巡り会い

1/13
なぜここに三島が?という疑問は浮かんだが、私は落ち着いて彼に言う。

私「三島。今は――」
三島「会長が、神尾様とお会いしたいそうです」
私「…何?」

三島が私の言葉を遮り、予想外のことを言う。
会長…?アレが何故?神尾に会うだと?

三島「隣のお部屋でお待ちです」
私「…」
既にここに来ている?
しかも、神尾に会うつもりで?
それはつまり…神尾がここに来ることを知っていた、という事か。

…フン。

私は箱から手を離し、神尾に言う。
私「申し訳ありません。先に…会長に会って頂けますか?」

私としては、こう言うしかない。
仮にも、会長様だ。
ここで拒否して、神尾美加に不審がられることは思わしくない。

2/13
三島「…では、こちらにお願いします」
神尾「あ、はい…」

そう言って、神尾は三島に連れられて部屋を出て行き…すぐ隣の部屋に入っていった。
…中の様子を覗き見るわけにはいかないが、私は部下に命じて、部屋の外で見張らせる。
念のためだ。逃げ出さないように、念のため。

そしてそれから、考える。
会長が…今まで沈黙を続けていたアレが、神尾に何を言うのかを。

会長はもちろん壷の秘密を知っており、そして…訳あって壷の破壊を望んでいる。
恐らく、会長の口からは壷の秘密が語られるだろう。
そして、その破壊を依頼するだろう。
それだけ考えれば、これは非常に危険な事態だが…

神尾が言う事を聞いて、壷を破壊することは無い。

会長と神尾に面識は無い。これは絶対だ。
突然現れた、初対面の相手。
その相手の言う事を全て信じて、ここまで来ておきながら、長年の自分の念願を果たせる物を破壊する…?

有り得ない話だ。
例え神尾がそれを信じたとしても、それくらい、私が払拭してやる――。

3/13
――
不安はあった。

「霊感を身に付けるために、特別な壷を使います」

ここに来て副会長さんの口からそう聞いたとき、私は雨月君から聞いた話を思い出していた。
舞さんからの伝言で、「壷に気を付けて」という話を。

でも…私には止められなかった。
私にとって霊感を求める気持ちは、何よりも大きなものになっていたから。

そんな私に、往来会の会長さんが会いたい、と言っているそうで…
私は、その隣室に案内されたわけだった。

三島「神尾様をお連れしました」
三島と呼ばれていた男の人が、先に部屋に入り、奥に向かって声を掛ける。

彼に続けて部屋に入った私は、そこで往来会の会長さんと対面する。

――そこに居たのは、1人の初老の女性だった。

4/13
この部屋も先ほどの部屋と同じく和室で、部屋の中央に大きなテーブルが置いてあり、その向こう側に会長さんが座って、私を待っていた。

テーブルのこちら側には、座布団が1つ。
私は三島さんに勧められ、そこに座る。
三島さんは…というと、部屋の入口まで下がり、そこに静かに座った。

なんて言うか、この人――三島さんて、感じの良い人だな。なんてことを、ちょっと思う。

まぁ、それはさておき…。

座布団に座り、私は会長さんをジッと見つめる。
着物を着ていて、物静かな感じ。
年は…60くらいかな?お婆さん、って呼ぶには微妙な年頃ね。
穏やかな顔でこちらを見ている。

んー…なんだろう。
少し、不思議な感じ。
初めて会うはずだけど…どこかで会ったような?
他人のそら似かな…?

5/13
私「あの…はじめまして、神尾美加です」

会長さんは何故か何も言ってこないので、私から挨拶をする。
すると、会長さんが口を開く。

会長「はじめまして、神尾さん…。源川恵子と申します」

…え?

優しい声。
でも私は、その名前に動揺してしまう。

源川?それって――
偶然?関係ない?

源川「お会いするのは、初めて…。でも、すぐに分かりましたよ」
私「あの――」
源川「私があの子にあげた、翡翠…それのお陰ね」

やっぱり…!
源川は、優理ちゃんのお母さんの旧姓だ。
だとしたら、この人は…

源川「優理の伯母になります。あの子の事、本当にありがとう…」

6/13
私「優理ちゃんの…」
びっくりだ。
こんなところで…世の中、狭すぎよ。

源川「えぇ。…ふふ、驚きました?」
そう言って、微笑む源川さん。
上品な仕草。綺麗な人。
優理ちゃんも大きくなれば、この人の様になったのかもしれない。
大きくなれば。大きくなれていれば…。

源川「貴女には、一目会いたかったの。会えて嬉しいわ」
私「あ、いえ…そんな」
女の人が相手でも、会えて嬉しいなんて言われると、少し照れてしまう。

源川「あの方の仰ったとおり…」
私「…え?」
源川「ふふ…」

穏やかに微笑む、源川さん。
あ、良いなぁ…この感じ。
優しくて、暖かい感じ…。

7/13
源川「あの子は…ラットは、お元気かしら?」
私「え?…あ、はい。元気一杯です。もう、可愛くて…たまに、添い寝してもらっちゃったり」
源川「あら、良かった…。あれは、妹の容子もずっと大事にしていたものだから…」
私「へぇ…」
源川「私も羨ましくて、取り合いになった事もあったわねぇ…」

懐かしそうに話す源川さん。
うーん…ラット君は、モテモテだったのね。
それを、今は独占しちゃっている私。
何だかちょっと…いい気分?

源川「可愛がってあげてね。容子も優理も、きっと喜ぶから…」
私「それはもう…」

もちろんだ。
蔑ろになんてしたら優理ちゃんは悲しむだろうし、可愛がってあげたら、きっと心から喜ぶだろう。
よかったね、って言って。

…そう。きっと、そう言って喜ぶ…。

8/13
源川「…神尾さん」
私「はい…?」
急に源川さんが真剣な顔になる。

源川「これから貴女は、あの壷を見ることになるでしょうけど…」
私「…はい」
霊感を得るための話だ。
そう、私はこれからそうするつもり…。

源川「そこでね…、もし思い止まったら、あの壷を、割って欲しいの」
私「…え?」

…突然、何?

私「割るって…割っちゃうのですか?」
源川「そう」
私「何でそんな…?」
私は当然疑問に思い、聞いてみる。

…が。

源川「理由は、言えないの」

答えは返ってこなかった。

9/13
私「…」
何だか無茶なことを言われて、私は困ってしまう。
そもそも、思い止まるようなつもりは無いのだけど…何か事情があるなら、聞いておきたいのになぁ…。

源川「理由は言えないけど…1つ、教えておくわね」
私「あ、はい」
慎重に、言葉を選ぶように、源川さんが言う。
何だか知らないけど、複雑な事情があるのかな…?

源川「優理の兄…暁彦の事はご存知ね?」
私「はい」
よく知っている。
…だって、殺されそうになったもの。

源川「暁彦もね、小さい頃にあの壷を見たの。…容子と一緒に」

私「…え?」
源川「それだけよ。今、私から言えるのはそれだけ…」
そう言って、源川さんは口を閉ざしてしまう。

私の中には、更にハテナが浮かんでくる。
それって…どういうこと――?

10/13
――
ガンガンと扉を叩き、私は声を上げ続ける。
もちろん何の返答も無ければ、扉が開く様子も無いが、私は続ける。

桐谷「…汐崎さん、落ち着きましょうよ」
部屋の真ん中で、座ったままの桐谷が私に言う。

私「それは…すまない。無理だ」
私はそう返し、再び扉を叩き続ける。

…そう、無理だ。

桐谷から話を聞いて、真奈美と本部長にも、危害が及ぶ可能性を知った。
私の命が――というだけなら、後は本部長が真奈美の面倒を見てくれるかも…なんて考えが少しだけあったが、どうやらそうもいかないようだった。

それが分かった以上、落ち着いて座ってなんていられない。
諦める訳にはいかない。

11/13
桐谷「あれですよ。ひょっとしたら、静かにしている方が、外の人間にとっては不気味かも知れませんよ?」
私「…」

桐谷にそう言われて、私は扉を叩く手をピタリと止める。
別に、その意見に賛同した訳ではない。
先ほどからの…ここに来てからの桐谷の態度に、一言、言いたくなったからだ。

私「…桐谷さん。どうして、そんなに落ち着いていられるのです?このままだと、2人共…」
桐谷「扉を叩いたところで、何も変わりませんよ」
私「それは私も分かっているが、何もせずに――」
桐谷「私達は所詮、掌の上だった、という訳ですよ」
私「…」

…諦めているのか。
桐谷は、既に諦めているのか。

私「…それでいいのか?」
私は扉から離れて桐谷の元まで行き、彼を問い詰める。
私「全ての行動が読まれていて、思い通りに動かされて…この有り様だ。それが悔しいのは分かる。でも、それで腐って、諦めて、何もせずにこのまま――」
桐谷「あー…いや、その…ちょっと違うのです」
私「思い――…ん?」

12/13
桐谷「諦めてなんていませんよ。壷のことを、諦めるわけがない」
私「…そうか」
何となく、肩透かしをされた気分になる。

桐谷「自分が言ったのは、何ていうか…もう、役目が終わったというか…。うーん…やっぱり、掌の上だった、って事なんですよねぇ…」
私「いや、だから副会長の思い通りになってしまったからと言って…」
桐谷「副会長じゃありませんよ」
私「…ん?」

桐谷「まぁ、まずは座ってください」
私「ん…あぁ」
そう言われて、私は桐谷の前に座る。

桐谷「全て副会長の思い通りだったのなら、それはやっぱり悔しくて、地団駄踏んでいるでしょうねぇ」
私「…違うのか」
桐谷「えぇ。…まぁ、実際、私は副会長にも負けてしまった訳なんですけどね」
頭をポリポリ掻きながら、桐谷が言う。

私「では、一体…」
桐谷「誰かは言えないのですが、副会長でも私でもなく、この状況を予想していた人が居るのですよ」

13/13
私「…予想していた?」
桐谷「最悪のパターンとして、だとは思いますけど」

桐谷は真剣な表情だ。
ヤケを起こして、適当なことを言っているようには見えない。
私は、それが誰であるかを考え――ピンとくる。

私「会長か?」
会長…あの源川会長なら、有り得なくも無い。
私は2,3回しか会ったことは無いが、不思議な雰囲気を持った人だった。

桐谷「いえ。違います」
…違った。
桐谷「でも、彼女は会長にも動いて貰うつもりのようでしたね」
私「…彼女?」
桐谷「…あ」

女性か。まさか本部長?…違うな。真奈美の訳はないし、神尾美加も違うだろう。他には、えっと…
桐谷「汐崎さんの知らない方ですよ」
私「…」
…なんだ。考えるだけ無駄だった。

私「で、それは…その人は、これからどうなると?どうするつもりなんだ?」
桐谷「さぁ…。何を考えているのか、私にもよく分からない人でしたからねぇ…」

桐谷はその人を思い浮かべてか、遠くを見るような目で、そう言った。
怖いサイト.com
ベストヒットナビ
感想・雑談はコチラ
もっと探す@AB
[戻る]
- mono space -