求める理由A

7/13
私「あ…本当ですか?」

おっと、意外。
こういうのは、からっきしダメだと思っていたのに。

夏目川「えぇ、問題ありません」
人の良さそうな笑顔で、そう言ってくる副会長さん。
その表情に何となく引っ掛かるものを感じたけど…考えすぎね。

夏目川「実は、結構多いのですよ。霊感を求めて…という方」

そうだろうなぁ、と思う。
そういうものに憧れる人って、きっと沢山居るわよね。
私の場合、憧れとはちょっと違うけど、そういった気持ちはよく分かる。

夏目川「軽い気持ちで…と言っては失礼かもしれませんが、単なる憧れだけで来られる方は、まず無理です」
私「…」
なんだか、心を読まれたように言われる。

夏目川「ですが、今の神尾さんのように、しっかりとした目的を持って来られた方なら、問題ありません」

私のように。
私の…

…私がどんな目的を持っているか、知っている?

8/13
私「あの…」
夏目川「はい」
私「私の…その、目的を?」
私は思った疑問をぶつけてみる。

夏目川「…私も長年、こうした仕事をしていますからね。大体、分かるものなのですよ」
私「へぇ…」
伊達に副会長はやっていない、ってことかな?
それくらいの事…私みたいに単純な人間の考えなら、簡単に分かってしまうのかもしれない。

夏目川「ご自分の切実な願いを叶えるために、霊感を求め、多くの方がこちらに来られます」
淡々と話し出す副会長さん。
夏目川「そういった方々の中で、最も多い願いというのが…神尾さんと同じ願いでして、それは――」

切実な願い。
最も多いという、切実な願い。
…そうかも知れない。だって、他にどうしようもないもの…。

夏目川「死んでしまった人に会いたい、話がしたい、というものなのです」

…私には、会いたい人がいる。
それは、優理ちゃんや佳澄だけじゃない。
私が一番会いたい人。それは、私の――

9/13
――
中学1年のとき、2つ年上の、3年生の先輩に恋をした。

先輩は、カッコイイわけでも、勉強ができるわけでもなかった、普通の人。
私の周りの友達は、みんな「何で?」って言っていたけど、古乃羽だけが分かってくれた。
その人は今思ってみても、15歳とは思えない、落ち着いた雰囲気を持った”大人”の人だった。

告白は、私の方から。
彼は凄く驚いていたけど、すぐにOKの返事をくれた。
初恋って訳じゃなかったけど、誰かと付き合うのは初めてで、それは相手も同じだった。

告白も上手くいって、これから恋人同士の幸せな時間が…と思いきや、彼は3年生。
…つまり、受験生。
勉強ができる方でもなかったから、親の意向もあって"良い高校"を目指していた彼は、毎日のように塾通い。
平日に会える時間は限られ、まともに会えるのは土日だけ。
しかしその土日も、模試だのなんだので徐々に…という有様。

会うのは毎日、メールも電話も毎日、って恋愛を望んでいた私にとって、これはちょっと辛かった。
何しろ、私の周りの子たちは、みんなそういった恋愛をしていたから。

10/13
そんなだったから、古乃羽にはいつも愚痴をこぼしていた。

雨月君と付き合うまで、恋愛には興味が無さそうな古乃羽だったけど、彼女には随分と励まされた。
彼の方も、空いた時間は私のために使ってくれて、受験が終わるまで、とお互いに言い聞かせながら、なんとかその時期を乗り切ることができた。

…でも。
今思うと、当たり前のこと。
受験が終わり、彼が高校に入ると、会える時間は更に減ることになった。
"良い高校"で勉強についていくには、遊んでいる暇がない…という、そんな理由だった。

きっとこんなことはよくある話で、本人たち以外には、つまらない話。
でも本人たちには、辛い話。

周りの子から、彼氏とどこに行っただの、何をしただのという話を聞くと、私は羨ましくて仕方がなかった。
「別れた方がいい」「もっと他に良い人がいる」「何組の何とか君が、美加のこと…」なんて、色々と言ってくれる子も居た。

でも、別れるのはイヤだった。
私は彼が好きで、彼も私が好き。…なのに別れる?
そんなのはドラマの中だけの話で、私に起きることじゃない。
自分がそんな風になるなんて、恋愛経験の乏しい14の私には、受け入れ難いことだった。

11/13
そんな風に過ごしていた、ある日。

融通を利かせてくれない彼――と思っていた。最低…――と、ついに大喧嘩をしてしまった。

大喧嘩と言っても、勿論、私からの一方的な攻撃。
恥ずかしくて、その内容なんて言えない。
とにかく私は、その日、久しぶりに会えた彼に対して不満を爆発させた。

散々勝手な文句を言って、最後に大嫌いと言い放ち、私は家に帰った。
もし今の私がその場に居たら、胸ぐらつかんで引っ叩いてやりたいところだ。

それから2日間、意地を張った私は、彼への連絡をしないでいた。

そして、何だか不安な気持ちになってきた3日目になって、彼にメール。

…彼からの返信は無し。

代わりに、彼のご両親からの返信。

そこで私は、彼が事故死していたことを知った。
事故があったのは、私が八つ当たりをした、翌日のことだった。

12/13
きっとこれはよくある悲しい話で、私は知らない間に、悲劇のヒロインになっていた。

それから数日間、どうやって過ごしていたのか、よく覚えていない。
家から出る気にならず、学校は休んでいた。
でも、一日中何をして過ごしていたのか、記憶に無い。

覚えているのは、辛い気持ちだけ。
ただずっと辛くて、もう生きていける気もしなくて、死んでしまいたかった。
今までで、あの時が一番、死に近い場所に居たと思う。

でもそうしなかったのは、私にそんな勇気がなかったのと、古乃羽が居てくれたからだった。
…と言っても、私と同い年で子供だった古乃羽が、私を上手く諭すような事を言ってくれた訳じゃない。

ずっと学校を休んでいたある日、古乃羽が私のお見舞いに来てくれた。
それまでに何回か、友達みんなで来てくれていたけど、その日は古乃羽1人だった。

私はそのときに、彼女に全てを話した。
彼が亡くなる前の日、私が彼に言ったことを、初めて人に話した。
今までに、その話をしたのは古乃羽にだけだ。

13/13
話を聞いた古乃羽は…大声で泣き出した。
文字通りの号泣で、見ていた私も、自分の境遇を改めて思い出し、一緒になって泣いた。
私の部屋で、2人で抱き合って泣いて…そのまま泣き疲れて、寝てしまった。

それで目が覚めたら、気分スッキリ――

…なんてことは、もちろん無い。
泣きすぎてか、ちょっと頭が痛かったくらいだ。

ただ――、私の横で、私の手を握ったまま寝ている古乃羽を見たとき、もし私が死んじゃったら、古乃羽はどうなっちゃうんだろう、と思った。

それだけで、私は救われた。

きっと、他の人にはあまり分かってもらえる気持ちではないと思う。
でも、命って何だろう、生きるってどういうことだろう、なんて事を考えるようになっていた私には、それだけで十分だった。

…オカルトに興味を持つようになったのも、その頃から。
古乃羽の趣味だったオカルトの世界に、私が入っていった理由の1つは…やっぱり、彼のこと。
もしかしたら、もう一度会えるかも…なんて、そんな考えがあった。
いつかその方法に巡り合えた時、私は迷わずに手を伸ばすつもりでいた。

そしてやっと…今、そのチャンスが来た。
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