激流@

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炎の中、私は今日何度目かの眠り――失神から、目を覚ました。

あ、いけない…

慌てて真奈美ちゃんの様子を窺う。

…良かった。どこにも火は移っていない。

私はホッとして、彼女を抱き寄せる。
辺りには煙が満ちてきて、伏せていないとどうしようもない。
もはや立ち上がることができない以上…ここから出る術は無くなってしまった。

もし…
私の体が燃え出したら、私は真奈美ちゃんから離れないといけない。
燃え移ったら、大変。

そうやって、燃えて…灰になっても、私はこの子を守れるかな?
死んでしまったら終わり?それとも、霊になって守り続けることはできる…?

2/15
炎に囲まれ、その熱さにジッと耐えながら、私は以前、祐一さんを家に招いたときの事を思い出していた。

「どこかで、少しお話できませんか?」

夜遅い時間、電話で突然そんな事を言われたときは、心臓が止まるかと思った。

すぐに頭を切り替えて、”本部長”として対応したつもりだったけれど、あんな時間に男の人を家に招くなんて、軽率だと思われたかも知れない。

彼が家に来るまで、急いで掃除をして、着替えて、お酒の準備をして…でもきっと飲まないだろうから、お茶の準備もして。
あんなにドキドキしたのは、生まれて初めてのことだった。

でもそうやって期待し過ぎたせいで、実際の用件を聞いたとき…私は彼に、酷い態度をとってしまった。

事件から手を引かせるためとは言え、彼が何よりも大切に想っている真奈美ちゃんのことで、あんな風に脅して…。

上手くないやり方。
冷静さを失っていたのかも知れないな…と、そんな事を思う。

3/15
真奈美ちゃんは相変わらず眠ったまま、目を覚ましそうにない。

少し心配だけど…今は、それが幸いな気もする。
炎に包まれて、怖い思いも、苦しい思いもしないで済むから。

でもひょっとしたら…彼女は今、怖い夢を見ているかもしれない。
夢の中で、炎に焼かれているかもしれない。
苦しんでいるかもしれない。
それが気掛かりだ。

こうして抱きしめてあげれば、怖い夢から解放される?
優しく包み込むことで、見る夢は変わるもの…?

分からないけど、私にはもう、それくらいしかできない。
後は…そうだ。
子守唄でも歌ってあげようかな――…

…と、そんな事を考えていたときだった。

私の目の前に、"それ"が現れた。

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白い影。

そんなものは見たことがないけど、正にそれだった。
横になっている私の目の前に、白い影が立っている。
そして、それが徐々に人の形を成していき…やがて、女性と分かる形になる。

炎の中に浮かぶ、白いシルエットのような存在。
…幻覚かな?
それとも、これがあの…"お迎え"というもの?

それを見上げたまま、ただ漠然とそんな事を思っていると…頭の中に、声が聞こえてくる。
声の主は…目の前の影だ。
そして、その声を聞いて、何故か分かる。
これは、生きている人間の声だ。
でも、ここには居ない。居るのは…影?魂?
これは――生霊?

その声は、私に何かを伝えてくる。
しかし意識が混濁していて、聞こえてはいるけど、理解ができない。
でも、その中から1つの言葉を聞き取ったとき…私の頭の中で、何かが弾ける。

そして私は、すぐに行動に移った。

5/15
――
往来会本部前。

そこには消火活動を続ける数名の消防隊員と、大勢の野次馬が居た。

「火災が発生してから、建物の外に逃げ出してきた」という往来会の人の話では、中には誰も居ない、ということだった。

火は建物全体に広がっており、その様子から、出火元は1箇所ではなく、複数の箇所であることは明らかだった。
そしてそのことからも、消火を行っている隊員の多くは、これは放火によるものだと確信していた。

そんな中…。

燃え盛る炎に紛れ、微かな音が聞こえてくる。

隊員達は手を止め、その音に耳を澄ます。
野次馬達も声を潜め、その音を聞く。

それは、異常を告げる音。
助けを呼ぶ音。

――汐崎真奈美が父に言われて持っていた、防犯ブザーの音だった。

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その音の意味を悟った消防隊員が、隊長に指示を仰ぐ。

隊長は逡巡する。

往来会の人は、「中に人は居ない」と言っていた。
ならばこれは、何かの拍子で、ひとりでに鳴り出した音では…?
人が居ないと言われているのに、炎の中まで確かめに行く必要があるか…?

しかしそのとき、周りを囲む野次馬の中から、声があがる。
「中に誰か居るんじゃないのか?」

それと共に辺りがざわめき始める。
誰も居なければ、それで良い。しかし、もし居たら…?
隊員の誰もがそう考え、覚悟を決める。

そして、隊長の指示の元、数名の隊員が建物内に突入していった。
聞こえてくる音の、発信源を求めて。

…後日のニュースでは、こう報道される。

社団法人往来会のK県本部が全焼。
放火の疑いあり。

…死者1名、と。

7/15
――
源川会長との短い話を終え、私は隣の部屋に戻ってきた。

すると、待っていた副会長が私をジッと見つめ、こんな質問をしてくる。
副会長「秘密の話でもしていましたか?」

別に、秘密がどうのという話でもなかったので、よく意味が分からなかった私は答える。
私「いえ、特には…」

それを聞き、しばらく私を見つめた後、副会長は満足気に微笑む。

…なんか、嫌な笑顔。
でも私は、それどころじゃなかった。
頭の中で、色々なことがグルグル回っていた。

優理ちゃんのこと。
出会って、すぐに仲良くなって、キーホルダーを交換して…
最期には、あの子にとって一番大切だったもの――ラット君を預かった。

一緒に居た時間なんて、ほんの僅かの間だ。
でも私は、あの子が何を望んでいるか、何を喜んで、何を悲しむかを知っている。
源川さんと話をして、それが良く分かった。

激流Aへ続く
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