究明(後)A

7/13
高城「とりあえず――」
しばしの沈黙を破って、高城が口を開く。

高城「事情は分かったわ。真奈美ちゃんも、納得するしないは別として、事件の背景は理解できたわね?」
真奈美「はい」
返事を聞いて、真奈美に微笑む高城。
いい表情だな…と思っていると、こちらに向き直り、すぐに厳しい顔になる。

高城「それで、桐谷さんはこの後どうするおつもり?」

話を締めに掛かる高城。
やれやれだ。
結局主導権は取り返せず、俺からの話だけで終わり。こちらからは何も聞けず仕舞いだ。
…まぁ、既に大体のことは掴んでいるが。

俺「動くのを待ちますよ。神尾美加が」
彼女は動く。すぐに、必ず。
その時が勝負だ。

高城「そう…。これ以上被害者が増えないように、気を付けてね」

最後に、本心なのか皮肉なのか分からないことを言われ、話し合いはお開きになった。

8/13
――
桐谷「お尋ね者なので、先に失礼しますよ」

そう言って桐谷は席を立ち、簡単な挨拶だけして帰っていった。
…一応、私たちの会計も済ませてくれたようだった。

私「真奈美ちゃん…大丈夫?」
桐谷が帰ってから、黙り込んでしまった真奈美ちゃんに声を掛ける。

真奈美「あ…はい。ちょっと考え込んじゃって」
私「お店、出ようか。車で話しましょう」
真奈美「はぁい」

2人で外に出て、車に乗り込む。
周囲を警戒してみたけれど、これといって怪しい視線は感じなかった。
桐谷も、どこにかは知らないが、真っ直ぐ帰ったようだ。

私は車を出して、真奈美ちゃんの家に向かう。
時計を見ると、時刻は既に23時前だった。

9/13
私「ごめんね、こんなに遅くなっちゃって」
真奈美「いえー、連れてきてくれて、嬉しかったです」
私「なら良かったけど…」

私は散々悩んだ挙句、彼女を連れて行くことにした。

冷静に考えてみれば、桐谷を捕まえても根本的には何も解決しないことは、明らかだった。
それに、真奈美ちゃんにも事件の真相を教えてあげたかった、というのもある。

そして、その結果――
桐谷の動揺を誘うことができ、こちらの望むように、話を聞きだすことができた。

…もっとも、全てではないことは分かっている。
彼の中には、「話してはいけない事」がいくつかあるような様子だった。
その点は少し気になったけど、今はそれでも良い。
初めから、全てを聞き出せるとは思っていない。

真奈美「なんか、桐谷さんも大変ですよね…」
高城「…」
真奈美「結局あの人も、自分の知らないところで大変なことになっていて、助かるためには、あれこれしないといけない状況で…」

桐谷に同情的な真奈美ちゃん。
優しい子だな、と思う。

10/13
真奈美「私達も、今は待つしかないのかなぁ…」
高城「そうね…」
ハンドルを切りながら、真奈美ちゃんの呟きに答える。

往来会の…副会長の秘密を知ってしまった。
こうなった以上、真奈美ちゃんを副会長に近付ける訳にはいかない。

彼は、真奈美ちゃんを気に入っていた。
…素質があるから、と言って。

これは間違いなく、壷に関する素質のことだ。
副会長は、真奈美ちゃんにそれを見せるつもりだったのだろう。
事件の有無に関係なく…。

この件が無ければ、私は何も気付かなかっただろう。
汐崎さんもまた然り。
そうして、誰も知らぬまま…誰も助けられぬまま、彼女は壷を覗き込むことになっただろう。

そう考えると、恐ろしくて…悔しくて、仕方ない。
副会長は、堂々とそんな事をしようとしていた。
…いや、してきたのだ。今まで、ずっと…。

11/13
やがて、真奈美ちゃんの家の前に着く。
深夜だったので、思いのほか早く着くことができた。

私「それじゃ、何かあったらすぐに私か…牧村さんに連絡するのよ?」
真奈美「はぁい。送ってくれて、ありがとうございますー」
そう言って、真奈美ちゃんは車を降り…と。
真奈美「あー…そだ」
シートベルトを外したところで、真奈美ちゃんの動きが止まる。

私「何?」
真奈美「今日の話、牧村さんにした方が良いと思います?」
私「そうねぇ…」

巻き込むことを考えると、言うべきではない。
でも…

私「話すべきね」
真奈美「はーい。了解です」
相談するのに、力になってもらうのに、隠し事をしていてはダメ。
それに、こちらがどれだけ危険な状況かも、知ってもらう必要がある。

12/13
真奈美「で、あのぉ、もう1つ…」

何やらモジモジして、真奈美ちゃんが言ってくる。

私「なぁに?」
真奈美「あのぉ、名前で呼んでも良いですかぁ…?」
私「…?」

名前?

…あぁ。
私「もちろんよ。沙織です、よろしくね」
突然話が飛んだので、何のことか分からなかった。

真奈美「良かったぁ、それじゃ…」
そう言って、真奈美ちゃんは車を降りる。

真奈美「沙織さん、ありがとうございましたぁ」
私「おやすみなさい、真奈美ちゃん」

玄関の前に立ち、満面の笑みで手を振る真奈美ちゃんにさよならを告げ、私は車を出した。

13/13
…良い子。それに、強い子。
帰りの車の中で、そんなことを思う。

父親が捕まってしまい、家に1人。寂しくて、不安で仕方ないだろう。
でもそんな素振りは少しも見せず、私に笑顔を見せてくれる。
汐崎が捕まってしまったのには、私にも原因があることを知っているからかもしれない。

…そう。私にも原因があるのに、あの子は私を好いてくれて、信じてくれる。
私も、あの子が好きだ。
きっと良い関係になれるだろうな、と思う。

でも――。

汐崎さんは、私の事を憎んでいる。
きっと今も、殺したいほどに憎んでいる…。
そう考えると、気分が滅入ってしまう。

もし、全てが上手くいくなら。
彼の気持ちが、こちらに向いてくれたら。
少女趣味と言われそうな、私の夢――好きな人と幸せな結婚をして、幸せな家庭を築けたら…。

この年になって、そんな空想をするとは思わなかったけど、そう考えると心が落ち着く。

これからどうなるか分からないけど、どんな時でも強い気持ちでいられますように…。
私はそう、自分自身に祈った。
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