

真奈美「高城さん…」
気遣うような声を掛ける真奈美嬢。
そんな仕草に、2人の結びつきの強さを感じる。

俺「副会長が壷を手に入れてから――恐らく、往来会の設立と同じと考えて、約20年。その間に、彼は相当な数の人間にそれを使っているだろうね」
高城「そうね…」
俺「それで、何人の人間が命を落としているか…」
高城「…」
再び無言になる高城。
別に彼女を責めるつもりは欠片も無いが、彼女の立場上、そんな形になってしまう。

真奈美「あ、あの…」
そんな空気を察してか、真奈美嬢が口を開く。

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俺「ん?」
真奈美「桐谷さんは、その、それを取り戻して、どうするつもりですか?」
俺「あぁ、それは勿論――割ってしまうつもりだよ」
真奈美「…ですよ、ね」

それは別に、世のため人のため…ではない。
自分のために、だ。

桐谷の家は、あの壷によって呪われている。
家に生まれた人間は、総じて早死にをするのだ。
それも、必ず上から順番に。

自分の"上"の人間が死に、自分の番が来ると、夢を見る…と、親父が教えてくれたことがある。
それは壷の夢で、壷の中で渦巻いているものに、自分が引きずり込まれるような夢だ、と。

原因が壷にあるのなら、それを破壊してしまえば良かったのにと、俺たちは親父に言った。
…しかし、そんなことは当然誰もが考えたことであり、誰もが実行しようとしたことだった。
そして、その結果はいつも同じだった。
親父でさえ――壷の呪いだと俺たちに教えてくれた親父でさえ、昔、壷を破壊しようとしたが、できなかったのだ。
理由を聞くと、急に目の色が変わり、ただ一言こう言った。

「あんなに愛しいものを、壊せるわけが無い」と。

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俺と兄貴が生まれる以前に、桐谷の家からは壷が盗まれていた。
そのために親父は、俺たち兄弟は平気なのだと、信じるようにしていたらしい。
俺たちも根拠は無いが、そう思うことにしていた。

…しかし今から7年前、親父とお袋が事故で亡くなる。

その葬式が終わった後で、兄貴が俺に言った。
「壷の夢を見た」、と…。

俺「――それから、盗まれた壷を探し始めた訳さ」
俺はそう言って、2人の顔を見る。

真奈美「…」
真奈美嬢は、やや深刻そうな顔をしている。
この子には、ちょっと重い話だったかな?

一方、高城沙織は…
高城「あなたになら、それをどうにかできると思っているの?」
…と、質問をしてきた。
この反応の違いは年の功?なんて言ったら、流石に怒るかな。

俺「実際にご対面したことが無いから、正直分からないけど…とにかく、やってみるさ」
高城「…そう」

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きっと、ダメだろう。

俺には壷を割ることはできない。それは分かっている。

俺は既に、夢を見てしまっている。
もちろん、見る前でも同じだっただろうが、その時点でもう、あれには逆らえないと悟った。

…だが、手が無い訳ではない。
とにかく見つけ出して、手元に戻ってくれば良いのだ。
そうすれば、後は――あの人がやってくれる。

俺「俺からの話は、以上だよ」
すっかり冷めてしまった珈琲を飲みながら、2人に言う。
俺「結局、自分の都合と言われればそれまでだけど、これがこちらの事情さ」
高城「…」
真奈美「…」

…無言。

うーん、やはり気が重い。
高城はともかく、汐崎真奈美には到底納得できる話ではないだろう。
彼女は、完全に被害者だ。言い訳がましくならないように話したつもりだが…。

究明(後)Aへ続く
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